43 切実な願い
治療院を訪れたキースたちは、治療院助手のテトに案内されシルビァーナが控えている室内へと辿り着く。
「来たねキース。それで、そっちのがキースの言っていたスレイナルド帝国から来たってお人かい」
「ああ、医師を探していたようだったからな。」
「厳密に区分するなら医師と治療師は異なるんだけどねぇ。まぁ受けるからには期待にそれるようにするさね」
「セルバ・イシュタインと申します。そしてこちらが私が主、シャルティエル様でございます。本日は私共の為に時間を取って頂き誠にありがとうございます。」
「これはご丁寧にご挨拶を。私はシルビァーナ。まぁ、どこにでもいるしがない治療師さね」
丁寧に頭を下げて自己紹介をしていたセルバであったが、シルビァーナの名を聞いた瞬間、何かに気がついたかのような反応を示す。
「シルビ……、シルビァーナ…… いや……、まさか……?」
「ん、私の名前がどうかしたかね」
「……っ、これは失礼致しました」
目の前で思考にふけっていたことに気がついたセルバは慌てて頭を下げ謝罪の言葉を口にする。
「いや、それは構わないが。いったいどうしたさね」
「ご無礼を承知で申し訳ないのですが__。シルビァーナ様は以前、帝国にいらっしたことが御座いますでしょうか」
「帝国にかい? そうさね。そんな長く居たってわけでもないけど、帝国には何度か足を運んだこともあったね」
「なんと……やはり……」
セルバは驚きの表情を隠すこともせず、そしてその顔には様々な感情が渦巻いているように見えた。
「なんという…………っつ! お見苦しい所を見せてしまい申し訳ありません。ですが……、ですが。神にも見放されただ落ちるばかりではと思われていたこの時に、まさかこのような巡り会いが起ころうとは」
「なんだい、さっきから仰々しいね」
セルバの妙な態度にシルビァーナは困惑した様子をみせる。それはそうだ。いきなりこんな態度をされたら誰だって眉をひそめるだろう。
「突然のことで申し訳ありませんでした。実はシルビァーナの事は、以前知人からその名を聞いたことがございまして。その者は、シルビァーナ様に大変お世話になったと申しておりました」
「知人?」
「はい。ジルオーネ様でございます」
「ジルオーネ? なんさ、アイツの知り合いだったのかい」
ジルオーネ、その名を聞いてシルビァーナは納得した表情をする。それは以前シルビァーナが帝国に足を運んだ際に、何度か顔を合わせた人物であった。彼の知り合いであれば自分の事を知っていても不思議ではない。
だが同時に疑問も生まれる。
ジルオーネは帝国貴族であった。当然よこの繋がりは貴族であることが多い。シルビァーナは仕事の関係で関わりを持ったが、そうでなければまず関わりを持たなかったであろう。
ではこの眼の前のセルバと名乗る男はいったいどういった人物なのか。その身のこなし、その佇まい。ただの執事とは思えない。それこそどこぞの貴族に仕える由緒ある者、そう言われれば疑うことなく納得できたであろう。だが先程セルバはシャルティエルに仕えているのだと言っていた。そこに家名はない。つまり家系ではなく個人に仕えている。セルバは言ったのだ。
「なにやら面倒くさい話になってきたね」
「誤解を抱かせてしまい申し訳ありませんでした」
セルバは再び頭を下げ謝罪の言葉を口にする。
「確かにジルオーネ様は帝国貴族であられますが、現在の私共は帝国貴族に繋がりはございません。ですので、シルビァーナ様にご迷惑がかかることはございません」
シルビァーナは肩をすくめてそれに応える。
「そうかい。まぁ、迷惑をかけないってんならそれで構わないさね。それで__」
「さてと、それじゃ俺はここらで帰らせてもらうよ」
キースがセルバから頼まれたのはあくまでシルビァーナの紹介であり、この先の話はキースには無関係。第三者がこの先の話を聞くのは深く関わりすぎている。だからキースはその場を離れる旨を伝えるのであった。
「シルビィ、後はよろしく頼むわ。それではセルバさん、これにて失礼します」
「キースさん、本当にありがとうございました。後日改めてお礼を申し上げに参ります」
「はは、気にしないで下さい」
キースはセルバとシャルティエルに軽く頭を下げ、そしてゆっくりと部屋を後にするのであった。
キースが部屋を去った後、改めてシルビァーナはセルバへと向き合う。
「それで、私にに何の用があるんだい? 私というより医師を探していたようだけど」
「はい。実はシルビァーナ様にお願いしたいことがございます。」
言い終えるや否や、セルバは深く頭を下げる。
「どうか、どうかっ! 私共にシルビァーナ様のお力をお貸し頂きたく存じます!何卒!何卒どうかご助力をっ!!」
「医師に何かを願うってんだから、ある程度のことは推測出来るけど、話を聞かないことには始まらないさね。頭下げてないで、まずは説明をおし」
「畏まりました」
頭を上げたセルバは、振り向き後ろに控えていたシャルティエルに優しく声をかける。
「お嬢様」
シャルティエルはビクッと身体を硬直させる。それが緊張からか、恐怖からなのかは分からない。だがセルバはなおも優しく声をかけ続ける。
「お嬢様、シルビァーナ様は帝国にもその名を馳す高名な治療師に御座います。ジルオーネ様もシルビァーナ様の実力を高く評価しておりました。必ずやお嬢様のお力になるかと」
しばしの沈黙。
その間シルビァーナは無言で二人を見つめる。どのような事情があるかは知らないが、本人が乗り気でないと言うのであれば、こちらから何かを言うつもりはない。これはシャルッティエル本人の問題であり、彼女が口を開かないのであれば、シルビァーナはそれに従うだけだ。
沈黙の間、シャルティエルの中で様々な葛藤があったのだろう。しかし、悩んだすえの決断として、彼女はその口をひらくという選択をした。
「__わかりました。シルビァーナ様、どうかお力添えをお願いいたします。」
これまでセルバの後ろに控えていたシャルティエルが一歩前に躍り出て、その口を開く。顔全体が隠れるほど目深にローブをかぶり、身体も一切露出しない、そんな衣装を身にまとっていた、まるで何かを隠すような。そんな彼女が、ゆっくりとローブに手を伸ばし、そしてローブを開けさせその顔をシルビァーナに見せるのあった。
「……なるほど。そういう理由だったわけさね。」
シルビァーナは、ゆっくりとそう言葉を口にするのであった。
新たに評価とブックマークを頂きました。
本当にありがとうございます。
皆様の所作が私ども創作家の原動力となります。
引き続きお付き合い頂けますと幸いです。
あと、実はこっそり挿絵を差し込んでいたりします。
挿絵がある話には、タイトルに[挿絵有]って表示しておりますので、
お暇な時にでも見てやって下さい。
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