第三十六話 妖怪温泉、そして裏切り
オレ達はお雪と真琴の"魂"を定着するべく、妖怪温泉に向かっていた。
妖怪温泉は天狗の里から程近く、歩いて三十分くらいの距離だそうだ。
「じいさん、一つ聞いていいか?」
「ワシにわかることなら、何なりと」
「三種の神器の残り……つまり、"剣"と"鏡"って何処にあるんだ?」
「う~む……」
妖怪大翁は、思わず眉間にシワを寄せた。その間に、物知りじいさんって割には知らないことあるんじゃないかと思っていると、ようやく口を開いた。
「剣……即ち、草薙の剣は、ヤマタノオロチの尻尾に備えられておる。鏡は……以前はガシャドクロが守っておったが、今はどうなっておるか……」
「それだけわかれば、十分だ。妖怪温泉で体を休めたら、そのオロチって奴とドクロをぶっ飛ばしに行こうぜ」
「タクマよ。ヤマタノオロチはとてもワシらの敵う相手ではないわ。勿論、ガシャドクロもな。それに勾玉を奪われた酒呑童子が、いつ襲ってくるかもわからんじゃて」
すっかり酒呑童子のことを忘れていた。まだその姿を確認した訳じゃないが、強敵なのには間違いない。
「取り敢えず、お雪と真琴の魂を定着させるのが先よ」
川姫の言うことももっともだ。それにオレ自身も……。
「タクマ、大丈夫? 何か顔色が悪いけど……」
「お雪、オレは大丈夫だ。問題ない。少し疲れただけだ」
理由はわかっていた。しかし、今はお雪と真琴の魂を定着させるのが先だ。
「所でじいさん、オロチやドクロってのは何処にいるんだ?」
「ヤマタノオロチは、地獄谷を越えた邪馬台国という独自の古代文化を持つ国におる。黄泉と人間界の狭間にあるが故に、死人がわんさかいると言う話じゃ」
「話じゃって、行ったことないのかよ」
「ふぉふぉふぉ。痛い所をつくわい。ワシは知識があるだけで、行ったことない場所は山程あるわい」
「なんだ、そうなのかよ。んで、ドクロは?」
「はて? 何処じゃったか……」
「使えねぇじいさんだな」
「タクマさん、言い過ぎよ」
「川姫よ、いいんじゃよ。所詮、老いぼれ……それより、着いたぞ。ここが妖怪温泉じゃ」
頑強な岩肌に囲まれ、グツグツと沸騰するお湯……立ち込める湯気、とても温泉とは思えない。強いて言うならば、地獄風呂。
「ん~。グツグツと、いい湯加減のようじゃな」
「ちょ、ちょっと待てよ。こんなん入ったら死ぬぞ。沸騰してるじゃねぇか」
「タクマさん、何言ってるの? 黄泉ではこれが常識よ」
川姫も狂ってやがる。暑さに弱いお雪は……。
「温泉大好き~」
喜んでる。喜んでやがる。可笑しいのはオレの方か? いや、常識的に考えてオレは間違ってない。まぁ、いい……。とにかく体を休めなくては。
温泉は混浴だが、脱衣場は別。脱衣場と言っても粗悪な小屋だ。
「それじゃ、後でね」
「タクマ、覗いちゃ駄目よ」
「誰が覗くかよ」
どのみち混浴だ。心配ない。
「さて、真琴。オレ達も行くぞ」
「ボクはあっちにいくよ」
「お前、そっちは女の脱衣場だぞ!」
「……だって……」
「だって何だ?」
「ボク……女だもん」
「女?」
知らなかった。まさか真琴が女だとは……しかし、お雪を抱き締めた時、焼きもちを妬いたことを考えると頷ける。
何れにしても、真琴が男だろうと女だろうと仲間には違いない。
そんなこと思いながら脱衣場を後にし、温泉に向かうと既にお雪と川姫、真琴の三人は湯船に浸かっていた。残念ながら、下着は着たままだ。
項垂れるオレを見て、お雪が言う。
「タクマ、何を期待してたの? 裸で混浴する訳ないじゃない」
それもそうだ。オレは変に納得して、グツグツ煮だったお湯に浸かった。思いの外、熱くない。それに疲れが吹き飛ぶようだ。いや、疲れは吹き飛んだが、あの電気が流れるような違和感は、払拭出来ない。
――オレの中で、何が起きようとしてるんだ?
この時のオレは、知るよしもなかった。
◇◇◇◇◇◇
一方、酒をたらふく飲んだ酒呑童子は、勾玉が気になり天狗の里に戻って来ていた。
「カラス天狗! カラス天狗! 何処に行きやがった? ん? ない……ないぞ! 勾玉がない!」
「酒呑童子よ……勾玉はテイマー共が持ち去った」
「貴様は誰だ?」
「そのテイマーに恨みを持つ……"なまはげ"という者だ。どうだろう、酒呑童子。我と組み、そのテイマーを撃破するというのは」
「面白い……では、そのテイマーとやらを追うぞ」
「御意」
勾玉の力で復活を遂げたなまはげだったが、忘れさられたことに歪んだ感情が生まれていた。
「酒呑童子よ、テイマー共は妖怪温泉に向かったようだ」
「妖怪温泉か……近いな」
◇◇◇◇◇◇
お雪と真琴の魂を定着させたオレ達は、邪馬台国に向け出発していた。その途中で訪れた地獄谷。そこで、オレは凄まじい妖気を感じた。
「タクマよ、感じるか?」
「あぁ、イヤって言う程な……コイツはただ者じゃない」
「この妖気は、恐らく九尾の狐じゃな。地獄谷の主……戦闘は避けられんじゃろうて。見てみい」
妖気大翁が視線を向ける岩壁には、黄金に輝く九本の尻尾を持つ妖怪が、オレ達を見下ろしていた。
「ここは、マロの地獄谷。許可なく通ることは許さんでおじゃるよ」
「コイツが九尾の狐か……ぶっ飛ばしてやるぜ」
「タクマよ、九尾の狐は鬼骨王の部下の中でも力のある妖怪じゃ。心して掛かれ」
「あぁ、言われなくたってそうするさ」
「マロをぶっ飛ばす? 下らん冗談じゃの。死んでもらう……」
九尾の狐は岩壁を駆け降りて来た。




