44 お使い
セルバとシャルティエルを治療院に連れて行った翌日、キースの元にテトが使いとして訪れていた。
「おはようございます、キースさん」
「ああ、おはようテト」
明るく爽やかな笑顔を見せるテトにキースも朝から気分良く挨拶を交わす。
「それで、朝からどうしたんだ?」
「はい、実はシルビァーナさんから使いを頼まれまして、それでキースさんの元に伺いました」
部屋へテトを招き入れ、水差しから木製のカップに注いだ水をテトへ差し出す。それを受け取ったテトはありがとうございますと言った後、両手で持ったそれを美味しそうに飲んでいる。ただの井戸水であるが、笑顔で飲んでいるテトはとても幸せそうである。その証拠に椅子に座ったまま両足を投げ出しプラプラと楽しげに動かしている。その子供っぽい仕草に思わず笑みをこぼすキースに、テトはハッと気がついたように足を止め姿勢を正す。
「別に畏まらなくってもいいんだぞ」
「いえ……。キースさんの前でお恥ずかしい姿を……」
「恥ずかしいって、テトはまだまだ子供なんだから、もっと自由にしていいんだよ。」
「で、でもっ! ……そんな子供っぽかったですか……?」
「子供っぽいというか、微笑ましいというか。テトはいつも楽しそうだな」
「そっ、それはキースさんが……」
「ん?」
「い、いえっ! なんでもないですっ!」
「そうか。ところで、シルビィから頼まれた用とは?」
「あっ、はい。コレです!」
テトは慌てた様子で鞄から一枚の紙を取り出し、それをキースへと差し出す。
「これは…」
それは幾つかの薬草の名が書かれていた一覧であった。
キースは普段治療院へ薬草を定期的に届けている。なのでこの紙もいつもと同じだと思っていたか、その薬草の一覧を目にし、それが間違いだと気づく。それはいつもと届けているものとは違っていた。
「急遽入用にでもなったか」
「治療院にも一応いくつかは置いてあるのですが、沢山あるというわけでもありませんので、それでキースさんにお願いすることになったと。そう聞いています」
「なるほど、了解した。それでいつ頃までに届ければいいんだ?」
受け取った紙を懐へとしまいつつ、納期についてテトに尋ねる。テトが言うにはそれほど急いでというわけでなないようだ。
「そうか。それじゃ明日にでも……いや、そうだな。今日の夕刻には届けるよ」
「大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない。今日は特にやらばければならない仕事があるわけでもないしな。こなせるもんは早めに済ませておく方が良いだろう」
「わかりました。ではシルビァーナさんには本日夕刻にと伝えておきますね」
ペコリとお辞儀をし、そのまま部屋から出ていこうとするテトをキースは声をかけて呼び止める。せっかく使いをしてくれたのにこのまま返すのは忍びない。だが駄賃を渡したとしても真面目なテトは受け取らないだろう。だからキースは別の方法で礼をと考える。
「実はこれから朝飯を食べに行く所だったんだが、一人で食べるのもなんだか味気なくてな。よかったらテトも一緒にどうだ?」
「っ!! はいっ! 是非ご一緒させて下さいっ!!」
元気よく応えるテト、その表情はどこまでも澄んだ笑顔であった。
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依頼された薬草類を集め終えたキースは、伝えていた予定通り夕刻に治療院へと足を運ぶ。そこでキースを迎えてくれたのはテトではなくソフィアであった。
「あ、キース…さん……。こんばんわ」
「こんばんわソフィア。これ頼まれていた薬草なんだが、テトは?」
「……テトくんは、お仕事で、外に出てます」
「そっか。それじゃあこれはソフィアに渡しておくよ」
「はい、わかりました」
鞄から薬草を詰めた袋を取り出しそれをソフィアへと手渡す。受け取ったソフィアはその袋の中身を確認した後それぞれを決まった棚へと移し替えていく。その動作には無駄がなくとても滑らかであった。
「治療院の仕事は慣れてきたか?」
「……あっ……、はい。シルビァーナさんもテト君も、とても親切にしてくれて。少しずつですけど皆さんのお役に立てるように、そう思います」
「そっか。そう思えるようになれてよかった。二人には感謝しなきゃな」
ここに来たばかりの頃のソフィアは、何に対しても不安そうに、怯えて暮らしていた。今もまだ完全に拭われたわけではない。だがそれでも、少しずつ前を向いて生きていける、その事がキースは嬉しかった。
「……はい。二人にはとても感謝、しています。 ……それに……キー」
「なにやら話し声が聞こえると思ったら、なんだ来てたのかいキース」
キースとソフィアが会話をしていると、そこにシルビァーナがその姿を表す。
「ああ、頼まれていたヤツを持ってきてたんだ。既にソフィアに渡してあるからあとで確認してくれ」
「そうかい、助かるよ。今代金を持ってくるから少しここで待ってるさね」
「了解した」
シルビァーナが部屋から出て行き、再び二人きりとなったキースとソフィアであるが、少しばかりソフィアの様子がおかしかった。何故か下を向きプルプルと震えているのだ。心做しか顔が赤いように思える。
「ん? どうしたソフィア」
「……いえ、なんでも……ないで…す……」
「そうか? ならいいんだが……」
その後当たり障りのない会話をしてシルビァーナが戻ってくるのを待つ。その間終始下を向いているソフィアにキースは少しばかり戸惑うのであった。
「それじゃあ、これが薬草の代金さね」
「ああ、確かに受けとた」
シルビァーナから代金を受け取り鞄の中へとしまう。これでとりあえず用は済ませたことになる。まだ夕刻ではあるが、これから新たに仕事をするには少々時間が経ちすぎているので、今日はこれで仕事終わりにするか。キースがそう考えていると、シルビァーナから声をかけられる。
「キース、あんた今日はもう仕事終わりなのかい?」
「ん? そのつもりだが」
「そうか、ならも一つ頼まれてくれないかい。」
「これからか? 時間も時間だし内容にもよるが……。どういった内容なんだ?」
「これをある場所へ届けて欲しいさね。本来ならこういったのはテトに任せているんだけど、生憎あの子には別の仕事を頼んでいてね。」
「そういえば、テトは今外に出ているんだっけな。荷を届けるだけならば構わないぞ。」
「そうかい、それは助かるさね。」
シルビァーナから荷を受け取る。そこまでかさばる荷物ではなかったので、それを代金と同じように鞄に仕舞っていく。
「それで、これを何処に届ければいいんだ?」
「ああそれはね____」
シルビァーナから届け先を聞いたキースは、黄昏の陽に照らされる町を目的地に向ってその足を進めるのであった。
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