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17 テト少年

「お騒がせして申し訳ありませんでした。」


 ナタリーは深々と頭を下げ、キースとシルビァーナに謝罪した。


「もう大丈夫なのかい。」


「はい。昨夜から色々あって、精神的に少し疲れてたみたいで、それで取り乱しちゃいました。でも、もう大丈夫です。心配かけてすみませんせした。」


「そうかい。それならいいけどさ。あまりおばちゃんを心配させないでおくれよ。ナタリーちゃんが倒れでもしたら、仰天して心臓が止まっちまうよ。」


「えへへ、ごめんなさい。」


 ナタリーはニッコリと笑ってみせる。先程の出来事を感じさせぬその姿に、キースもほっと一安心する。子供の頃から知っている彼女だが、あのように取り乱した姿など久しく記憶にない。


「それで話を戻しますけど。キースさんのこの回復と、ソフィアさんのあの様子、そこに何かしらの関係があるのでは、いうことですが__」


 気持ちを切り替えたようで、ナタリーは先の問題に話を戻す。


「例えばですが、ナタリーさんのスキルと何か関係しているという事は、ありませんか。」


「スキル、ねぇ……。」


 シルビァーナは顎に手を添え思考する。


「まぁ、そう考えるのが妥当だろうさね。キース、あの子のスキルついてはどうなんだい?」


「いや、スキルついては彼女から何も聞かされていない。」


 ソフィアとは薬草採取時に一緒行動したが、それらについての会話は交わしていなかった。


「組合の方では把握しているのか?」


「いえ、ソフィアさんからは、スキルに関して何も知らされていません。彼女の等級もE級となっていますので、組合からは情報の開示を求めることもしませんし。」


 冒険者組合では、基本的には個人のスキル情報を報告する義務はない。というのも、スキルはその冒険者にとって切り札となりえる物も存在するため、他人に知られてしまうと、効果を発揮でいないといった種類も存在しているからだ。低級によてはまだスキルを取得していない者もいたりする。すべての冒険者のスキルを把握するなど現実的ではない。


 だが、報告することにより、冒険者にとって有利になる場合もある。スキルの有無によって、優先的に依頼を回されるなどいくらでも存在する。個々の能力による適時適所は、当たり前のことだ。それは、高級になればなるほどそういった傾向になることが強い。


 「もしあの子のスキルで回復したのだとしたら、それほどのスキルだ。もし組合に知らせていれば、もっと上の級になっていても不思議ではないさね。」


 シルビァーナの言う通り、もしあれほどの回復能力を持っていると組合が知っていれば、その有用性、もっと優先的に依頼などを優遇していたであろう。それこそ組合員として引き抜きさえ考えられる。E級という低い地位にとどまる理由もない。


 考えを巡らせている時、キースはある事を思い出した。


「知られたくなかった……?」


「どういうことだい?」


「ソフィアがスキルについて黙っていた理由さ。もし本当に彼女のスキルが回復能力だとしたら、その有用性は誰もが理解できるはずだ。あれほどの能力、誰もが欲しがるだろう。だが、それがソフィアにとって良いこととは限らない。」


「……なるほど。確かにそうかもしれないね。治療師の立場からみてもあの回復力は驚異的だ。欲しがる奴はいくらでもいるだろう。それが全員善人とは限らない。ろくでもない奴に狙われでもしたら……。考えたくもないさね。」


「あっ……、だからソフィアさん……」


「ああ、その可能性もあるんだ。」


「ん? 何か思い当たることでもあるのかい?」


「組合証によると、ソフィアさんが冒険者登録したの、アイデンだったんです。」


「アイデンだって!? それはまた随分と___あぁ、そういう事かい。確かにあり得るかもしれないさね。」


 なぜアイデンという遠くの街からこの辺境まで。しかし、それも先のスキルの話が間違っていなければ、納得できる話である。アイデンでそのスキルの力を何者かに知られ、面倒ごとに巻き込まれてしまったのかもしれない。そして厄介ごとから逃れるために街を転々と……。十分考えられる話だ。


「今回ワイバーンに襲われ、やむを得ずスキルを発動してしまった。あの子からしたら苦渋の決断だったのかもしれないね。そしてスキルの能力を周りに知られてしまったのではないかと思い狼狽した。昔スキルで厄介ごとに巻き込まれていて、その当時の事を思い出してしまい、錯乱してしまった……と。そう考えれば一応筋は通るね。」


「厄介事から逃れるため。そして逃げた先でも揉め事を避けるため、各地を転々と___ねぇ。」


 シルビァーナはゆっくりと立ち上がり、部屋の外へと向かっていく。


「シルビァーナさん?」


「もしこの話が本当だったら、あの子が目覚めた時に、急いで逃げ出しちまうかもしれないだろ。少なくとも此処は安全だって知らせてやらないとね。」


 ナタリーの問いかけに、シルビァーナは振り向くことなく手を振ってそれに応えるのであった。


「とりあえず様子は私がみてるから、あんたらはもう帰んな。あの子が目が覚めた連絡を寄こすよ。」


 そう言っそのままシルビァーナは部屋から出ていった。


 シルビアァーナの言葉に従いキースは支度を整え、そしてナタリーと共に治療院を後にするのであった。





――――――――――――――――――――





 夕暮れ。町全体が銅色に染まり人々が一日の活動を終わらせようとするその時間帯。そんな中キースは自室にて装備の手入れをしていた。


 怪我が治り治療院を出たキースは、仕事をしようと行動に移そうとするが、そこをナタリーに止められてしまった。ちょっと前まで大怪我をしていたのだから、その日ぐらいは安静にしていろと言われたのだ。キースからしてみれば、怪我は既に全快しており、活動するのになんら問題はなっかったのだが、ナタリーの剣幕に気圧され、しぶしぶ自室に戻ってきたのだ。されどもすることなど特にないので、こうして持ち物を整備しているのだ。


 そうした時間を自室で過ごしていると、キースの元へ客が訪れてきた。


「キースさん、お時間よろしいですか?」


「お? テトか。」


 キースからテトと呼ばれた客__シルビァーナの元で治療院で働いている助手である。つぶらな瞳に愛嬌のある顔をしており、小走りでシルビァーナの後ろとついてまわるその姿は、どこか小動物を連想させる可愛らしい少年である。

 そんな治療院助手のテトがキースの元に訪れた___ということは。


「ソフィアが目を覚ましたか?」


「はい。先程目を覚ましました。それでシルビァーナさんにキースさんを呼んで来いと言いつけられましので、こうしてお迎えに上がりました。」


「そうか、ありがとうな。」


 キースは作業を切り上げ、重い腰を上げる。そしてテトに感謝の言葉を述べると、テトの頭を少々乱暴に撫で付ける。テトは目を細めく、すぐったそうにしながら受け入れる。


「それで、ソフィアの様子はどうだ。」


 キースが手を離すと、若干名残惜しそうな顔をするが、すぐに気を取り直し返答する。


「……あっはい。ソフィアさんの様態は今の所安定しています。少しは思いつめたような表情はしていますが、先程みせたような混乱もみられません。」


「そうか。あの状態だと会話するのも難しかったが……。落ち着いたなら大丈夫そうだな。それで、治療院に向かえば良いんだな?」


「はい。院内にて先生とナタリーさんがお待ちになっていると思います。」


「ん、ナタリーもいるのか?」


「はい。今回はワイバーンの件もありますし、組合としてもある程度の事情は把握しておきたいとのことなので、当時者であるソフィアさんの話も必要だろうと判断したようです。」


「ああそうか。というか、普通に考えればそりゃそうだな。」


 ソフィアの事ばかりに気を向けていたキースだが、組合からしたらワイバーンの方がむしろ本命と言えるだろう。その事をすっかり忘れていたキースはポリポリと頭をかく。


「__キースさん?」


「ん、いや、何でも無い。我ながら間抜けだなぁとね。さてと、それじゃあ治療院に行くかテト。」


「はいっ!」


 笑顔のテトを引き連れ、キースは再び治療院へと足を運ぶのであった。


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