第七十四話 恐るべし酒呑童子
船の出港を妨げる大船団。どうやらオレ達は、歓迎されているようだ。
玄武池の水面は穏やかで、この状況とは正反対だ。
「奴等も必死らしいな。甘寧、どうする?」
「ここまで来たら、やるしかないだろ?」
勿論、オレもそのつもりだ。しかし、出港出来ないのであれば、向こう岸に渡るなど到底無理な話。そんな中、船に乗り込んだ後沈黙を守ってきた酒呑童子が、重い口を開いた。
「出港出来ないなら、我輩が突破口を開く。任せてくれ!」
酒呑童子はそう言うと、オレ達の同意を得ず船首に歩きだした。
「我こそは、酒呑童子。死にたい奴は前に出ろ! 我輩が直々になぶり殺してやるわ!」
その声は、遥か向こう岸にまで届く程大きなものだった。
「酒呑童子だと? あの酒呑童子だと言うのか? これはマズイ。俺はあんな化け物と戦うのは御免だ」
妖魔の一人がそう言うと何隻かの船は恐れをなし、怖ず怖ずと退散していった。流石は黄泉にその名を轟かせる酒呑童子だ。
「雑魚共が……。ん? 逃げずに我輩に立ち向かおうとする輩がいるようだな……」
大船団の隙間を縫い、こちらに向かってくる一隻の赤い船。明らかに周りの船と違うスピード。そして色鮮やかに装飾が施された外観からは、只者ではないと想像がつく。やがてその船は、ゆっくりと速度を落とし、オレ達の船に横付けした。
「裏切り者め、この百々目鬼が成敗してやるわ!」
その赤い船から姿を現した、腕に無数の目がある女。その女は、百々目鬼と名乗った。
「貴様は百々目鬼! お前のような死に損ないに裏切り者と言われたくないな」
「酒呑童子よ、この百々目鬼って奴を知ってるのか?」
オレがそう尋ねると、酒呑童子は息を巻いた。
「おうよ。コイツは鬼骨王様に媚を売った挙げ句、金銀財宝を盗んだ悪党よ。まだ生きていたとは、しぶとい女だ」
「悪党とは人聞きが悪いな。人間に手を貸すとは、不届き千万。鬼骨王に知れたら、お前もタダじゃ済まされないだろうな」
確かに百々目鬼の言う通り、オレ達と共闘したことが鬼骨王に知れれば酒呑童子とてタダじゃ済まされないだろう。しかし、臆することなく酒呑童子は、
「百々目鬼。残念だが、貴様を倒せばそんなことはチャラになる。鬼骨王様は寛大なお方だ」
と、不敵な笑みを浮かべ返した。すると、百々目鬼も負けじと返す。
「我を倒すだと? クラーケン様に頂いたこの力を見くびるなよ。野郎共、やっちまいな!」
百々目鬼の一声で、オレ達の船に数えきれない妖魔が雪崩れ込んできた。
「自らは手をくださず高みの見物か? こんな雑魚など時間稼ぎにもならんわ!」
酒呑童子はそう言うと、次々に襲い掛かってくる妖魔の首根っこを掴み上げた。
「ひぃぃ。息が出来ねえ。た、助けてくれ!」
「目障りだ。死ね!」
酒呑童子は素手で妖魔を仕留めると、玄武池へと振り落としていった。
「さぁ、どんどん掛かってこい! この程度で我輩は死なんぞ」
「おるぁ、百々目鬼様に手出しはさせんぞ!」
果敢に襲い掛かかる妖魔達。しかし、酒呑童子は余裕綽々と一体、また一体と確実になぶり殺していった。そして、オレ達が手を出すまでもなく、僅か数分のうちに酒呑童子は百体近くの妖魔を葬った。
「ブラボー、ブラボー。やっぱりこの程度では遊びにもならないか?」
「当たり前だ。次はお前の番だ!」
「酒呑童子よ、オレも助太刀するぞ」
「テイマーよ、我輩達の敵はこんな奴じゃない。精々体力を温存しているんだな」
酒呑童子はオレにそう言うと、薙刀を手に取り百々目鬼に向け駆け出した。
「死ね! 百々目鬼!」
「来るか?」
双方は睨み合い、足場の悪い船首で戦闘を始めた。




