36 争い事
「ん、なんだか騒がしいな……。」
補佐長に今回の調査で知り得たこと、そしてエルティナとザイルの冒険者としての働きを補佐長に伝えたキースは、組合職員を、そして商業同職組合員をワイバーンの死体の場所へと案内するために冒険者組合の受付広場へと足を運ぶ。そこで組合内が何やら騒がしいことに気がつく。
騒ぎの方へと足を向けると、そこでは幾人かの冒険者が何やら言い争いをしているようだ。いや、言い争いというよりは一人の冒険者に多数の者が詰め寄っているという感じであった。
それを目にしたキースは顔をしかめる。この場の空気、あまり良い状況ではない。いざこざが争いに発展するのも時間の問題、そう思えるものであった。現に幾人かの者は、怒りの感情が殺気に変わりつつあった。
キースは急いで争いの場に割って入る。
「お前ら、こんな所で何言い争いしているんだっ。」
「キースさんっ!」
言い争いをしていた冒険者のうちの一人が、キースの姿を確認し声をあげる。先程キースが組合に着た時に話しかけてきた少年冒険者だ。
「イグナス、何してるんだ。」
「こいついが、こいつがっ!!」
少年冒険者___イグナスは、感情を押さえきれない様子で声を荒げている。そして睨み殺さんばかりの視線を言い争いをしていた人物へと向ける。その視線の先__そこにはワイバーン調査に同行していたザイルがいた。
「こいつが、キースさんたちを見捨ててっ!! あまつさえキースさんが死んだなんて嘘をつきやがってっっ!!」
ザイルの報告ではキースはワイバーンに殺されたということになっているらしかった。しかし、こうしてキースが生きて生還したことでそれらの報告は嘘だったとイグナスは感じたのだろう。その事に対し怒りを顕にしているイグナスにキースは少しばかり嬉しく思うも、今はそれ以上に気にしなければならないことがある。
「だからってこんな所で揉め事を起こしてどうする。」
「ですがっ!」
「イグナス、おちつけ。他の奴らもだ。建物内で争ってたら組合職員に迷惑がかかるだろう。彼らの仕事を増やしてどうする。」
キースの言葉に幾人かの冒険者は怒りの感情を抑える。組合では今、ワイバーン捜索隊が出払っているため人手が不足している。それは組合内だけではない。そんな状況の中町の中でいざこざを起こして良いことなど何一つ無い。
キースらによって二匹のワイバーンは討伐されたが、だからといってそれで全てが終わったと言い切ることは出来ない。だからこそこれからも警戒を怠ることは出来ないし、事後処理も行わなければならない。
だからといって人の感情はすぐに凪ぐという事はない。収まらない怒りを内に溜めたものも多い。そういった冒険者の一人が、収まらない感情を口にする。
「だがキース、そいつの行った行為は明らかにその道から反する。仲間を見捨てる行為はどう好意的に捉えても擁護出来ない。クソだ。」
「だからといって、争っていい理由にはならないだろうに。」
「そうかもしれん。だがそんな物分りの良い人間ばかりではない。俺も含め、頭にきている連中は多い。イグナスもそうだ。むしろこいつはお前の為に怒っているんだ。」
「若者に慕われて悪い気はしないさ。だがそのせいで組合からやっかまれたら、本厚転倒だろう。無駄に怒られることはない。それに_____」
「グダグダうるせぇーんだよ……」
キースがこの場を収めようと冒険者達をなだめている所へ、燃料を投下するような発言が投げられる。
「どいつもこいつも……。このクソ雑魚が死のうが生きようがどうだっていいだろうが。どうせ生きてたってなんの役にも立たねぇクズなんだからな。」
「___あぁ?」
さらに場の空気は悪化。
そしてザイルの発言にイグナスが切れた。
「……てめぇ、今なんて言った…?」
「ぐだぐだうるぇーっていったんだよ。」
「ちげーだろ。キースさんになんて言ってって聞いてんだよ。」
「生きる価値のねぇゴミだって言ったんだよ。」
「……殺すぞテメェ」
イグナスが装備している剣に手をのばす。しかしそれが抜き取られることはなかった。抜き取る前のその手は、キースに押さえられていた。
「何バカなこと考えてるんだ。」
「……キースさん、どいて下さい。そいつ殺すんで……」
「駄目に決まってるだろ。」
そして無理だ。イグナスは冒険者としてC級下位、ザイルとはそもそもの実力が違う。しかしそれはイグナス自身も分かっているだろう。だが矛を収めることは出来ない。出来るはずがなかった。ここまでキースをバカにされて、黙っていられる理由がなかった。
「そこのゴミもクソだがそれに群がるガキもクソだな。ゴミに俺が殺れるかよ。」
「クソはてめぇだろう。仲間見捨てて無様に逃げるカス野郎が。ダセーんだよお前。」
「逃げた? 違うな。情報を持ち帰るために素早く引いだだけだ。そこの雑魚が愚図なノロマだから逃げ遅れただけで、それを俺のせいにするのがそもそも間違いなんだよ。そんなクズだから死んだと勘違いされるんだ。」
「てめぇもう黙れよ……」
「イグナス落ち着け。ザイルが何か言おうと、それがお前が武器を抜いていい理由にはならない。」
「そいつを殺せるんなら衛兵に捕らえられてもかまいかせん。」
「そんなんが頭に浮かんでいる事自体冷静じゃない証拠だ、頭冷やせ。」
「……なんでそんなに冷静でいられるんですか、馬鹿にされているのキースさん自身なんですよ……。」
「いや、馬鹿にされているって言われてもな……」
確かにザイルの口はかなり悪いとは思うが、言ってる内容はあながち間違いではないとキース自身は思っていた。下っ端冒険者として生きてきたキースにとって、自分が雑魚など誰よりも一番良く知っている。年上ぶってはいるが、今目の前にいる少年冒険者であるイグナスよりもその実力は下である。それにキースのことを見下し馬鹿にする人間などいくらでもいる。それは冒険者だけのことでもない。組合職員の中にだっている。キースのことを罵る者など別にさして珍しくもないのだ。だからザイルに色々と言われたとしても、キースとしては別に激昂する程のことでもない。
「それにコイツはキースさん達を見捨てて逃げたんですよ! なのになんで!!」
「確かにあの場でザイルに逃げられたのは正直キツかったさ。だが、ザイルが撤退したという行動自体は、別にそこまで悪いことじゃない。」
「……え?」
本当は切りの良いところまで行きたかったんですが、文字数が結構多くなってしまったので、分けて投稿します。次は明日に投稿出来ると思います。




