74話:砂漠の中の背水の陣
夜が明けて、虫型の魔物が活動停止し始めたようだ。
今はまだ日も昇るきっていないから涼しいな。
「もう動けるな、早く行こう。」
「応!」
前にマイティグリズリーの群れが発見された場所までは……ここから二時間くらいか。
ということは、あと一〜三時間くらいで着くと考えた方がいいな。
遭遇は日が昇ってからになるか。
そうとなれば、暑さ対策の魔法をスクロールで発動させるべきだな。
「シャカ、このスクロールを使え。」
「いや、オイラは暑いとこでも問題ねぇからアルタロムが使えよ。」
「そっか……?」
暑さにはなれているのか。
……いや、あんな体温が高くて?
普通に考えて逆だろ。
暑いところに熱いやつを入れたら暑いだけだろ。
「いいから一枚持っとけよ、別に体を冷やすためだけにあるわけじゃないんだから。」
「……わかった。」
なんか不服そう。
しかし、歩き始めたはいいが昨日より気温が高いような気がする。
魔物の群れが近くにいる証拠だな。
早く処理しないと、この気温だとすぐに熱中症になりそうだ。
「アルタロム 下!下!」
「下?」
砂が崩れて……。
「ガォォォォォ!」
うわぁ、砂に埋まってやがったこいつら。
……ん?
いや待て、この暑さでマイティグリズリーが砂に埋まるか?
いや、マイティグリズリーの毛じゃこの時間まで砂の中に入ったら焼け死ぬ。
動き出すのが少し遅く、毛が熱が伝わりにくい硬質の剛毛。
「……シャカ、逃げるぞ。」
こいつらはマイティグリズリーじゃない。
マイティグリズリーの上位種、ハイエンドグリズリーだ。
こいつらは一匹がA級の上位、群れってなったらS級のパーティーが対応するレベルか。
「断る。」
そうそう、これ以上危険なことになる前に早く討伐しないとね……
「断る じゃねぇ!逃げるんだよ馬鹿野郎!」
仮にこの子がS級だったとしても、たった二人でハイエンドグリズリーの群れを相手に数分も生きていられるか!
「逃げたいなら兄ちゃん一人で逃げればいいだろ!?
オイラがこいつらを皆殺しにしてやるよ!」
「馬鹿なこと言ってないで撤退すんだよ!
そもそも依頼の内容と違ったんだから、撤退してギルドに報告しなきゃいけないんだよ!!」
こいつ力強い!
ねぇ待ってよ、なんで君フェルと同じくらい力強いの?
「ガォォォォォ!!」
あ、やべぇ。
「危ねぇ!アル!」
「ぐぇ!」
”ドォォン”
砂埃が酷い。
シャカが変なことをしているからバレちゃったじゃないか!
てかなんていうパワーだよ、ふざけんなよこの熊。
「しゃぁ!」
おいシャカ、その二本の青龍刀はどこから出した?
てか、速……。今何をした?
一瞬でグリズリーを一頭バラバラにしてんだけど。
「おい後ろ!」
また大振りの振り下ろし。
影で細切れにするか、流砂に埋めるか。
いや避けるか。
……冷た。
「危ねぇな。」
これはシャカの青龍刀か?
グリズリーに突き刺さった部分に氷晶ができてる。
魔道具だとは思っていたけど、これは空間じゃなくて氷か?
「シャカ!受け取れ!」
二本の全く同じ形状の青龍刀、多分ペアになってる。
揃って初めて効力を発揮することの多い魔剣なら、すぐに返してやるべきだ。
「さすがぁ、よくわかってんじゃん。」
投げ返した青龍刀を右手で持った途端大量のハイエンドグリズリーを一瞬で細切れにしたんだけど。
これが目にも止まらなぬ速さってことか。
「ガォォォォォ!」
うわぁ、まだまだいっぱい出てくんじゃん。
ていうか、数が異様に多いな。
あぁ、これ二つの群れが合体しているんだ。
さすがにこの数をシャカ一人で戦わせるわけにもいかないし、なにか広範囲の魔法を使うか。
「アルタロムー!なんか数が増えてないか!?」
なんでそんなに目をキラキラとさせているんだよ。
「増えてるよ、魔法を使うから一旦こっち来てくれ。」
「はいよ!」
砂漠では気温が高すぎる。
シャカみたいに体内から氷を発生させなければ溶けてしまって攻撃の意味が無い。
炎は乾燥のし過ぎで火力の調節ができないし、風は砂埃が発生して視界が悪くなる。
やっぱり、水と地魔法での混合魔法が一番有効か。
流砂
二……いや、三体は逃げたか。
とはいえ、巻き込まれた奴らは時期に沸騰しかけている泥に沈んで死ぬ。
三体程度ならシャカと俺ですぐに倒せる。
「ガォォォォオ!」
「え、マジかよ。」
這い出ていてんだけど。
あ、そっか。中で他の熊を足場にして出てこようとしているんだ。
さすがにそれはさせないよね。
「君たちになんの恨みもないし、申し訳ないと思う。
だけど困ってる人がいるから、ごめんね。」
落石
形成した岩を落とす単純な魔法だが、形成した岩の殺傷能力を高めた。
さすがにこれなら剛毛を貫いて突き刺さると思うんだけど。
「アルタロム!魔法を解け!」
そんなに血相を変えて一体どうしたと言うんだ?
「えっ……。」
あ、この落ちる感覚は前にも経験したなぁ……。
「遅かったぁぁぁ!」
影の触手
よし、捕まえた!
あとは、影の羊をクッションにして着地する。
「目を開けて。」
「お、応。綺麗に着地できたな。」
目を閉じて悲鳴をあげていたやつがよく言うよ。耳が痛い。
「それより、早く構えろ。
大量の砂が落ちてきたみたいだよ。」
魔力が満ちている、やっぱりここは地下にある迷宮か。
ということは攻略するまで逃げられない。
しかも、あんな広範囲が巻き込まれたんだ。ここに落ちてきたのは俺たちだけじゃない。
「やっぱり、皆さんお出迎えしてくれてますよね。」
逃げ道もなく、相手はA級の群れ。
シャカがいるにしても、影を使わずに戦うのは難しいかな。
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