第二十三話 居着きの雷VS見越し入道
震震に憑依された居着きの雷は、オレの意思とは関係なしに見越し入道に近付く。その目は遠くを見つめ、焦点があっていない。
「居着きの雷! やめろ、戻るんだ!」
「ふふふ……居着きの雷に意思はない。仲間同士殺し合いすればいい……」
「何て、卑怯な……」
「主……どうする? 居着きの雷を攻撃するならば、ご采配を……DDを振らなければ放棄したとみなされ、こちらが攻撃を受けることになる」
「だよな……のんびりもしていられないって訳だ」
このまま指を加えて見ていたって、共倒れだ。震震が憑依した居着きの雷には悪いが、諦めてもらうしかない……か。
「二兎追う者、一兎も得ず……か」
オレは泣く泣く居着きの雷に見切りをつけようと、DDを握り締めた。
「タクマ、正気なの?」
お雪――何故、そんな悲しい目でオレを見る。
「タクマさん、今まで一緒に戦って来た仲間じゃない」
川姫――何故、そんな哀れみの目でオレを見る。
確かにオレは、間違っているかも知れない。妖怪と言えど、一緒に戦って来た仲間だ。それを今、震震に憑依され制御不能になったからと言って、自らの手で葬ろうとしているのだ。
「主……もう時間がない。ご決断を」
「見越し入道……わかっている」
握り締めたDDを持つ手が震える。かつては、敵だろうが味方だろうが邪魔する奴は闇に葬って来たこのオレだ。それが今はどうだ? 妖怪一体ごときを血に染めることを躊躇っている。
「これが人間としての感情……?」
「そうだ。そなたは我々とは違う……仲間を思う気持ち……しかと見届けた」
嘆くオレに、カード化した一本だたらが囁く。
「お、お前は一体?」
「元人間だった妖怪……とでも言っておこうか。さぁ、主。これを……」
一本だたらのカードから飛び出した一本の妖刀。それは妖しく黒光りし、血に染められていた。
「一本だたらよ、これは?」
「これは、我が鍛え上げた"妖刀村正"(ようとうむらまさ)。魂にダメージを与える妖刀……しかし、心が弱い者が持つと、その主の魂でさえ食い尽くす恐ろしい刀だ」
「結局は呪われてるってことだよな?」
「主。それは使い道を誤ればの話。主の今の心ならば使いこなせると判断した。しかし、一度の戦闘でチャンスは一度のみ。長期間持つこと――すなわち村正に魂を食い尽くされることを意味する」
「なるほど……チャンスは一度きり、震震の魂のみを叩き切るって寸法か……へへっ」
「主よ、何が可笑しい?」
「久しぶりだなって。刀と言うか、剣を持つことが」
初めて持つ村正が何故かしっくりくる。その理由は、魔王の時に愛用していた伝説の剣"デスブレイカー"に通ずるものがあったからだ。
「一本だたらよ、恩にきる」
「報酬は頂くがな」
「ふっ、しっかりしてやがる」
「ご武運を」
オレは、握り締めていたDDを放り投げた。出た目は1。祟りだ。しかし、これはあくまで囮だ。
「見越し入道、頼んだぞ」
ギリギリまで炎か雷か迷う素振りを溜見せる見越し入道。その攻撃を受けようと近付く、震震が憑依した居着きの雷。
気配を消し素早く背後に回り込み、鞘から妖刀村正を引き抜く。手にはこれまで蓄積された血糊が纏わりつく。ヌルッとした感触は、あまり気持ちのいいものではない。
見越し入道は注意を自分に向ける。今がチャンスだ。
「つぁぁぁ――っ!」
オレは地面を蹴り上げ跳躍すると、村正で居着きの雷の背中を切り裂いた。
居着きの雷は魂が抜けたように地面に倒れた。そして、その背中から震震が姿を現した。村正でのダメージが効いているのか、足元は覚束ない。
「見越し入道! 今だ」
「御意――っ! うぁぁぁ――っ!」
火炎に決めた見越し入道は、深く息を吸い込んだ。そして吐き出したその炎で震震を包み込み、更にはその巨体でのしかかる。MPを20消費しての付加攻撃だ。合計48のダメージを与えた。
「ふう……助かったぜ。ん?」
傷付き倒れた震震が、見越し入道に手を差し伸べる。どうやら融合するようだ。
「結局、二体とも頂きってね」
震震と見越し入道は、光の中に消え去っていった。
代わって現れたのは、灼熱の炎に包まれた牛車の車輪に厳つい顔――。
「我の名は、輪入道。以後、お見知り置きを」
「あぁ、宜しく頼む。……そう言えば、居着きの雷! おい、大丈夫か?」
「主よ、すまない」
「しっかり、お雪に治してもらえ」
一通り会話を終えると、子泣き爺がオレに近付いて来た。
「素晴らしい。アッシは旦那を誤解していたようでさぁ。その強く、優しい心があれば酒呑童子も倒せるかもしれん」
「必ず倒してやるさ」
「天狗の里は、三途の川を越えた先さね」
「爺さん、世話になったな」
「な~に。アッシの方こそ楽しませてもらったさね。次にここに来る時は歓迎するさね。そうじゃ、一反木綿おるか?」
「はいよ、ここにいるぜ」
「相変わらず口が悪いのう」
「余計なお世話だぜ。俺っちが口が悪いのは生まれつきだぜ」
「ペラペラとやかましい奴じゃ。一反木綿よ、この旦那達を三途の川まで運んでやってあげるさね」
「あぁ、いいぜ。その代わり妖怪饅頭は頂くぜ」
「しっかりしてるさね」
「さぁ、旦那達。俺っちの背中に乗ってくれ」
「木綿ちゃん、宜しくね。私はお雪」
「あ、あぁ……」
「私は川姫。宜しくね」
「あ、はい」
「一反木綿か。宜しくな」
「おうよ」
「お前、男と女じゃ態度が違うな」
「そ、そんなことないぜ。さぁ、掴まってくれ。全速力で行くぜ」
オレ達は一反木綿の背中に乗り、三途の川へと向かった。




