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夢の奥で  作者: 関根ゆい
2/21

放課後の寄り道

中学生の放課後の寄り道は絶対よくないけど・・・笑


なんとなくあたたかい感じになっていればなぁと思います。


 友達と、人が一人通れるスペースしかない狭いカードゲームショップをぐるぐる回って見ながら、僕はため息をついた。

 時刻は午後5じ。木曜日の放課後だから、そろそろ家に帰らないと。お気に入りのアニメ見なきゃ。僕の通う東京の中高一貫から家までは約2時間、早く帰らないとお兄ちゃんも帰ってくるし、お母さんにいぶかしがられる。カードゲームショップにこうしてたまに来ているのは、親には秘密だ。

 帰りたい気持ちと、帰りたくない気持ちが半分、足元の大理石みたい、マーブル。親と口を利けば、今日はなにしたの?っていつもみたいに聞かれるだろう。口ごもる僕の隣でおしゃべりなお兄ちゃんは意気揚々と、今日の出来事を話すだろう。

今日はね、なんとか君とー、昼休みに…


 僕も何か口にしなければいけない、分かってる。そうしないと、小さい頃からずっとそうなように、お兄ちゃんに両親の関心を取られてしまう。そう頑張ってみても、話すことなんて何もなかった。僕は毎日学校行って、授業中はぼんやり過ごして、昼休みも友達と適当に過ごして、放課後はこうだ。何にも話せるようなことなんてない、全部僕の体の外側を撫でて消えていくだけ。


 一枚だけ欲しかったカードを買って店の外に出るとだいぶ寒くなってきたので、今日はじめてクローゼットからだしてきた青色のマフラーをまく。イギリスで買ってきたおみやげだ。友達に別れを告げて、電車に乗り込む。イヤホンを耳に突っ込み、マフラーに顔を埋めるようにうつむいているうちに、僕はどこかへ堕ちていった。


はぁ

小さなため息が僕の背後で背中をくすぐる。


 (あのときの女の子…)

 前に、あの、ベンチの夢の中で会った子。でも、今日はいくぶんかこないだより幼い。お兄ちゃんの学校の、中学の制服…だったかな。

 彼女は、憂鬱そうに窓の外を眺めていた。ここは放課後の教室かなにか…なんだろう。彼女はひとりぼっちだった。


 …またやられた…

 彼女はつぶやいた。

 なにが?、僕は恐る恐る話かけてみた。今日はたぶん、僕の方が歳上だ。

 彼女はスクールバックからごそごそと、パープルカラーの手帳を出し、ページを開いた。

 ”クラスメートにページを、破られて、回されて…はぁ。”

もう勘弁してよぉと、小さくつぶやく。

 ”ねぇ、それには何が書いてあったの?”

こんなことを、聞いてしまう僕はこどもなのかもしれないけど、きっとここでなら女の子は答えてくれるんじゃないかと思ったんだ

 ”ゆめ。つまりはあなたが今いるみたいな世界。”

 ”ふぅん、なんでそれを書くの?”

 “だって、辛いから…”

…だよね、そんなことされたら。

 “あなたは今、なにがつらい?”

女の子は、僕の方をゆっくり向きながら、話しかけてくる。

 “あなたとお話したいな”


 僕は声が少し高ぶるのを感じながら話はじめる。

 僕がつらいのはね…

 国語算数理科社会体育家庭科音楽…全部得意で、小学校では先生にも誉められてばかりだったのに、難しい東京の中高一貫に入った途端に成績は急下降して、親には怒られて、同級生にからかわれることもしばしば。

 でも、なによりも辛かったのはね…なんだろう…そうだなあ。あのね…僕だけ…。

 僕は言葉がのどに詰まって、それ以上しゃべれなかった。いつも抱えている悔しい気持ちや悲しい気持ちが一気にこみあげてくるようだった。言葉にすると恐れていることを本当に認めることになってしまいそうで、怖くも感じた。


 そか

 女の子はゆっくりと、呟いた。

 “無理に言葉にしなくていいよ。じぶんでもよくわかんないんだね。”

 そう。

 “じゃあ、ここは、君の夢みてる世界?だって、ここは、私とあなたの夢だもの。”

 そうなの?

 “そうよ。いまつながっているの。不思議ね。”

 似てるのかもね。

 “うん、そうね。

あ、ねえねえ、ちょっとついてきて。”


 女の子は、教室を出て、廊下の端にある階段を上っていった。さっきの教室は三階。女の子は4階、5階…と、どんどん上っていく。この無秩序さが、夢だということを改めて感じさせる。

 ”ねえ、どこまでいくの?この学校は一体何階まであるの?”

息を切らしながら僕は尋ねた。もう6階ぐらいまできたんじゃないかな?

 ”屋上”

 ”屋上?入っちゃダメなんじゃないの?!”

 少なくとも、僕の中学校ではそうだ。

 ”何言ってるのよ、ここ、夢の中なのよ?そんな細かいルールあるわけないでしょ?”

 そう言いながら女の子は、階段の行き止まりの重そうな扉を開けた。

 ”ほら、みて!”


 へぇ…

 思わずため息が漏れた。

 給水システムの機械しかない殺風景なコンクリートの浜辺の向こうには、きれいな、きらきら光るオレンジ色の海が広がっていた。上を見上げると、ビロードのような紺の敷物がちょうど敷かれ始めたばかりだった。

 ”きれいでしょ?ここに来ると、少しだけ元気出るの。”

 ”ほんとうにそうですね”

 きっと、この女の子の悩み事、辛いことは手帳の件だけじゃないんだろうな・・・と僕はぼんやりと思った。


 “そろそろ帰らなきゃでしょう?電車、乗り過ごしちゃだめよ?”

 女の子は手をさしだしてきた

 “また会おうね。”

 うん…


 僕たちは、握手を交わし、そして…

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