47 心配
翌日、治療院に立ち寄ったキースは昨日の出来事をシルビァーナに話す。そこでセルバとシャルティエルがまだ治療院に来ていない事を伝えられる。
「まだ来てないのか……」
「火傷の処置はすぐに行ったんだろ? だったらそこまで酷いことにはなってないと思うさね。」
「まぁ、それはそうなんだがな……」
シルビァーナの言う通り、恐らくは大丈夫だろう。だが、放置してよいかというとそうではないだろう。キースは医師でもなんでもない。やはり専門家に診てもらった方が良い。
「なぁ、シルビィ」
「なんさね」
「彼女の火傷の跡___やはり完治は難しいのか」
昨日見たシャルティエルの火傷の跡、あれはそう簡単に治るものではない。火傷した直後であれば、もしかしたらという考えもあったとは思うが……
「そうさね。あの火傷の跡、かなり深く傷ついている。アンタも知っているとは思うけど、熱傷はその深さによって重症度がかわってくる。彼女のそれは一番深いやつさね。皮膚はもちろんその下の脂肪組織、そして筋肉にまで達している。それが左半身全域に渡っていた。命に関わるモノさ。その後の治療で命は助かったけど、熱傷は傷を負ったまま塞がていく。そしてあの状態さね。ケロイドは治癒した結果さ。それが正常な状態なのさ。だからこそ、そこから以前のように直すとなると、治療するのとは全く別のもの。そこは医師や治療師の領域からは外れるものさ。無論絶対に不可能というわけではない。超高位の術者や一部のスキル持ちならば可能かもしれない。それこそ、聖王国にいる聖女とかいう桁の違う存在とかね。だけど、そんな領域の者なんてそうホイホイいるもんじゃない。そして___残念ながら私は一介の治療術師に過ぎない。私では彼女の古傷を元に戻すことは出来ない」
シルビァーナの発言にキースは顔をしかめる。シルビァーナは自身のことを一介の治療師といったが、彼女はかなり優秀な術師だ。その彼女が駄目となると一般の医師などではまず無理であろう。
「まぁ、確かに治すことは出来ないかもしれないけど、今より良い方向に持っていくことは出来る。そのために私は出来ることをする。それだけさね」
「そうか。まぁ、それしかないよな。」
「そうさね。そしてキース、アンタに追加で頼みたい事があるんだけど、また薬草を取ってきてくれないかい」
「それは構わないが、昨日と同じものでいいのか?」
「ああ、大体はおなじさね。ただ昨日とは少し違うのもお願いしたいさね」
「了解した」
「悪いね。それじゃあ、今一覧を書いて持ってくるからここでまってるさね」
しばらくして戻ってきたシルビァーナから紙を受け取り、キースは治療院を後にするのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日、翌々日、そしてさらに次の日。
その間セルバとシャルティエルが治療院を訪れることはなかった。
さすがに心配になったキースは、改めてセルバの元に足を運ぶことにした。そしてキーストと一緒にセルバの元に向かう人物が一人。
「シャルティエルさん、大事ないといいんですけどね……」
「そうだな。まぁ、本当に大変なことになってたらセルバさんが放っておくはずがないから大丈夫だとは思うけど……。とりあえず、一度様子をみてみないとな」
「はい」
キースの横をトテトテと歩いているテトが心配そうな表情を見せる。テトは治療院からの使いである。
テトと二人で屋敷についたキースは、以前と同じようにドアノッカーを叩いて訪問を知らせる。そして扉が開かれ中からミルヴァが顔を覗かせる。
「どうもミルヴァさん」
「これはキースさん、ようこそおいで下さいました。――あら?」
ミルヴァがキースの隣にいるテトに気がつく。テトは小さくお辞儀をして自己紹介をはじめる。
「はじめまして。治療院から伺いましたテトといいます。よろしくお願いします」
「あらあら、これはご丁寧に。私はミルヴァって言います。よろしくお願いしますね小さな治療師さん」
「あっ いえ、僕は治療師ではなく――」
「彼は将来立派な治療師になるだろう有望な若者ですよ」
「えっ!? ちょとキースさんっっ!!」
テトがびっくりした様子でキースに詰め寄る。
「はは、謙遜するな。いつも立派に仕事をこなしているじゃないか。俺は事実を言ったまでさ」
「なんですかそれっ! 僕をからかわないでくださいよ!!」
キースをポカポカ叩くテトにミルヴァが微笑ましい視線を向ける。それに気がついたテトは顔を赤くして俯いてしまう。
「照れるなてれるな」
「うぅぅぅ……」
「うふふ。それではお二人とも、ご案内いたしますね」
――――――――――
「キースさん、ようこそおいで下さいました」
「どうもセルバさん」
ミルヴァに案内されたキースは、後から部屋に訪れたセルバと挨拶を交わす。そして鞄から薬を取り出し、それをセルバへと手渡す。薬を受けたセルバは再び腰深く感謝の意を伝える。
そこでキースは気になっていたことをセルバへと尋ねる。
「それでセルバさん。その後のシャルティエルさんの様子はどうですか」
「はい。キースさんのお陰でだいぶ良くなっております。頂いた軟膏も毎日塗布しておりますので、傷の心配のおそらく大丈夫かと。本当にありがとうございました」
「――――セルバさん、あれはあくまで応急処置です。やはりきちんと治療院に診察に行った方がいい」
キースの発言を肯定するようにしてテトも口を開く。
「キースさんの言う通りです。一度シルビァーナさんに診てもらって下さい。もしうちの治療院に何か思うところがあるんでしたら、他の診察所でもかまいません。熱傷を放っておくのはあまりよくないと思います」
「――キースさん、そしてテト様、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。そしてお嬢様のことを思って頂き、ありがとうございます」
何度目になるであろうセルバの深いお辞儀をする。そして顔を上げたセルバは続けて言葉を発する。
「ですがお嬢様は、ここしばらく少しお疲れのご様子で……。ですので外にお出かけになるには少々。今は自室にて安静にしている所であります。ですので頃合いを見て治療院へお伺いにいこうかと思っております」
「……そうでしたか。ですが、あまり時間を置きますと……」
そう言いかけて、キースは言葉を飲み込む。彼らがそう言うのであれば、それ以上こちらが踏み込むべきではない。
「……わかりました。ではシャルティアさんが元気になりましたらその時は治療院に診察にいらしてください」
「はい。シルビァーナ様によろしくお伝え下さいませ」
キースとテトはその後セルバと幾らかの言葉を交わした後、屋敷をあとにするために出口の方へと足を運んでいく。
「キースさん、テト様、本日は誠にありがとうございました」
「いえ、それではまた後日様子を見に伺いますね」
「あっ、僕もまた来ます!」
「ありがとうございます」
キースとテトが屋敷から立ち去ろうとしたその時、部屋のなから何やら物音が聞こえてきた。その音の方へ視線を向けると、そこに部屋で休んでいるはずのシャルティエルが階段の上からこちらを見つめていた。
「お嬢様っ!」
「――これはシャルティエルさん。」
キースは軽く頭を下げ挨拶をする。
「体調が優れないとお聞きしましたが、お身体の方は――――」
キースが言い終える前に、シャルティエルが拙い足取りで、しかしかなり急いだ様子で階段を駆け下りてくる。当然うまく動かすことの出来ない半身では身体を流暢に動かすことが出来ず足をもつれさせてしまう。
「あっ!!」
「危ないっ!!」
セルバとテトが声を、悲鳴を上げる。そしていち早く動いたキースが階段まで駆け寄り、倒れ込んでくるシャルティアを既の所で受け止める。
「……ふぅ、なんとか間に合った」
かなりギリギリであったが、間に合ったことに安堵する。
「シャルティエルさん、階段を駆けたら危ないですよ。もっとお身体を大切に――」
「――――して……」
「……え?」
「――私の身体を直して……っ!!」
投稿時間が少し遅れてしまいました……。
なかなか時間通りにはいかないですね(汗
また新たにブックマークを頂きました。
ありがとうございます!!
引き続きお付き合い頂けますと幸いです!




