019.ウエストザースディーン
ブロークンハート大陸の真ん中に流れる大河。
そこに掛かる大橋はザースディーンの西と東を繋いでいる橋で、多くの人や物資が行きかっている。
僕たちは『十三番目の狐』の情報を得る為、大橋を渡りウエストザースディーンの冒険者ギルドへと向かった。
「相変わらずこっちは人が溢れているな」
「まぁ、西からの流通に頼っている状態だから、どうしてもそこに人が集まるからね」
「大橋で東と繋がっているんだから、もっと東も栄えてもいいもんだけどな」
「一旦付いてしまった印象は、そう簡単には拭えないのだろう」
パトルが西と東の発展の仕方に文句を言うと、それにはついて回ってしまったイメージが原因だとアリエスが言う。
「ちっ、そんなに栄えているのが偉いのかね」
「そう憤ってもしょうがないよ。寧ろ、僕たちがイーストザースディーンを発展させて見返そうよ」
「お、いいね! その案、乗った!」
そんな会話をしながら僕たちは西の冒険者ギルドに付く。
「見られてますですね」
ギルドの扉を潜ると、中に居た冒険者たちが僕たちを注視する。
どんな冒険者なのか見極めているんだろう。
「あ~ん? 見たことのない奴だな。新人……っぽいが、まるっきりの新人じゃなさそうだ。って―ことは、お前ら東の田舎者だな」
背中にハンマーを背負った巨漢の男が僕たちの前に立ち塞がる。
「お前らみたいな田舎者はここには相応しくねぇよ。黙って東で獣共の相手をしていな!」
「それを決めるのはあんたじゃなく、僕たちでしょ。それともここじゃ、弱い犬程よく吠えるのかな?」
「あ゛あ゛? おいこら、てめぇ、今なんつった!?」
「モンスターの相手も出来ないヘタレだって言ったんだよ」
「上等だ! 死にてぇらしいな!」
僕の煽りに巨漢の男は背にしたハンマーに手を掛ける。
「くはっ! まさかヴォルが自分から進んで挑発とは。面白れぇ」
パトルは一触即発の状況でも嬉々として同様に武器に手を掛ける。
僕も腰に差した剣に手を添え、いつでも抜ける様に少し腰を落とす。
モコは状況に付いていけずに戸惑うものの、流石に無防備な姿を晒すような真似をせずに、武器に手を添える。
アリエスも周囲を警戒していつでも魔法を放てるように視線を向ける。
まぁ、僕も最初から喧嘩を売るようなつもりはなかったんだけど、ギルドに入って早々にいちゃもんをつけられたからね。
ここで舐められたら情報収取なんて出来ないと思って、ならば逆にガツンとやって普通じゃない印象を植え付けようとした訳だ。
一度ついて回ったイメージの払拭が容易じゃないのはザインの時で懲りたからね。
「お、なんだなんだ。ボアの奴、やる気じゃねぇか」
「やっちまえ! 東の奴らに舐められんじゃねぇぞ!」
「どっちが下か、分からせてあげなさい」
「ボア、手を貸そうか? 見たところ少しやりそうな感じがするぜ」
僕たちの様子を窺っていた他の冒険者たちは、巨漢の男――ボアがやる気なのを見て、囃し立てていた。
中には参加しようとしている者もいた。
そいつはちょっと見る目があるね。
僕は兎も角、パトルとアリエスはE級じゃ破格の強さだからね。
「いらねぇよ。この程度の奴ら、俺様1人で十分だよ!」
そう言いながらボアは背中のハンマーを抜き出し掲げる。
ギルドのカウンターを見ると、受付嬢や事務員の人たちは止める様子は見せない。
普通、ギルド内での私闘は禁止なんだけどね。
あ、ザインとやったみたいに訓練場とかでの決闘はOKだけど。
要はギルド内で暴れて物を壊したり人を傷つけたりするなって事だね。
だけど目の前のボアは余程頭に血が上っているのか、そんなのはお構いなしに武器を取り出したのだ。
それとも、ギルド内での私闘は西じゃOKなのかな?
「待った! ギルド内での私闘は禁止だぞ! もしやるんだったら訓練場での決闘にしろ」
そんな時、今にも襲い掛かってきそうなボアの前に1人の冒険者が立ち塞がった。
革鎧に長剣と一般的な冒険者の姿をしている、茶髪のイケメンだ。
「ラットマン、邪魔をするな。東の田舎者に冒険者のルールを教えてやらねぇと」
「だから、やるなら訓練場での決闘にしろよ。尤も、それも俺は止めるけどね」
「あ゛? お前はこいつらの味方なのか? もしかして東の回し者か?」
「だから、どうしてそう差別するんだよ。東だろが西だろうが、同じザースディーンの冒険者だろ。そうだな、ボアたちの言う通り、西が上だって言うのなら東の者を迎え入れるくらいの度量を見せろよ」
ラットマンの言葉に黙り込んだボアは睨みあう事暫し。
「……いいぜ。ここはラットマンに免じて見逃してやらぁ。だが田舎者が調子に乗るんじゃねぇぞ。ここはてめぇらが思っているほど簡単な場所じゃねぇからな」
ボアはハンマーを背中に戻し、不機嫌なまま戻っていく。
周囲の冒険者たちは「腰抜け」だの「日和ってんじゃねぇよ」とか「ラットマンに弱みでも握られているのか?」だの散々言い散らかしていた。
ボアはそんな冒険者たちをあしらいながら、最終的にはギルドから出て行ってしまった。
一触即発が免れ、僕たちは一応警戒しながら武器から手を放す。
それにしても……、止めに入ったラットマンって、かなり強いのかな?
ボアが大人しく引いたところを見ると、何かありそうだけど。
取り敢えず――
「ありがとう。一応お礼を言っておくよ」
「どう致しまして。意見がぶつかり合う事は悪い事じゃないけど、イーストザースディーンを下だと決めつけるのはここの悪い癖だね。ともあれ、ザースディーン冒険者ギルド・ウエスト支部へようこそ。ここには何か用があって来たんだろ? 良ければ俺が相談に乗るよ」




