40話:イフの解答
※このお話はフェルの視点です。
勇謝祭で優勝した。
アルタロムとケルスがいなかったからフォンバーグとクリムの二人は簡単に制圧できた。
でもその間、アルタロムは何かに巻き込まれ今は騎士団長に尋問されていると聞く。
私は一体何をしているのだろうか。
この世界において、私の使命はアルタロムを守ることだ。
私が彼奴に仕えた日から……。
いや、彼奴が私を怒鳴りつけたあの日から決意したはずだ。
きっとそれが、最高神様の使命を全うすることにも繋がるはずだから。
いけない。湯に浸かっていると前のことを思い出してしまう。
今は先のことを考えるんだ。
勇謝祭に参加して、改めて思ったことがある。
この体は遠くの敵を匂いで感じることが出来ても、遠くの敵の魔力までは感じられない。
魔王の配下は何かしらの魔力隠しの方法を持っている。
一度遭遇した後だと気づけない。
魔力を直接感知することが出来れば異変に気づけるのだが、如何せんこの体は魔力の感知範囲は狭い。
どうしたものか、今後はアルタロムの傍に常にいるか?
しかし、クリムやイフのことを気にかけておかねば何が起こるか分からない。
それに、“フロガとも一緒にいたい“
(何を考えているんだろう私は……?)
「のぼせたみたいだ。」
「もう出てしまうのです?」
背後からイフに話しかけられた。
驚いたな、風呂だと匂いも感じとれないし、ぼうっとしていて魔力も感知するのを忘れていた。
「イフさん、どうかしましたか?」
「アルタロムさんにお話があるのです。
取り次いでもらいたいのです。」
アルタロムに話、紫の件か。
わざわざ直接ではなくていいだろう。
いや、しかしここで断れば紫との話し合いが白紙になる可能性がある。
それに、この子は少しではあるが信用に足る。
風呂に来ても警戒して来る者は多いのに、この子は裸……武器も一切持たない無防備な状態で来ている。
武器を使わずに私に勝つなんて絶対に不可能なはずなのに。
敵対する気がないだけではなく、何故かこの子は我々を信頼しているように見える。そんな信頼を無下にするべきでは無いか。
「わかりました、いいでしょう。
では、体を洗いますから早く来てください。」
「フェルちゃん?一体何をしているのです?」
しまった、考え事をしすぎてつい屋敷での癖が出た。
ララ、どうして私以外の洗体を受け入れなかったのかと少しだけ貴女を恨みます。
「いえ、なんでもありません。気にしないでください。」
さすがにこれは気色が悪い。
変に警戒されないといいが、恥ずかしさで彼女のことを見れない。
「お、お願いするのです……!」
イフは差し出した膝の間に座った。
本気かこの子。
私の前に座ると膝の間に収まりそうなくらい小さい。
軽く震えていて小動物に似ている。可愛らしいな。
体を洗うと改めてわかることが多い。
髪に艶があって手入れしていることがよくわかるし。
こんなに筋肉があるとなると羨ましくなる。特に腹筋は私にもこんなにない。
「あの、どうして私は貴女の体を洗っているのでしょうか。」
「それはフェルちゃんから言ってきたの!」
いちいち反応が可愛らしい。
こういう子は屋敷にはいなかったから新鮮な感覚だ。
「フェルちゃん、良かったら私も体を流すのです。」
「いいのですか?」
体を流し終えると入れ替わるように体を洗い始めてくれた。
「痒いところはないのです?」
「ありませんよ。」
慎重すぎる気はする。
一生懸命に私の体を洗っている姿を見ると小さい頃のララを思いだす。
「フェルちゃんみたいに後ろからだと前に届かないのです……。
自分の腕が短くて嫌になるのです。」
この子、着痩せするんだな。
体格に比べて……思ったよりある。
「フェルちゃん?何を考えているのです?」
「いえ、なんでもありません……。」
もしかしたら私よりあるかもしれない。
……私は何を考えているのか、まるで変態みたいではないか。
浴室から上がって、アルタロムを待っている間は私の部屋で待機することにした。
「いいのです?」
「構いませんよ。こうした方が話が早いですから。それより、氷菓子は食べますか?」
「食べるの!」
食い付きがいい。この世界では菓子自体珍しいからな。甘味なんてあまり食べないのだろう。
用意した水を凍結で氷にし、その氷を包丁で削る。
あとは蜂蜜を使ったシロップをかけるだけ。
「粗末なものですが。」
「い、いただきますなの。」
さぁ、どんな反応だ。
「美味しいの!こんなに甘いの食べたことないの!」
「そうですか、良かったです。」
出してよかった。
「どうやってこんなに甘いのを作ったのです?」
「あぁ、屋敷で養蜂をしています。
採取した蜂蜜を持参しました。」
「ようほう……?」
イフはキョトンとした顔をこちらに向けてきた。
そうか、こちらの世界では養蜂の概念がないのか。
「蜂を飼って蜜を分けて貰うことですよ。」
「蜂さんを飼うのです!?」
「危なくは無いですよ。あまり強く刺激しなければ襲ってくることもありませんから。」
半信半疑という感じだ。
こちらの世界の蜂は一匹が子供の拳大程度の大きさだからな、無理も無い。
「よろしければお持ちしますか?」
「是非お願いしますなの。」
この世界の住人は甘味には目がない、取れるものといえば果物程度で貴重だからだ。
そのせいか、初見の反応は皆こんなふうに驚く。
「戻ったよ、それでどうしたんだ?」
「お帰りなさいませ。イフ様がお見えになっていますよ。」
間の悪い人だ。もう少し後に来れば氷菓子を見ずに済んだのに。
「イフか、紫から返答が帰ってきた……ってことでいいんだよな?」
「はいなの。
残念ながら、紫様は力を貸すことは出来ないらしいの。」
「そうか……。」
想定の範囲内だ。
アルタロムもわかっているはずだが、
焦っている……?
騎士団長と何を話したのか聞き出す必要がありそうだな。
「ただし、私個人に出来ることなら協力しても良いの。」
「そうか!」
アルタロムが表情を明るくした。
そんなに紫に対して期待していたのだろうか。
イフが協力するというのは、まだ同盟について検討している状態であると取っていいだろう。
イフの反応次第では同盟が結ばれる可能性がある。
だが、現状の打開にはイフの実力では力不足だ。早急に戦力を集める必要がありそうだな。
「それでは私は失礼するのです。
あと、蜜の件ありがとうなのです。」
イフは私が持たせた蜂蜜の瓶を抱きしめて部屋に出ていった。
出ていったあと、アルタロムが激しくため息をついたから多分私と同じく、イフの実力について考えていたのだろう。
「まぁ、 まだ期待が終えていないと言うだけで十分か……?」
そして、腰掛けたまま考え事を始めた。
色々と話を聞きたいのだが、この状態になったら話を振りずらい。
「無理……。
フェル、俺にもかき氷を出してくれ。」
「……承知しました。」
せっかくの蜂蜜がすぐに無くなってしまいそうだ。
「どうぞ。」
「ありがとう。
それじゃあ、食べながら話をしようか。」
アルタロムは羊羹を差し出してきた。
これは、一度屋敷に帰ってくすねて来たな。
そんなことをする暇があればすぐに来ればいいのに、私の好みを知っていてにくいやつだ。
でも実際、こういった楽しみがないと今の状況ではやっていられないだろうな。




