表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら魔王が勇者になりました。  作者: よく分からん生命体
二章 勇者学園 第二幕 定期試験
43/103

42話:狂気

 俺とクリムが舞台から降りると、次はフロガとホースの番だ。


「アル!勝ったら次はお前だかんな!」


 そうだった、俺はこの組み合わせのどっちかと戦わないといけないのか。

 どっちが相手だったとしても戦いたくない。


「頑張ってね!」


 クリムがホースを応援しているのか。

 えっ!?ホースが微笑みました!あの何をしても表情が変わらないホースが微笑みました!!

 怖い……なにあれ。

 あんまり触れないでおこう。


「貴様ら、早く舞台に上がってこい。」


 先生が急かしたことで、二人は慌てて舞台の上に登っていった。

 俺とクリムは少し急いで観覧席に戻り、二人の決闘を見ることにした。


「というか、どうして椅子があるの?」

「私が共有部屋から持ってきました。」


 さすがは我が家の有能メイドだ仕事が早い。頼めばお菓子すら出てきそうだ。


「貴様ら、程度を弁えるのだぞ?」

「わかってるよ!早くしろ!」


 フロガは相変わらず態度が悪いな、これ以上先生に減点されないといいが。


「……それでは、始め!」


 先生が舞台から降りる前にフロガが動き出した。

 それに対してホースは極めて冷静に動き始めた。


「風の神よ 我の命に応じ力をお貸しください

 突風(ウィンドブラスト)


 二人の間に突風を発生させてフロガが動きずらそうにしている。


 「風の神よ 我の命に応じ力をお貸しください

 風刃(ウィンドカッター)


 ホースの戦い方は上手い。

 フロガに距離を詰めさせないように魔法で立ち回っている。


 だけど、それはフロガには無意味だろうな。


「ちまちました攻撃しかできねぇのかよ!馬面ぁ!!」


 フロガの体は頑丈すぎる。突進したホーンラビットの角が折れるくらいだ、中級の魔法でも効きはしないんじゃないだろうか。

 一気に間合いを詰められてホースは体勢を崩した。このまま押し切られるとまずいな。


「いいだろう、見せてやる。」


 ホースが呟いた後、魔力が溢れんばかりに放出された。

 次の瞬間、ホースの動きが見えないほどに加速し、フロガに攻撃を直撃させた。


「ハッ!それが本気の姿ってわけねぇ!」


 ホースが 獣化じゅうか した。

 やはり馬の獣人だったか。足が馬のような蹄になり、手指の先が同様に蹄になっている。

 全身の筋肉が膨れ上がり、全身の毛が逆立っている。


「いくぞ、戦闘狂。」

「こいよ馬面!」


 そこから戦闘は一気に加速した。

 ホースは四足歩行になって低い姿勢から攻撃を繰り出すようになり、フロガは慣れない低姿勢からの攻撃に苦戦している。


 その上……


「うらぁ!!……くっそ、痛ってぇな!」


 フロガの攻撃はホースが弾き返す。

 あの腕のしなりはすごいな、あんなに硬そうな筋肉が膨張しているのにまるで鞭みたいに操っている。


 攻撃も低姿勢だけじゃなくて、飛び上がって蹴り込んだり多種類の攻撃を織りまぜることで一瞬の判断を鈍らせている。


「フロガは大丈夫だろうか……。」


 カリスが心配そうに声を漏らしている。

 この場にいる人間はみんなそう思っていると思う。

 防戦一方のフロガは攻撃を受ける度にあざができている。

 出血している部分もあるし、受け流しているだけでこれなら直撃した場合は骨が折れるだろう。

 こんな状況で降参しないフロガに心配の声が上がるのは当然だ。


「ははっ……!」


 だけど、こんな状況でも笑っていられるフロガの精神性も、誰も理解出来ないだろうな。


「いいねぇ!本気で()るってのはこうでなくちゃねぇ!」


 本当に、血だらけになりながら心の底から楽しそうな笑顔をする。


「そりゃもう見たんだよ!」


 フロガがホースの攻撃を受け止めた。

 客観的に見ても早すぎて全く見えないホースの攻撃を軽々と。


「これはどうすんだ!? 朝顔(アサガオ) !」


 フロガはホースを掴んだまま体を捻り、ホースを投げ飛ばした。


「風の神よ 我の命に応じ力をお貸しください

 突風(ウィンドブラスト)


 場外寸前まで飛ばされたが、ホースは突風を生み出して舞台側に自分を吹っ飛ばすことで難を逃れた。


「休んでていいのかよ!?」


 そこにフロガが攻撃をしに突っ込んでいくが、ホースは魔法の構えを取った。


「風の神よ 我の命に応じ力をお貸しください

 風刃(ウィンドカッター)


 複数枚の風の刃が全方位からフロガを襲った。


「甘いねぇ!こんなんじゃ効かねぇよぉ!!」


 そうだ、そんなんじゃフロガは止まらない。

 だけど、ホースが体勢を整えるには十分な時間だった。

 フロガが攻撃するのに、ホースは防御の体制。このまま攻撃してもフロガはカウンターを喰らって終わりだ。


「甘いって言ってんだろ!? 鳳仙花(ホウセンカ) !」


 殴りかかろうとしていたフロガは寸止めし、バク転するようにホースの顎に蹴りを直撃させた。


 まんまとフェイントを食らったホースは頭に衝撃が加わってフラフラになるだろうな。


「まだだぁ!」

「がッ……!?」


 嘘だろ、今の手刀は喉潰れたんじゃないか?

 先生は止めてない。これじゃあ終わらないのか。

 だとすると喉を潰されたフロガは気を練れない、防御力も攻撃力も足りない状況でどうする……。


「いいねぇ……いいぞぉ馬面ぁぁぁ!」


 マジか、喉が潰れてんのに笑って突っ込んでいきやがった。

 言葉になってないのにあんなに大声出して潰れた喉は痛くないのか。


 さすがにこれは異常だ。


 観客の俺たちだけじゃない、戦っているホースすら異常性に引いている。


「ゴフッ!」


 言わんこっちゃない。

 潰れた喉で大声を出したから血を吹き出した。

 ホースが攻撃の体勢に入った。

 そうだ、決めてくれ。もう決着をつけてやってくれ!


「来いよ!オラぁぁ!」


 フロガのチンピラじみた言動はホースが攻撃を開始したことでかき消された。


 彼岸(ヒガン)狂い咲き(クルイザキ)


 物凄い衝撃音と共に煙が立ちこめ、その場にいた全員が絶句した。


 ホースが場外に吹っ飛ばされていたのだ。


 何が起こったのか、俺には一瞬だけ見えた。


 ホースがフロガに攻撃を繰り出した瞬間、フロガは気を捻出していた。

 気術は本来ただの呼吸だ、視認なんかできるはずがない。


 なのに、あの時は視認出来るほど大量の気が捻出されたように感じ取れた。


 そして、フロガは 彼岸(ヒガン) を繰り出してホースの攻撃に真正面から殴り勝った。


 その結果が、ホースが場外に吹っ飛ばされ……


 フロガの右腕がぐちゃぐちゃになっている現状だろう。


「痛っ……!!」


 フロガは手を抑えてその場に座り込み、結界に回復されるまで動くことはなかった。

 回復されるということが前提にあって戦っていたからこその技だったのだろうが、あれはあまりにも狂っている。


 今日のフロガはなんだか楽しんでいるというよりも、自分を犠牲にして勝とうと必死になっているように見えたな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ