第四十四話 激闘は雨の中
「川姫、急いでDDを振るんだ」
コイツをテイムしたい所だが、お雪の病状の方が心配だ。残念ながら、諦めるしかない。
川姫はオレに促されDDを振った。出た目は6。通常攻撃……。
真琴はべリアルの正面から、パンチを繰り出し19のダメージを与えた。――HP139/250――
全然足りないが、ミスよりはマシだ。川姫を責めてまたケンカになると、余計に感情的になるしな。
オレは負の連鎖を断ち切るべく、冷静になった。実際、冷静とは程遠いが、形だけでも冷静になろうと努めた。
「真琴、ナイスファイトだ」
オレは真琴にそう言うと、DDを放り投げた。出た目は3。こちらも通常攻撃だ。
輪入道はべリアルに弾かれながらも、果敢に体当たりを喰らわせ23のダメージを与えた。更によろめいたべリアルに、車輪で強靭な筋肉を引き裂き23のダメージを与えた。合計46のダメージ。――HP93/250――
「貴様ら、まだ俺様の恐ろしさがわからんようだな。西洋妖怪の力を見せてやる」
べリアルはあれ程ダメージを受けたのにも拘わらず、ピンピンしてやがる。何か奥の手でもあるのか?
と、考えたが違ったようだ。またしてもべリアルは振り回した大鎌を空振りし、地面に尻餅をついた。その巨体故に、地面に伝わる振動は相当なものだ。
「真琴、チャンスよ」
川姫は直ぐ様DDを振った。出た目は……6。貫通パンチを期待したが、通常攻撃。
真琴のパンチはべリアルに確実にヒットし19のダメージを与えたが、手応えはない。――HP74/250――
しかしそれを挽回するかのように、オレは1を出した。
待ちに待った輪入道の灼熱の炎は、べリアルの体を包み込み、62のダメージを与えた。――HP12/250――
「好機! さぁ、後がないぞべリアルよ。どうだ、こちらも病人を抱えている。大人しく、テイムされないか? お前のその力……貸してはくれないか?」
「テイムだと?」
「あぁ、そうだ。オレ達の仲間として迎え入れたい」
「仲間……か」
そう返すべリアルの表情は、先程より穏やかだ。オレは脈があると踏み、両手を差し出した。
「さぁ、べリアル……」
「…………ふ、ふざけるな! 俺様は黄泉の王になる男。人間ごときに手を貸せるか! 喰らえ!」
べリアルは突然穏やかな表情を憎しみの表情に変え、大鎌を真琴に振りかざした。
「危ない、真琴!」
しかし、べリアルはまたしても大鎌を外し、地面に尻餅をついた。
途端に、これまで以上の地響きがする。
「な、何だ?」
「タクマよ、この雨で地盤が緩み、べリアルの地面に尻餅をついた振動で土砂崩れが起き始めてるようじゃ」
確かに密林の先にに聳え立つ山々から、地響きが聞こえる。
「ガハハハ。これでお前達も終わりだ。道連れににしてやる」
何てことだ。ここは逃げるしかないようだな。
「やむを得ん。真琴、輪入道、カードに戻れ!」
「バトルを放棄するというのか?」
「違う! 今はそんなこと言ってる場合じゃない。べリアルよ、お前も逃げるんだ!」
「逃げる? この俺様が? そんなことしたら、西洋妖怪の名に傷がつく」
べリアルは天を仰ぎ、目を瞑った。どうやら死を覚悟したようだ。
「川姫、お雪! 逃げるぞ」
「タクマ……私はいいから逃げて……」
「お雪! 何言ってやがる。置いて行けるわけないだろ? さぁ、肩に掴まれ」
「タクマと一緒に居れた時間……悪くなかったわ……さよなら…………」
お雪はそう言うと、オレを突飛ばした。その瞬間土砂崩れが発生し、お雪を飲み込んでいった。
「お雪――っ!」
泥を纏った煙の中、オレの声は虚しくかき消されていった。
「タクマさん……」
項垂れるオレの肩に、川姫が手を乗せる。
「くそ……守ってやれなかった……一度ならず二度までも…………」
「タクマよ、運が悪かったとお雪のことは諦めるんじゃ……」
「諦める? ふざけんな、じいさん! お雪はなぁ……オレ達の仲間なんだぞ!」
もう嫌だ。お雪の居なくなった今、旅を続ける意味なんてない。
「タクマさん、ちょっとあれ見て!」
「何だ?」
川姫の指差す方向は、お雪が埋まっている大量の土砂。そこに何があると言うのだ。
「よく見てよ」
その土砂に近付き、目を細める。僅かに蠢く土砂。
「まさか?」
オレはその蠢く土砂を、両手で掘り下げた。すると、銀色の髪が見えた。
「お雪! 生きていたのか?」
オレがそう言い放つと、その銀色の髪は雄叫びをあげた。お雪の声ではない。――べリアルだ。
「貴様、生きていたのか?」
「早く……コイツを……」
べリアルの腕の中で、静かに呼吸するお雪。
「べリアル……お前、お雪を……助けてくれたのか?」
「ガハハハ……妖怪の為に命を投げ出すのも……悪くないな……」
「べリアル、お前って奴は……やっぱりお前を仲間に迎え入れたい……お前はオレ達の仲間だ」
「俺様が仲間……ぐはっ……ガハハハ。気持ちは嬉しいが、俺様はもう駄目のようだ……」
「諦めんな。お前を死なせはしない!」
そうは言ったものの、救う方法など見付からない。お雪を救ってくれた命の恩人だ。
「何か方法が……」
オレが眉間にシワを寄せていると、懐で真琴が囁く。
「ボク、べリアルと融合するよ」
その手があったか。しかし、慣れ親しんだ今の真琴の姿。姿形が変わるのも……。そんな風にオレが躊躇っていると、真琴はべリアルに手を伸ばしていた。
「皆、今までありがとう。姿が変わっても、ボクは皆の傍にいるからね」
真琴とべリアルは光に包まれ、消えていった。
代わって現れたのは、長く青い髪を揺らした妖怪だった。
「お兄ちゃん、ボクは西洋妖怪のラクシャサ。無事、融合に成功したよ。そうそう、姿は変わったけど、真琴って呼んでね」
「ラクシャサの真琴か。宜しく頼むぞ」
どうやら、真琴の意思は、ラクシャサになった今も残っているらしい。オレは胸を撫で下ろし、お雪に駆け寄った。
「はぁ……はぁ……」
「お雪、大丈夫か? 肩に掴まれ」
「タクマ……ありがとう」
オレはお雪を背中におぶった。普段冷たいお雪の体が、焼けるように熱い。このままでは、お雪が溶けてしまう。
「タクマよ、急いで地獄岩を目指すんじゃ。彼処には難病をも治す"ガマの油"売りの"油すまし"もおったはずじゃ」
「ガマの油? よし、急いで地獄岩を目指すぞ」
オレ達は疲労の限界に達していたが、お雪を救うべく今度こそはと地獄岩を目指した。




