35 報告
キースとエルティナは組合職員に案内され建物内の奥へと足を運ぶ。一連の経過を補佐長に報告するためだ。先程の冒険者たちの様子が気にならないでもないが、今は報告を優先した方が良いとの判断である。
「失礼します。」
「入れ。」
組合職員が扉を開け入室した後、二人も後に続くように部屋の中へと入っていく。室内、机の前に座っている補佐長の姿を確認する。そして、部屋の中には補佐長の他にも、別の人物がいた。
「なっ……!!?」
「キースさんっ!!!」
その者たちはキースの顔を見て驚きの声を上げる。しかしそこに含まれている感情は、まったくの別物であった。目を大きく見開き、そしてありえないといった表情でキースを見つめるのは冒険者ザイル。対し顔をほころばせ、目に涙を浮かべながらも、はにかんだ笑みを見せる組合職員ナタリー。
両者はまるで正反対の感情をその顔に表し、そしてそれぞれ別の行動へと移る。
ナタリーは笑みを浮かべキースへと駆け寄る。
「キースさんっ!」
「ナタリー、今日は休みじゃなかったのか?」
「ワイバーンが出たって知らせを受けたので、駆けつけたんです。」
今のナタリーの格好は、組合で働いている時に着ている仕事着ではなく、普段生活している時に着ている私服であった。どうやら休みを返上して駆けつけていたらしい。
「そうだったのか。もう体調の方は平気なのか?」
「何言ってるんですか! キースさんが大変な事になってるって聞いて、それで…っ!」
「……そうか、また心配かけちまったな。」
「……もっと自分の立場というものを理解しください。キースさんはD級冒険者なんですから。英雄みたいな行動なんて出来ないんですからね。」
「うむぅ……。それはわかっているつもりなんだがなぁ……。今回は運が悪かったと言うか、いや逆に運が良かったと言うべきか。」
「今回だけ、じゃないです! 前回もですっ!」
「た、たしかに……。」
先日のワイバーンに引き続き今日のコレである。確かに少し行動を見直さなければならないのかもしれない。しかし、だからといってどうすれば良いかなど、明確な答えがあるわけでもない。つまり、どうしようもないのだ。
「……まぁ、起こったものは仕方がない。それよりも、まずは報告からだ。」
己の不幸を嘆いている場合ではない。まずはやるべきことをやらなければ。
「補佐長、森を探索中昨日遭遇したワイバーンを見つけました。そいつは瀕死の様子で、こちらが近寄っても反応することもしません。そこで捜索から討伐に目的を変更し、ザイルがとどめを刺しました。ですが、その後より強大な個体が出現しました。」
「ああ、そのようだな。その報告はザイルから受けている。そしてその後の状況はまだ掴めていない。キース、お前が死んだとの報告も受けていたが、どうやらそうではないようだな。まぁお前が亡霊の類ならばまた話は別なんだがな。」
「それはご覧の通り。実は幽霊だったってオチは期待しないでください。」
「そうか、それは残念だな。」
「補佐長!!!」
ナタリーが補佐長を怒鳴りつける。
「なに、軽い冗談だ。」
「こんな時につまらない冗談なんて言わないでください。」
「つまらないとはなんだ。ふん、まあいい。 それで、その後遭遇したワイバーンはどうした。」
「今回遭遇した個体は、以前であった奴よりも大きく強大なものでした。おそらく怪我を負った個体のつがい、もしくは親ではないかと推察します。」
「うむ。たしかにそう考えるのが定石だな。」
「新たに出現したワイバーンは、怪我した個体を討たれたことを確認すると激昂し、自分達に襲いかかってきました。そしてワイバーンの攻撃を受けザイルが負傷し戦線を離脱、その後自分とエルティナがワイバーンと交戦__」
エルティナがすごい形相で前を睨みつける。その先にいるのは顔を歪め視線をそらすザイルがいた。エルティナからしてみれば、ザイルは二人を見捨てて逃げた裏切り者である。その後の事を考えれば、許すことの出来ないものなのだろう。今にも食って掛かりそうな様子ではあるが、場をわきまえているのだろう、ぐっとこらえてその場に留まっている。
軽くエルティナの肩を叩き、落ち着くように促す。今は補佐長に報告する方が優先である。
「___ワイバーンの攻撃を受けかなり追い詰められた状況になるも、エルティナの必死の抵抗により戦況を維持。全滅をなんとか食い止めることが出来ました。その後、救援に訪れたシルビァーナにより戦況が変わり、二人のお陰でワイバーンを撃破。そして現在に至ります。」
「なっ…!!?」
ザイルが声を上げ驚いた様子を見せる。まさかワイバーンを撃破出来ているとは思わなかったのだろう。たしかにあの状況を打破できたのは運によるものが大きい。もしシルビァーナの救援が少しでも遅れていたら、結果はまったく違うものになっていたであろう。
「ふむ、シルビァーナ女史がか……。よく救援に間に合ったものだな。」
「ええ、本当に。」
「そのシルビァーナ女史は今何処に。」
「一度治療院に戻って、後ほど補佐長の所に顔を見せに来ると言っていました。」
「そうか……。」
補佐長は腕を組み、何事かを考え始める。その間室内にはなんとも言えない空気が流れている。原因はソフィアとエルティナにある。両者はザイルに対し鋭い視線を向けており、無言の圧力ともとれるものを発していた。
そんな視線を受けザイルも平常ではいられないのか、度々悪態のようなもとを突きそうになるが、それを既の所で我慢してるといった様子である。
そんな三者の様子を、どこか他人事のように捉えていたキースは、補佐長に対し早くしてくれないかなぁと、少し困り顔で見つめるのであった。
「___わかった。詳しい話はシルビァーナ女史が着た時に改めて確認するとしよう。別の者からの証言も得たいしな。さてナタリー、いい加減その重っ苦しい空気をどうにかしないか。」
補佐長は若干呆れながらナタリーへと苦言を呈する。
「いつまでもそう睨んでいても結果が変わるわけでもあるまい。」
「ですが補佐長、彼の証言そして行った行為についてはとうてい納得できるものではありません。組合員としての立場としては、しかるべき対応をするべきかと進言いたします。」
「個人的な感情に__」
「私個人の考えからではありません。」
「とてもそうには見えんが。」
「どう見られようと構いません。事実です。」
そう言うナタリーではあるが、傍から見れは感情まるだしである。これでそうではないと言われても……。キースは思わず苦笑いをしてしまう。
しかし、そんなナタリーの発言に合いの手を出すようにエルティナが話しに加わってくる。こちらも感情丸出しで、ナタリー弐号になりつつあるが、こればっかりはしかたがない。エルティナからしてみたら、あの場にいた当事者なのだ。
「補佐長、私からもご報告を。私とキースさん、そしてザイルの三人で今回の調査を行う際、彼は明らかに冒険者としての資質に欠ける言動が多々見られました。度重なる身勝手な行動で隊の和を乱し、そしてあまつさえ、冒険者としての責務を果たさずに一人逃亡するなど……。とてもではないですか弁解の余地はありません。」
「なんだとテメェ……」
エルティナの物言いにザイルが顔を歪めて睨みをきかせる。しかし、その視線を受けてもエルティナは怯むことなく、むしろ真正面から受け止めさらに感情のこもった視線を返す。だがその感情はけっして良いものではない。かなり負に偏ったものだ。
「……なにか?」
「随分と舐めた口きくじゃねぇか……」
「___どっちが舐めた口きいてるのよ。」
「ああ?」
「どの口が舐めた口きいてるんだって言ってるのよ……クソが」
「雑魚が粋がるんじゃねぇぞオイ…」
「鏡見て物言えよ。」
剣呑な空気が室内に流れる。今にも殺し合いが始まりそうな両者の前に、キースは一歩前に出て二人の視線を遮る。
「ああ? なんだよオッサン?」
「キースさんっ!!」
「ほら、二人共そこまでだ。こんな狭い室内でやり合うわけにはいかないだろ。それに、冒険者同士が補佐長の前で争ってどうする。ほれみろ。補佐長が呆れた顔しているぞ。」
キースの言葉に、エルティナは恥ずかしそうな、困ったような、そんな表情をして下を向く。
「……すみません。」
「まぁ、気にするな。」
キースはエルティナの肩を軽く叩き肩をすくめてみせる。
「てめぇら__」
「いい加減にしろ。ここはガキの遊び場ではない。これ以上無駄口をやめぬなら組合から叩き出すぞ。」
室内の空気が張り詰める。凄みのある声で補佐長が圧力をもって言葉を発する。そこにいるのは単なるお役所仕事をするだけの人間などでは出せない、確かな存在感があった。荒くれ者が多い冒険者組合という組織をまとめる人間がただの凡人であるはずがない、そう思わせるだけの威圧感を感じ取ることが出来た。
これまで騒いでいた面々が口を閉ざし、室内には静寂が訪れる。
「少しは時と場所を考えろ。 さて、とりあえず一通りの報告は受けたが、だからといってこれで終わりではない。まずは討伐したワイバーンの死体の確認をしないことには始まらん。キース、後で組合の職員をその場まで案内してもらう。それと素材などの事もあるから商業や同職組合の者なども一緒に連れて行け。後々面倒になったらかなわんからな。」
「そうなると結構な人数になるかと。」
「ああ、だから組合の者からそれなりの人数を付ける。」
「ここが人手不足になりませんか?」
「致し方ないだろう。休みの者にも出てもらう。では、商業同職には組合の物を使いとして出しておく。両者が集まり次第現場に向ってもらうぞ。」
「了解しました。」
補佐長からの説明も終わり、一同は部屋から退室しようとする。キースも皆と同じように退室しようとしたところ、補佐長から呼び止められ室内にとどまる。
「キース、お前には商業の連中が来る間に、話してもらうことがある。」
補佐長に言われ、キースは思い当たることを口にする。
「審査のことですか。」
「ああ、そうだ。今回の調査でのあいつらの行動について説明してもらう。」
「了解しました。」
補佐長からの話を受け、キースは今回の調査で知り得たことを言い伝えるのであった。
ここまでお付き合いありがうございました。
実は今回をもちまして書き溜めていたストックが突きてしまいました。
ものすごい中途半端な場面ではありますが…(汗
本来ならば、きりの良いところまで書き進めてから投稿を始めようかと思っていたのですが、新年に合わせての投稿をしたかったのでこういった形になりました。
ですので、次回からは毎日複数話投稿ではなく、数日に一話を定期的に更新していきたいと思っております。
今後ともお付き合い頂けますと作者として大変うれしく思います。
そして、もしよろしければ、評価などを頂けますと更に嬉しく思います。
だいたい100人に一人が評価して下さっている感じですので、これを10人に一人に出来るよ投稿者として頑張ってい行きたいと思っております。皆様もしよろしければご協力頂けますと大変嬉しい限りです。
めざせ1/10!!
( * 作者は単純なので、嬉しい分だけ頑張る生き物です)




