7 向き合う
お久しぶりです。
勢いで書いてしまったのできっと拙いですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
喧嘩の後にすべきこと。そう、仲直りだ。だがいい加減な理由を並べて、相手に媚びるような言葉では、たとえ本心から反省していてもその気持ちはまったくもって伝わらない。なぜわかるかって?俺は今までの人生で既に清明と何度も喧嘩し、そのたびに仲直りしてきた。
「あ〜〜。え〜。このたびは、清明の気持ちを考えることができず〜、あなた様に保健体育のテストで勝ったことを〜周囲の人々に必要以上に広めたこと〜につきまして〜誠に申し訳ありませんでした〜。」
確かこれは中一の頃の初中間テストの保健体育で勝って嬉しかったとき。これについては、春楠も雨水も擁護してくれなかった。いやまさか清明にテストで勝てるとは思ってなかったし!?『性について』みたいなやつで清明の挙動が怪しくて、苦手範囲だったとか思ってなかったし!?知らなかったならしょうがないよね!!
…つまり誠心誠意謝罪の気持ちを込めなければ、謝罪とは言えないのだ。今回の件については、俺がやらかし続けた結果だから、清明に非はない。
勉強机に伏せながら現在時刻を確認する。時計の針は11時半を指している。喧嘩とかした日の夜ってどこいても居心地悪いよなぁ。後ろとか異常に気になる。絶対共感者いるはず。
明日の学校で会ったら超気まずいよなぁ。
というか前提として、俺はどう思ってるんだ?
春楠がいない現実を拒むためにずっと馬鹿を演じてたのは…認めよう。どうせ清明と雨水にはバレてるんだから意味ないし。その上、家に殴り込みまでされたら認めるしかない。いや殴ったのは俺だけどさ。
で、そこからが本題。このまま馬鹿を演じるのか、それとも演じずに前の俺に戻るのか。
「っはぁ〜〜わかんねぇ!助けてぇ春楠ぁ!俺にはよくわかんねぇよ!」
1人で暴れる。
実際、最近はどっちの俺が素なのか分からなくなってきた。蝶になる夢を見れば自分が蝶であることに疑問を持たないように、勉強を好きだと自己暗示すれば多少マシになるように、モテない男がモテると自覚すればモテるように、いや最後のはかなり違うか悲しい。
つまり俺は偽物を演じ続けた結果、本物がどれか分からなくなっちまったのか?
この話はきっと今考え続けても答えは出ない気がするから…。かつての俺は何をどうしてたんだ?どの行動に春楠は惹かれてくれたんだ?
俺には、俺の全部が偽物に染まってるように見えちまう。何にも染まってない純粋な俺は……どこへ旅に出たんだろう。
…だめだよし寝よう。明日の俺に全部ぶん投げよう。今までのように辛いことは隠そう……
いや違うだろ!俺は清明に何を言われた!?昔の俺に戻るんだろ!?でも昔の俺ってどんなやつだ…?そもそも変わる必要ってあるのか?
「悩んでるの?」
椅子に座る俺の後ろから掛けられた声。これは誰だ。いやこの高くて明るい声を聞き間違える筈がない。でも…え?
「…春楠………?」
振り向かず問う。
「さぁね?今はそんなことより寒太の悩みについてよ!」
幽霊か…?それとも本当に生きてるのか…?いやどちらもありえないだろ…!
「馬鹿を演じ、現実を理解してるのに向き合わない男がいるって聞いてね。私の主張を伝えにきた。」
背後の何かは流暢に喋る。
「主張…?」
「そう。私の意見。幼馴染の彼氏が乙女みたいにグルグル頭悩ませてるから代わりに私が答えてあげるよ。」
「やっぱお前春n…」
「私はね。どんな人も素の姿が一番好きなの。何も演じていない自然体が。
なぜかは分からないけど何かを演じている人はいつも何かを隠してるでしょ?そしてその仮面を剥いで欲しいって言ってる。言葉には出てないけど言ってるよ。死んで幽霊になってから知ったよこのことは」
幽霊なんて言葉には一切耳を傾けなかった。俺が変わるために必要なものを必死で耳に集める。
「寒太もそう。私があんたを好きになったのは一切自分を隠してなかったからだよ?仮面?そんなの知らねー!って心から元気なあんたに憧れたから好きになった。」
「だから大丈夫!どんな寒太でも私は見ててあげるよ!でもできれば心から楽しんでるあんたを見たいかな!」
「偽物を演じたせいで本物がわからなくなった!?じゃあもうそれが本物よ!ただの上書き保存でちゃんと昔のあんたもいるんじゃないの?」
「もう演じなくていいよ!私のためにやってくれたんでしょ?私がみんなの未来を見れなくなって不平等だと悲しんでくれたんでしょ?でもそれは杞憂…」
「ごめん春楠!!」
ひたすら黙って聞いていたが耐えられなかった。
「お前が死んだとき守れなくて!その後現実を拒んで!分かってたよこれじゃダメだなって!春楠も望まないなって分かってたよ!だけど…!それでも…寂しさを紛らわしたかったんだよ…馬鹿を演じてれば春楠がいるときみたいで……でもそれは偽物で…!ただ思いこみたかっただけで…!それで…」
背後の何かに顔を向けることができず、ただ泣きながら独白する俺に、そいては優しくて言葉を紡ぐ。
「……もう大丈夫だよ。寒太の気持ちは伝わってるから。私はもう十分幸せ。寒太に清明に雨水に…みんなのおかげで楽しかった!私がいたことの証明になった!だから次は…寒太の番だよ?」
自然と俺の体がそいつの方は向く。迷子の子供が母親を見つけたように。
「演技してもいいし、仮面を着けててもいいよ。でもいつかは捨てて欲しいな!
寒太が心から幸せになる日まで私は見とくからね!」
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急速に明るさを感じ目を覚ます。いつのまにか寝てしまっていたらしい。時計の針は5時を指す。
今のは夢だったのだろうか。いや…なんでもいいか。
結局、春楠は何を言いたかったのだろうか?自分で聞いたが、答えは明白。
心から幸せになってね。
ただそれだけ。もしまだ演じてしまうならいっそそっちを本物にしてしまえばいい。でもいつかは演技無しの幸せを手にして欲しい。というだけか。自分でバカを演じることなんてどうでもいい。心からバカになってしまえばそれはもう演技ではない。
そう結論付けるのに随分時間がかかってしまった。そりゃあ清明怒るわな。
とりあえず寝よう。起きて学校に行ったらとりあえず今日だけは……演技無しで過ごしてみようかな。
「一歩前進ね!!」
どこからか聞こえたような気がする声を認識すると同時に俺は睡魔に身を放った。
なんとなくいつもより寝つけが良かった。
改めましてお久しぶりです。
前書きの通り、勢い書きしました。前後の繋がりが悪かったりもすると思いますが、戒めとして残しておきます。直すのめんどいとかではきっとない筈です。
今回は主人公の独白のみですが、本編としてでいいだろうと思い、番外にはしませんでした。
やっと次の話から吹っ切れた自然体のパーフェクト寒太を見れますね。多分あんま変わらないけど。
次回までお楽しみに!