93話:黒の誘い
賑やかな時間も過ぎて、飲んでいたヤツはみんな飲み潰れて眠ってしまったな。
「シャカ、もう少し休んだら行こうか。」
「わかった。でも、こいつらにお別れしなくてもいいのか?」
「一応手紙は残すし、大丈夫だよ。」
たった一夜と探索して過ごした程度の仲なのに、異様に印象に残ったヤツらだったな。
「最後に、起きてるんだろ?ナーヴァ。」
「……うん。」
明らかに俺を避けるようになってたし、一人だけ酒を飲んでいなかったから様子を見ていたけど、狸寝入りでやり過ごすつもりだったのか。
「聞きたいことがある。話してくれるな?」
「わかった。」
従順だな。
やはり俺の正体に気づいての反応だったのか。
「ただし、アルタロムと二人だけがいい。」
なんだと?これは想定外だな。
俺が魔王だと気づいての反応だったとすると二人になる理由がわからない。
「なんでだよ。オイラのいるところでは話せないってのか?」
「いや、わかった。それでいい。」
「なっ、アル!?」
今のところ警戒すべき部分しかないからな、できるなら口封じはしておきたい。
それと、正直な話この子の目的を知りたいという我儘だ。
仮に戦闘になったとしても、この程度の弓使いが相手なら、絶対にしないが油断していても勝てるとは思う。
「それじゃあ、こっち。」
俺がさっき着替えていた岩陰か。
確かに、仮に誰かが目覚めてもここなら誰も来ないだろうし声も聞こえにくい角度だ。
見る時間はあったとはいえあの状況で最善の行動ができる……やっぱりこの子は隠密行動に慣れているな。
「それで、単刀直入に聞くが……」
「その前にこれを食らいな!」
おうふ、短剣で刺しに来ますか……。
影の触手
物凄く簡単に弾けた。
ただの無謀ちゃんだったのかなぁ、それならここまで来たのは時間の無駄だったが。
「やっぱ、こんなんじゃ殺せたりしないよなぁ。」
短剣を弾き飛ばされたのに冷静でいるということは俺を殺すことが目的ではなかったのか。
違うなら違うで急に刺してきたのは結構怖いんだけど、また理由がわからなくなったな。
「殺せないこともわかったし、短剣拾っていい?」
「いいわけないだろ、動くな。」
この程度の実力なら短剣なんて回収されても特に問題は無いのだけど、さすがに物騒なもん拾ってもらうわけにはいかないのでね。
「それで、アルタロムは俺に何を聞きたいわけ?」
なんでこいつが仕切っているんだ?
さっき簡単に短剣を弾かれたことを忘れたのか?
「……はぁ、君は俺の正体に気がついているのか?」
「確信は無いけど、その格好見て何も感じないあいつらの方がおかしいよ。」
正直俺もそれは思った。
「それで、あんたは一体なんの魔王なわけ?」
答えても良いものなのか、だが答えなければ話が始まらないか。
「黒。」
「影の魔法だもんね。」
やっぱり気がついていたな。
水中で、かつあんな状況でもしっかり俺の能力を見て判断したのか。
それに、一度見ただけで俺の魔法が”影”であることを見切った。いや、知っていたということはこいつ……。
「君が何者なのか、わかったよ。」
「へぇ、なら教えて……、痛っ……!?」
疑わしきは罰せずと言うが、この状況でそんなことを言っていられる人間はここにはいない。
即時拘束。尋問に移行する。
押し倒してからすぐに首に手を添える。
「君は白の配下だろ?」
「……そうだよ。」
「それなら、手荒く行かせてもらう。」
「もう既に荒いかも…… かはっ……!」
「俺の質問にだけ応えろ。
次に勝手なことをした瞬間首の骨を折る。」
俺はあまり、武力行使に出たくはない。
無闇な殺生も好きじゃない。
こんな小さな女の子になんて特にだ。
だけど、だからこそあいつはこういう子を刺客として送ってくる。
「一つ目、君は何の目的で俺に近づいた?」
「白からの命令。」
……敬称を使わないか。
「二つ目、君の能力は?」
「暗闇で目が見える。あと計算は得意だ。」
弓使いとしてこれ以上ない能力だな。
「三つ目、白の目的は?」
「知らない。」
刺客として送ってくるような下っ端にそんな話をするはずもないか。
「四つ目、君になにか魔法は仕掛けられているのか?」
「仕掛けられて入ると思うけど、多分今は発動しないよ。」
「今はとはどう言う意味だ?」
「……答えたくない。」
ここまでか。
「うぐっ……、ちょ、待って……。」
……チッ。
「三度目はないぞ。なぜ答えたくないか言え。」
「けほっ……甘いね。」
「絞めるぞ。」
「待った待った、契約だからだよ。」
契約ね、考えてはいたが耳障りな言葉だ。
「契約者は?」
「それも契約で話せないよ。」
やはり、それが当然だよな。
「わかった。何か言い残すことはあるか?」
「……やっぱ殺すよね、一回やめてくれたから助けてくれるかもって期待しちゃったけど。」
「最後に質問をする。」
「殺すなら早くして欲しいんだけど?」
「お前は……白に対して忠誠を持っているのか?」
「ない。魔王なんてみんな死ねばいいと思う。」
これは……相当なことをされたな、魔王を前にして、みんな死ねばいいか。
しかし、これでこの子に使い道が生まれたな。
「……やつは俺が自分の元に来るのを待っているんだよな。」
「うん。あんたのことを話していると機嫌が良くなるよ。あんたのことを自分が殺すんだって。」
決まりだな、もう首に手をかける必要もない。
座り込むなら手を貸してやる。
「やつのことを教えろ。俺があいつを殺してやる。」
この手を取って、俺の思い通りに動いてくれ。
「……ほんと、甘いよね。」
「俺もそう思うよ。」
だけど、決して悪いものではないと思う。
おかげで君は俺の手を取って、俺は俺の目的に近づけたんだから。
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