115話:荒野の荒療治
突如として目の前に広がった荒野。
中央大陸の地理でこんな場所は見た事がない。
つまり、ここは中央大陸の外であり、間違いなく魔大陸だ。
現状は最悪。
大怪我を負っている状態でガラティーンも失った上、“この魔王“に地の利も奪われた。
そもそも、“この魔王“は私を担いでいる時点でいつでも殺せる。
戦ったところで勝てないし、連れてきた目的も分からない。
抵抗は出来ない。
辺りを少し見渡してから、魔王は腰を下ろして地面を探った。
「大地の神よ 我が命に答え力を示せ」
大地の要塞
魔法が発動すると、地面の表面が岩盤に変化して半円状に迫り上がってきて驚いた。
本来大地の要塞は一騎士団が入るほど巨大な拠点を作るもの。
それを、下級の詠唱で野営用の正確に簡易拠点程度の大きさになるよう魔法を操った……?
“あの魔王“を見て、私と魔王たちの魔法の次元が違うことくらい理解していたが、“この魔王“は雑に放つ“あの魔王“より何段も勝っている。
「入れ。」
そして、私は魔法で作った拠点の中に降ろされた。
「右足を出せ。」
本来なら魔王の命令なんて聞くつもりはないが、この時、私は言われるがままに足を出していた。
魔王は水魔法で私の足を洗った後、糸のように細く成形させた黒い流体を私の足に浅く突き刺し、波のように左右を描かせた。
それを見れば何をしているかは察せる。
「あの、なんで私の怪我の手当なんてしているんですか……?」
そう問うと、男は不思議そうな顔をして応えた。
「お前が死ねば因果が崩れる。それも、大きくな。」
疑う必要も無いほど純粋な言葉と態度。
先程も、戦闘中でさえ言っていた“因果“という聞き慣れない言葉は、きっと“この魔王“にとって私が敵だということを無視するほど重要なものなのだ。
傷を縫い終えると、次は液体のように成形させた黒い流体を身体に這わせてきた。
「左肩にヒビ。肋が数本折れて、肺に刺さって……いや、それ以外にも傷ついている臓器がある。」
(私はそんな大怪我を負っていたのか……。)
興奮すると痛みを感じずらくなると聞いたことがあるが、ここまで気づかないなんて事……。
「白の魔法を吸ったな?」
白……とは、“あの魔王“が名乗っていた名前。
「……はい。」
私が肯定すると、目の前の魔王は深い溜息を吐いた。
それから、しばらくの間は悩んでいるようで動かない。
「あの毒は、それだけ強力な物なのですか?」
「……ただ吸った程度、かつ、勇者程の魔力を持つ者なら自然に解体できる。だが、重症を負っている今のお前には無理だ。」
その言葉を聞いて、安心した自分がいた。
“この魔王“の言うことが正しければ。
そして、彼が怪我をしていなければ。
アーサーは無事だ。
「不気味なやつだ、このままでは自分は死ぬというのに安心したような顔ができるとは。」
自分で思っていたよりも表情に出ていたようで、私を気味悪がりながら魔王は続けた。
「白の魔法は相手の魔力と生命力を吸い取る。
お前の魔力は枯れ、生命力は残りわずか。細胞のほとんどが活動を停止している。
肉体の感覚がほとんど無くなっているはずだ。
今、お前が生きていられているのは精霊の生存本能に過ぎん。」
「……つまり、もう死ぬしかないということでしょうか?」
魔王は黙り込み、私の体に這わせていた黒い流体を引かせた。
「貴様の言う“毒“は、俺の影を使えば中和できる。決して動くなよ。」
そう言うと、今度は髪の毛以上に細く成形させた黒い流体を私の胸に突き刺てきた。
痛みは相変わらず感じない。
敵意や殺意もない、ただの治療だ。
だからと言って、この状況は否が応でも身体が緊張して強ばる。
数分、その状況が続いた後、魔王の出していた黒い流体が尽きた。
魔王が「終わりだ」と告げた途端、安堵が一気に襲って来て、荒く息を吸って身体を震わせてしまった。
「……痛むぞ。」
魔王が忠告すると肺に耐え難い痛みが走った。
全身もそうだ。しかし、肺に次いで、肩、腹、足、の痛みが激しい。
触診で魔王が怪我を負っていると言っていた部位だ。
息を吸う度に激痛が襲ってくる。
足や肩が熱くて脈打ってる。
意識がぼやけ、何度も途切れる。
「……大いなる生命の神々よ 崇高なる天命の力を示せ 全てを解き放ち恵みを与えよ」
治癒
魔王の声がして朦朧だった私の意識が戻った。
しばらく藻掻いたであろう私に、魔王は生命魔法を使ったのだ。
痛みが段々落ち着いて、ゆっくりと呼吸ができるようになってから、意識がはっきりとして来る。
身体の異常はもう無い……と思う。
二度としたくもない経験をしたと思う。
しばらくしてから、ゆっくりとだが起き上がることができた。
「あ、あり、ありがとうございます……。」
まだ全身の震えが止まらない。
勝手に顎がガクガクと動いてまともに喋れず、
立てないし、支柱にしている腕もいつ役目を全うできなくなるかも分からない。
「礼を言われる謂れはない。明日の早朝、出立する。
しばらくはそれを羽織り、安静にしていろ。」
魔王は自分のコートを私のそばに置いた。
「……お前の体内には俺の影が入った。
しばらくは遠隔で治癒し続けるが、逃げ出せば死ぬぞ。」
さらに、そう付け加えてから、魔王は地面に沈んで拠点から出て行ってしまった。
一人、静かになった拠点の中で状況の整理をする。
まず、治療を開始してからどのくらい時間が経ったのか曖昧だ。
しかし、正午をすぎていたあの時間からしばらく経っているのは確実であり、魔王の言動からして夜は外だろう。
そして次に、骨折や内蔵の傷は治癒魔法で治しているのに、足の傷は治されていない。
これは逃走対策だろう。
そんな事しなくても、武器がない今の私ではこの拠点の外壁を壊すなんてことはできない。
今度は魔王の残した物に目を移す。
「これは……丁寧な饗しだな。」
治療中に使っていたのしては綺麗な湯の入った槽と布。火のついたランプ。そして、離脱前に置いていったローブ。
魔王は確かに「このローブを羽織っておけ」と言っていた。
改めて自分の汚れた身体に目を移して思う。
「……。」
……どれだけ慈愛に満ちた魔王なんだろうか。
直接言われるよりも、「不潔」だと言われたことを実感させられる。
汚れた服を捨て、体液まみれの汚らしい身体を拭き、ローブに包まる。
その場にあるものを見ると、きっと全て魔王が想定していたであろう。
屈辱的な現状に腹が立つ自身を諌めることしか出来ないまま、その晩は眠りについた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
端的に言って、文字数の割に内容薄っ。
最近全体的にそうですよね!でも仕方ないんですよ!書くべきシーンが多いし、というか、この辺は詳しく書かないといけないからテンポが悪くなるんですよぉ……、どうかお許しくださいぃ……(泣)
でもでも!黒節が書けるようになってきてて感激ですよ!!
正直、現状の二人は警戒対象(?)と保護生物くらいの関係でしかないけど、幼少期編くらいの関係になるのはいつになるやら。
それでは、また次回をお楽しみください。
(ブクマして待ってくれたら泣いて喜びます。)




