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夢の奥で  作者: 関根ゆい
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20/21

夢の後で

 目が覚めると、自分のベッドに戻っていた。二段ベッドの下の段。


 体はいくぶんか楽になっていた。頭も痛くない。

 枕元の目覚まし時計を見ると、もう夜の8時をまわっている。

 お兄ちゃんはまだ帰ってないから、部屋は静かで秒針の音だけが響く。おでこにさわってみると、だいぶいつも通りな感じがする。


 階下に降りると、お母さんはリビングでテレビを見ていた。僕に気がつくと、ほっとした顔をした。


 熱は微熱まで下がっていた。汗で体に張り付いていたパジャマを着替えて、お母さんが作ってあったおじやを食べるとだいぶいつも通りの感覚にもどったが、明日は学校を休むように言われた。

 今日1日、僕はほとんどずっと眠っていたらしい。たしかに、ほとんど夢を見ていた気がする。


 2階のベッドに戻り、ふちにもたれながらボーッとしていると、突然階下が賑やかになった。お兄ちゃんが帰ってきたらしい。

 遅い夕飯を食べていたらしい。20分ほどすると、お兄ちゃんが部屋に戻ってきた。制服姿には少し疲れが滲んでいる。


 「おお、起きてたんだ。具合大丈夫?」

 上着を脱ぎながら、こちらを覗き込んでくる。

 「ああ、もう平気。心配かけたな。」

 

 お兄ちゃんは、鼻歌歌いながら後ろを向いて着替えている。

 そういえば、こんな風にお兄ちゃんの帰宅を見届けるの久しぶりだな。いつもなにしてたっけ?あぁ、ゲームしてて、生返事しか最近してなかったかもしれない。


 部屋着に着替え終えたお兄ちゃんは、学校の鞄をごそごそしてコンビニの袋からなにやら取り出してくる。

 「ほら、見舞いだ。食べれるか?」

 ぽーんと投げられてきたのは、ブドウゼリー。で、お兄ちゃんはベットの下の段のふちに腰掛け、自分も似たような大きさのカスタードプリンの蓋をぺりぺりっと開ける。

 ブドウゼリーとカスタードプリン、どっちもお兄ちゃんの好物だな。お兄ちゃんは、ブドウ味とカスタードが昔からずっと、いまだに好きなんだよな。僕も好きだけど、そればっかってことはない。一途なんだよね、お兄ちゃんは。


 「食べる。ありがと。でも、お母さんに部屋でお菓子食べてるのバレたら、またゴキブリ出るって怒られるよ?」

 「いーの。もしバレたら、コウヤのせいにするから…ケケケ。」


 …相変わらずちょっとずるがしこいこと。僕もぺりぺりと薄い蓋を開けて、小さなプラスチックスプーンをゼリーに突き立てる。意外に弾力があるんだな。透き通って、きれい。


 「今日さー、予備校で昼寝してた時に、おもしろい夢見たんだよ。」

 お兄ちゃんはカスタードプリンをちまちまたべながらニヤッと笑う。

 「コウヤが高校の先生になってんの。でさ、なんかね、俺、説教されてんの。」


 僕はドキリとした。だってそれは…。

 でも、なるべく平然を装って澄ました顔で話に耳を傾ける。


 「えーっとね、どんな話だったかなぁ?内容は忘れた。でもなんか、立方体黒板に描いて話してた。なんかすごく納得して、気分が楽になる話だったよ。」

 「へぇ…。」


 まずいことがばれそうな時みたいに、胸がバクバクして、耳たぶが赤くなっちゃいそう。

 必死で隠す。話を聞いている間、ごまかすためにうつむいてにゼリーを食べてたから、容器はもう空っぽになってしまった。そうだ。聞いてみたいことがある。

 

「お兄ちゃんはさ。」

「ん~?」


 お兄ちゃんのカスタードプリンも、カラメルの層にやっと到達してきていた。


 「お兄ちゃん、その夢の中で、歳下で、しかも僕みたいなどうしようもない奴に説教されて、嫌だったんじゃないの?」

 

 文章だったらwwwが付きそうな口調で言ってみる。結構本気で聞いたんだけど。説教というのは、ある程度尊敬している人からしかされたくないものだもんね。


 「嫌ってより、今思いだすと普通におもろかったわ。だって、お前がスーツ着て、大人になってるんだよ?俺よりまだ10cmも身長低いくせにー。」

 お兄ちゃんはげらげら大笑いしている。なんだよ、そんなに僕はガキっぽいか。ちょっとむくれ気味の僕に、お兄ちゃんはそのまま続ける。


 「でもね、いいと思うよ。お前は俺が苦手なことできたりとか、お前自身しか持ってないようなものも持ってるんだし、どうしようもないとか、歳下だからとか思わないよ。」

 立方体を説明に持ち出すあたり、なんかお前っぽいしね、と付け足しみたいにつぶやく。

 

 その時、階下から、お母さんがお兄ちゃんを呼ぶ声がした。さっさと風呂に入れとか言っている。お兄ちゃんは、はーいと返事をすると、立ち上がって着替えやタオルを用意しはじめた。


 「あ、そうそう。」

 部屋を出る間際になって、お兄ちゃんはまた学校の鞄から何か出してきた。今度は、駅前の本屋の紙袋だ。なんだろう、珍しい。薄っぺらいから週刊の漫画誌ではなさそうだし。

 「どうせ明日も休めって母親に言われたんだろ?これでも読んで暇つぶせよ!」

 僕に紙袋を手渡すと、お兄ちゃんは階下に降りて行ってしまった。


 一人になったあと、僕はその紙袋を透かしてみたりして、観察してみる。これ、あれ、もしや…?

 

 (あー!)

 中身を空けてみると、やはりそうであった。いつも読んでいる、数学の月刊雑誌の創刊号。気になってはいたけど買わずにいたやつだ。

 

 なんでなんでなんで?

 はてなマークがいっぱい頭に浮かぶ。なんでお兄ちゃんはこれを買ってきたんだろう?てかいつバレたんだろう?お兄ちゃんが好きでこんなもの読んだりはしていないだろうし。

 でも、一方で、とてもうれしい気持ちにもなっていた。もちろん、欲しかったものが手に入ったからもあるんだけど、なんだろう…。思わずにやにやしてしまう。


 (僕っぽい…。僕しか持っていないものか…。)

 

 体治って学校行ったら、ロッカーから月刊雑誌たちを持って帰ってこようかな。そして、本棚の一等地に置こうかな。お兄ちゃんの写真の隣にね。

 

 



 

 


次回は最終話です。お楽しみに!

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