第二十話 妖怪墓地
廃屋病棟を後にしたオレ達は、その先の荒れた山林を抜け、墓地へとやってきた。風に揺れ動く柳の木が、如何にもって感じで、何が出ても可笑しくない雰囲気が漂っていた。しかも、昼間だと言うのに日の光は全くと言っていい程ない。
「参ったな。ここは一本道だし、進むしかないよな?」
お雪と川姫にそう言うと、二人はガタガタ震えながらオレにしがみつく。勿論、悪い気はしないが、歩きにくい。
「なぁ、二人共。歩きにくいから、少し離れてくれないか?」
「だって、怖いんだもん」
お雪は甘えた声で言う。実際、オレだって"この手の場所"は苦手だ。
「本当にこの先に"天狗の里"はあるの?」
川姫……恐ろしいことを言う。この墓地を抜けた先に、天狗の里がある保証はないのだ。
しかし、廃屋病棟からここまでは、一本道。あるとしたら、絶対にこの先だ。
「大丈夫だ。絶対にこの先に、天狗の里はある」
「うむ。天狗の里はこの先じゃ」
「!?」
お雪と川姫に言った筈なのに、二人と別なしゃがれた声がオレに返す。全身に鳥肌を立てると、背中が途端に重くなっていった。まるで鉛が乗っているかのような重さだ。
「きゃ――っ! タクマ、後ろ……後ろ……」
「後ろが何だ? うぅ……」
お雪の叫び声に反応し振り向くと、背中に無精髭を蓄えた老人がおぶさっていた。
「な、何だ、お前! 降りろ!」
「い~や、降りないよ。ここはアッシらのテリトリーさね」
「テリトリー? 知ったことか! オレ達は天狗の里に行くんだ」
「だからこそ、降りられないねぇ」
「んだと? うぅ……」
更に重みが増し、オレの足は泥濘のある地面にめり込んでいった。このままでは、全身が地面に飲み込まれちまう。
「望みは何だ? 言ってみろ!」
「さすが、旦那。察しがいい。アッシはただ通行料を頂きたいだけさね。そうさね、アンタら三人分なら一万円分のクリスタルは欲しいさね」
「一万円分? お雪! 今クリスタルは、いくら分ある?」
「七千円分あるけど、やらないわよ」
七千円分……足りない上にお雪の奴、金にえらい執着がある。
「クリスタルがないなら、ここは通せないさね」
「そこを何とかならないか? オレ達は天狗の里に行って、酒呑童子を倒さなきゃならないんだ。頼む……」
老人は暫く考えた後、オレの背中から降りた。
「酒呑童子を倒したい? ならばそれに匹敵する力か、アッシらに証明するさね」
「あぁ、いいぜ。言っておくけど、オレ達は強いぞ。何せ、酒呑童子の子分の鬼童子も撃破したからな」
「何と! あの呑んだくれを倒したとな? これは面白い…………豆腐小僧! いるんだろ? 隠れてないで出てくるさね」
「へへへ、さすが子泣きのじいちゃん。バレてたか」
突然、墓石の裏から豆腐を持った少年が現れ、老人の問いに答えた。
「豆腐小僧、一本だたらと震震を呼んでくるさね」
「じいちゃん、バトルするんだね。急いで呼んでくるよ」
豆腐小僧はそう言うと、お盆に乗った豆腐を大事に抱え込みながら、朽ち果てた墓石の間を駆けていった。
「旦那。ここじゃ、少々狭い。この先にちょっとした広場があるさね。そこでバトルと洒落込むさね。さぁ、着いてくるさね」
「あぁ、わかった」
オレはその老人に返事すると、その後を追った。
「申し遅れたが、アッシはこう見えてもこの"妖怪墓地"の支配人"子泣き爺"でさぁ。逃げるなんて、野暮な考えはよしてくれよ」
「このオレが逃げるだと?」
「タクマが逃げる訳ないでしょ?」
「そうよ、タクマさんに限ってそれはないわ」
お雪と川姫の言葉は嬉しいが、かえってプレッシャーになる。本当はこんな場所、早くおさらばしたいのだ。
「ここでさぁ」
子泣き爺が足を止めた場所は、土俵のようになっており、その周りを妖怪達が取り囲んでいた。
「さぁ、皆の衆。久しぶりの獲物じゃ。バトルに負けたら、遠慮なく喰らうがいい」
「おぉ――っ! 人間だ」
「こっちには、おなごの妖怪もいるぞ。旨そうだ」
勝手なことを言いやがる。負ける気は毛頭ないがな。
「対戦相手はまだか?」
「そう慌てなさるな。豆腐小僧!」
「じいちゃん、連れて来たよ」
「うむ。ご苦労じゃった。さて、ルールじゃが、二対ニのバトルにするさね」
二体同時に操ったことなどない。
「悪いが二体同時に操れる自信はない……」
オレがそう言うと、子泣き爺はクスッと笑った後言い添えた。
「Cランクまでの妖怪なら二体同時に操れるでさぁ。尤もそれ以上のランクになると、草薙の剣っちゅう三種の神器が必要になるでさぁ」
ベラベラとお喋りな奴だ。だが、いいことを聞いた。
「それでは紹介するさね。まずは一本だたら」
「おう、今日はおもいっきり暴れさせてもらうぜ」
鬼のような形相で、その名の通り一本足で地面を掴みあげている。全身が赤い毛で覆われており、防御力は高そうだ。
「そして、震震さね」
「…………」
何か言葉を放ったようだが、あまりにか細く聞き取れない。
その姿は半透明で、腰まである白く長い髪がユラユラと揺れている。その場にいるが、存在感がまるでない。
「さぁ、今度は旦那の番さね。旦那が戦うのかい? それともそちらのお嬢ちゃん達かい?」
「ふっ、こう見えてもオレはテイマーだ。代わりにオレの妖怪達が戦う。行け! 見越し入道、そして居着きの雷よ」
オレはカード化した二体を、具現化した。
 




