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愛が重すぎてすぐフラれる超絶美少女ですが、転校生にとってはちょうどいいそうです  作者: あとりえむ


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8/8

第8話

「今度こそ、一緒に踊ろう」


差し出された手を、ミザールは見つめた。


ついさっきまで、怖くて仕方がなかった。


自分がもっと重くなったら。

また誰かを傷つけてしまったら。


そんな不安が、胸の奥にこびりついている。


それでも。


目の前にいるアルコルは、逃げなかった。


「……本当に?」


ミザールが、おそるおそる尋ねる。


「本当に、いいの?」


「うん」


アルコルは迷うことなく頷いた。


「君が重いことくらい、知ってる」


「……私、すごく重いよ」


「知ってる」


「これから、もっと重くなるかもしれないよ?」


「それでもいい」


その言葉に、ミザールの胸が震えた。


これまでずっと。


自分の愛は、誰かを苦しめるものだと思っていた。


好きになればなるほど重くなる。


嬉しくなれば、椅子を壊す。


大切に思えば思うほど、相手を傷つけてしまう。


だから、好きにならないほうがいい。


そう思っていた。


けれど。


アルコルは、そんな自分を見ても離れなかった。


「……行こう」


アルコルが、もう一度手を差し出す。


ミザールは今度こそ、その手を取った。


二人は温室の中へ戻っていく。


夜の名残を残した空気の中、青い花が静かに咲いていた。


遠くから、星夜祭の音楽が聞こえてくる。


ゆっくりとしたワルツの旋律。


ミザールはアルコルの手を握り直した。


そして、一歩。


踏み出した。


「……っ」


床が、きしむ。


ミザールの重さに耐えるように、床板が小さく音を立てた。


ミザールの身体が強張る。


けれど、アルコルは手を離さない。


「大丈夫」


「でも……」


「壊れるなら、また直せばいい」


その言葉に、ミザールは目を見開いた。


いつか聞いた言葉だった。


けれど、今は少しだけ意味が違って聞こえる。


壊れたものを直せばいい。


失敗したら、やり直せばいい。


自分の重さを消さなければならないわけじゃない。


自分自身を変えなければならないわけでもない。


「……アルコル」


「ん?」


「私、ずっと普通になりたかった」


ミザールは、小さく笑った。


「普通に恋をして、普通に手をつないで、普通に踊って……誰かを困らせない女の子になりたかった」


アルコルは黙って聞いている。


「でも……」


ミザールは、握った手に少しだけ力を込めた。


「普通じゃなくても、いいのかもしれないね」


「うん」


アルコルは静かに答えた。


「僕も、普通になったわけじゃない」


「……そうだね」


アルコルの身体は、以前のように完全に無重力ではない。


けれど、何もかも普通になったわけでもない。


ミザールの重さも消えてはいない。


それなのに。


二人が一緒にいると、不思議なくらい自然に立っていられる。


床は壊れない。


アルコルも浮かない。


まるで、お互いの足りないものと多すぎるものが、ちょうどいいところで釣り合っているようだった。


「……不思議」


ミザールが呟く。


「何が?」


「私の重さが、あなたを地面につなぎ止めてる」


「うん」


「でも、あなたがいると、私も怖くない」


アルコルは少しだけ目を細めた。


「それなら、いいんじゃないかな」


「うん……」


ミザールは笑った。


その笑顔を見て、アルコルも微笑む。


彼の目に映る世界には、もう色が戻っていた。


青い花。


温室の緑。


夜明け前の空。


そして。


目の前にいる、ミザールの灰青色の瞳。


どれも、鮮やかだった。


「……綺麗だ」


アルコルが呟く。


「花?」


「全部」


「……え?」


ミザールが瞬きをする。


アルコルは少しだけ照れたように視線を逸らした。


「花も、空も……君の目も」


ミザールの頬が赤くなる。


「もう……」


小さく笑いながら、ミザールは彼の手を握った。


そして、ふと思う。


あの日。


失恋した自分は、もう誰も好きにならないと決めた。


自分の愛は重すぎるから。


誰かを好きになるたびに、相手を困らせてしまうから。


けれど。


今は、違う。


「……私」


ミザールは、アルコルを見上げた。


「もう、『誰も好きにならない』って思わない」


アルコルが、静かに彼女を見る。


「うん」


「私……」


少しだけ恥ずかしくて。


それでも、今度は逃げずに。


ミザールは言った。


「私、アルコルが好き」


アルコルは、一瞬だけ目を見開いた。


それから、穏やかに笑う。


「僕は君が好きだよ」


その言葉を聞いた瞬間。


ミザールの胸の奥が、いっぱいになった。


重い。


きっと、今までで一番。


けれど。


もう、それを怖いとは思わなかった。


アルコルと手をつないで、二人はもう一度、踊り始める。


重すぎる愛。


無重力だった心。


その二つは、どちらかが普通になることで解決したわけではない。


二人が、そのままでいたから。


互いに足りないものを支え合って。


互いに多すぎるものを受け止めて。


ようやく、ちょうどいい場所に立てた。


――重すぎる愛と、無重力だった愛。


二人だから、ちょうどいい。


青い花が咲く温室の中。


夜が明けていく。


二人は、朝が来るまで踊り続けた。


(完)

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