第五十五話 雌雄決す
「ほう……猪熊の矢を喰らって倒れんとは……ならば、俺の薙刀を喰らって立っていられるかな?」
虎熊童子はそう言うと、薙刀を掲げながら義経に向かって駆け出した。巨体であるが故、逃げろと言わんばかりの遅さだ。
「死ねや――っ!」
しかし、射程圏内に入ると、薙刀は凄まじい勢いで降り下ろされた。
「何処を狙っている?」
薙刀は、弁慶の摩利支天と刻まれた左腕に突き刺さっていた。弁慶は義経を庇い50のダメージを受けた。――HP220/290――
「弁慶、済まない」
「な~に、ハエが止まる程、情けない攻撃だったもんでな。心配すんな、義経」
「己れ、馬鹿にしやがって……」
一番の実力者と思われた虎熊童子は、奥歯が割れる程噛み締めていた。
「独活の大木が――っ!」
義経を庇ったことで攻撃の機会を失った弁慶に、星熊童子が襲い掛かる。その手には、左右にしなった青龍刀が握られていた。
「ふん! 独眼、掛かってこい!」
弁慶は、敢えて傷を負った左腕を全面に押し出し挑発した。
「どりゃ……」
「ふんぬぅ……」
星熊童子の振り抜いた青龍刀は、見事に弁慶の左腕に突き刺さり黒い肌を朱に染めた。弁慶は52のダメージを受けた。――HP168/290――
「こんなもの、痛くも痒くもないわ。さぁ、義経! 反撃だ!」
「うむ。弁慶、助かったぞ」
義経は軽く弁慶に頭を下げると、そのまま後退する星熊童子の背中に、膝丸で斬り付け55のダメージを与えた。――HP175/230――
「どぁぁ……」
不意をつかれた星熊童子は、顔面から床に転げ落ちた。
「済まない……あまりに背中が滑稽だったもので……」
義経の奴、よく言う。まるで遊んでいるかのようだ。と言うより、義経の奴も気付いているのか? オレ達の本当の敵はコイツらじゃない。この五重の塔の最上階にいる何者かだと。ここに居てもプンプン漂う妖気……只者ではない。
不意に川姫と目が合うと、どうやら彼女も感じているらしい。
川姫はオレの顔を見て頷くと、DDを振った。出た目は2の長い髪。
真琴は起き上がったばかりの星熊童子に狙いを定めると、長い髪をその足元に巻き付けた。
「な、何しやがる!」
「いいこと」
真琴は口角を上げると、星熊童子を手繰り寄せ骨董品の山に叩き付け、71のダメージを与えた。――HP104/230――
ダメージを受けた星熊童子は、骨董品の瓦礫に埋もれのびている。
「輪入道、ここは猪熊童子を狙うぞ」
「御意」
振ったDDは1の灼熱を示した。
幸い猪熊童子の傍に虎熊童子もいる。これは願ってもないチャンスだ。
輪入道は深く息を吸い込み、二人に向け灼熱の炎を放ち67のダメージを与えた。――HP183/250――HP198/265――
猪熊童子と虎熊童子は、火だるまになり煤だらけになった。
「我ら四天王に、こんなことしてタダで済むと思うなよ! うらぁぁ」
猪熊童子はいきり立ち、何本もの矢をランダムに放ってきた。これが奴のスキル"乱れ打ち"のようだ。
真琴に二本の矢が刺さり、30ダメージ。――HP190/240――
輪入道は一本の矢が刺さり15ダメージ。――HP196/231――
義経はヒラリと矢をかわした。弁慶はと言うと、三本の矢が刺さり45のダメージを受けた。――HP123/290――
更に今度は、虎熊童子が薙刀をブンブンと振り回し、輪入道へと突っ込んで来た。
「さっきのお返しだ! 受け取れ!」
虎熊童子の薙刀は、強固な体を何度も切り裂き、輪入道は60のダメージを受けた。――HP136/231――
攻撃力だけなら、酒呑童子と五分を張る怪力だ。
しかし、所詮は格下。最後に笑うのはオレ達だ。
「甘い……実に甘い。薙刀と言うのはこう使うんだ!」
虎熊童子の薙刀さばきを見ていた弁慶は触発されたのか、肩に薙刀を背負い、猪熊童子と虎熊童子の前にゆっくりと歩く。味方ながら、その足駄の音は不気味に聞こえた。
「ふぅ……おるぁぁ」
弁慶は無防備な状態で深呼吸をすると、薙刀を横一線に振り抜いた。薙ぎ払われた猪熊童子と虎熊童子は、軽々と吹き飛び、それぞれ40のダメージを与えた。――HP143/250――HP158/265――
本来、ここで星熊童子の攻撃だが、依然として瓦礫に埋もれのびてやがる。
それを見届けた義経は、鯉口に手を添えた。――抜刀術の合図。恐らく狙いは猪熊童子。畳み掛けるなら、このターンだ。
義経は柄を握り締めると、ピンと膝丸の鍔を指で弾いた。何とも心地好い音色だ。
オレがその音色の余韻に浸っていると、猪熊童子は胸を押さえながら吐血していた。どうやら、瞼を閉じている間に抜刀術を繰り出したようだ。猪熊童子に75のダメージを与えた。――HP68/250――
「ぐぼっ……しゅ、酒呑童子が尻尾を巻いて逃げたってのは、あながち間違ってないようだな」
「だから初めから言ってるだろうが。ま、許してくれって言っても遅いけどな」
「そんなことはせん。自害するまでだ」
猪熊童子は全てを悟り、胡座をかいて目を閉じた。
「猪熊――っ! 貴様、それでも四天王か? このままでは酒呑童子に申し訳が立たぬぞ! それにアノお方だって」
虎熊童子が必死に猪熊童子を説得するも、聞く耳を持たない。やがて、猪熊童子は懐から短刀を取り出し、自らの腹に押し当てた。
「猪熊! 馬鹿な真似はよせ!」
「ぐはっ……無念……」
その瞬間、猪熊童子は短刀を腹に突き刺し、自害した。敵ながら見事な死に様だ。
真琴は、敬意を払い両手を合わせた。真琴のように、強く優しい妖怪もいるってことだ。
「お姉ちゃん……ご采配を」
真琴はその表情をキリッとさせると、川姫に采配を促した。
「そ、そうね。私達の番ね」
川姫は動揺を隠しきれない。その光景は、あまりに衝撃的だったから無理もない。
震えた手で振られたDDは4。ミスだ。DDにも動揺が表れたようだ。
「ごめんなさい」
「川姫、心配するな。相手は死に損ないの虎熊童子と、のびた星熊童子だけだ。輪入道がやってくれる」
そうは言ったものの、オレも4のミスを出してしまった。
「へへっ……都合がいい。オイラがぶっ飛ばしてやるぜ」
――刹那。何処からともなく美しい声が聞こえて来た。
『虎熊……何の騒ぎです?』
「その声は、茨木童子様。実は人間に、猪熊と金熊が殺られたんでさぁ」
『人間に? わらわが居ない所で勝手な真似を……』
「これには深い訳が……」
『わらわに、歯向かうと? 人間共々死になさい。ホッホッホ』
その声が消えると、鋭い刃がついた天井が落下し、虎熊童子と星熊童子の体を貫いた。
「タクマ、こっちにも天井が落ちて来たわ!」
入り口付近で待機していたお雪が天井を指差す頃には、オレ達の頭のすぐ上まで迫って来ていた時だった。
「くっ……万事休す……か」
「うぉぉぉ……さぁ、皆……今のうちに次の階へ」
何と、全身に刃を刺されながら、弁慶が天井を押さえていたのだ。
「早く……しろ」
「弁慶、お前はどうなる?」
「俺のことは心配するな。俺は死なん……」
「弁慶……済まない。死ぬんじゃねぇぞ!」
不器用に微笑む弁慶。オレ達は振り返ることなく、上の階を目指した。弁慶の無事を祈りつつ。




