第十九話 戦いの果てに
これ以上鬼童子を好き勝手にさせる訳にはいかない。後方のお雪達も気になるが、まずはこっちに集中しなくては――。
オレは反撃をするべく、DDを転がした。出た目は2。通常攻撃だ。通常攻撃では心許ないが、今はひたすら削るしかない。
「居着きの雷よ、頼んだぞ」
「うぃぃぃ」
多少なり、居着きの雷も酔っ払い始めているようだ。こりゃ、ますます早くしないとマズイな。
居着きの雷はリズミカルにバチを武器に、鬼童子の顔面に叩き込む。鬼童子は巨体を捻りかわそうと試みるが、まるで素早さがない。居着きの雷は、三回バチをヒットさせ20のダメージを与えた。――HP36/136――
「ちくしょう、ちくしょう! ワシは妖怪の王になるんだ。こんな所で躓いてられるか――っ! そうだ、勾玉を……」
追い込まれた鬼童子は逆上し、供えてあった勾玉を手にした。勾玉は鈍い光を見せ、何度か瞬くと音もなく崩れ去った。
「な、何だと? コイツはニセモノだ……酒呑童子の野郎、とことんワシを馬鹿にしやがって……」
「馬鹿は死ななきゃ治らねぇってな。どっちみち、勾玉だけじゃ何にもならない。神妙にしろ!」
「うるせぇ、もうお前達に用はない。ワシは……ワシをコケにしやがった酒呑童子を倒す為に天狗の里に行くんだ」
「酒呑童子?」
「あぁ、ワシの親玉だ。いや、ワシの親玉だった野郎だ。アイツを許さねぇ。さぁ、わかったらそこをどけ!」
鬼童子は戦意をなくし、その場を後にしようとした。しかし、ここまでの騒ぎを起こしておいて逃がす筈はない。無論、居着きの雷も同じ気持ちだ。
「誰がここを通すと言った?」
立ち去ろうとする鬼童子の肩を、居着きの雷は掴み上げた。憎しみと言うより、悲しみの目で訴えかける。
「こんな奴の所為で、数々の妖怪が死んでいったのか……」
オレが悲しみに震えながらそう言うと、居着きの雷に掴み上げられた鬼童子が言う。
「離せ、離せ。なぁ、悪かった。酒ならいくらでもやる。助けてくれ……」
「往生際が悪い……味方まで殺したクセに、命乞いか。お前にはホトホト失望した」
オレは居着きの雷にセットしてあった薬草を煎じて、鬼童子に塗り込んでやった。鬼童子は30ポイント回復した。――HP66/136――
「か、忝ない」
鬼童子は身を屈めながら、オレの横をすり抜けていく。
――刹那。
足を止め、再び振り返る。そして、バトルをしていたお雪と川姫の後ろに立った。
「がははは。お前達は甘いのう。ワシが尻尾を巻いて逃げるとでも思ったか? 茶番は終わりだ。お前ら、アイツを倒せ」
何とも救いようのない奴だ。恩を仇で返し、お雪と川姫を盾にしてきやがった。
「行け――っ! お前ら。敵はあっちだ」
しかし、お雪と川姫は、微動だにしない。どうやら、ほんの少しだけ理性が残っているようだ。
「お雪、川姫。真の敵はそっちだ。オレ達は仲間だ」
「仲間……?」
二人はか細い声で、口を揃えて言った。
「そう、仲間だ。思い出せ」
「何をしてやがる。そっちが敵だ」
混乱したお雪と川姫は、おどおどしている。ある意味チャンスだ。オレは懐からDDを取り出し、床に転がした。出た目は5。稲妻だ。
「主……命を受けた」
居着きの雷は雷鳴を轟かせ、鬼童子の頭上に稲妻を落とし40のダメージを与えた。――HP26/136――
「うががが。はぁ……はぁ……卑怯だぞ」
「どっちがだ。お前のような奴は死んで詫びるしかない……」
「死んでたまるか。がははは」
鬼童子は意識が朦朧としたお雪と川姫を、両腕に抱え込んだ。
「形勢逆転だな。さぁ、どうする」
何処までも卑怯な奴だ。
「くっ……お雪、川姫――っ!」
「おっと、それ以上近付くと、コイツらの命はねぇ。がははは」
鬼童子の鍛え上げられた腕の中で、二人は意識を失いかけている。しかし、成す術がない。
仮に居着きの雷が攻撃を仕掛けたとして、二人を盾にするのがオチだ。
「くそ……どうすれば」
打開策を見付けられず攻めあぐねいていると、真琴が一歩前へ出る。
「真琴? どうした? 戻れ! お前までやられるぞ」
真琴はオレを振り払い、尚も前に出る。
「何だ? 泣き虫が。ワシにやられに来たのか?」
「…………ろ」
「ん? 何だ? 聞こえねぇな」
「……めろ。…やめろ――っ!」
真琴を赤いオーラが包み込む。
「何の真似だ? クソちびが」
「もう一度言う。やめろ……」
「お前に何が出来る?」
真琴は深く息を吸い込み、鬼童子に手を翳す。
「二人を離せ。これが最後だ」
「このガキが! 誰にモノを言ってんだ!」
鬼童子は巨大な足を真琴に向け、蹴り上げた。
「真琴! 逃げろ!」
「あ、あれ? 何処に消えやがった?」
「ウスノロ野郎! こっちだ」
いつの間にか鬼童子の背後に回っていた真琴は、子供だった体から大人に成長していた。
「何処を見てる? ボクはこっちだよ。ふぅぅん!」
それと同時に、鬼童子の背中から腹まで貫くパンチを繰り出し、35のダメージを与えた。
「う、うぐっ……。こ、このワシが……無念……」
鬼童子はその場に倒れ込み、やがて煙のように消えた。そして、代わりに艶やかなクリスタルが残された。
「わぁお。大きいクリスタルね。頂き――っ!」
術が解けたお雪が、いの一番にクリスタルに飛び付く。
「ふぅ……お雪も川姫も元に戻ったか。しかし、危ない所だったぜ。それより真琴、その姿どうしたんだ?」
「わからない。思わずカァっとなったら、この姿になってたんだ。これからは、お兄ちゃんのコマになるよ。座敷わらし改め、座敷殿真琴を宜しくね」
「座敷殿か。進化したってことだよな? まぁ、何にしても宜しくな、真琴」
「うん」
「さて、ここにはもう用がない。鬼童子が言っていた"天狗の里"を目指したいと思うんだが、皆どうだ? そこに本物の勾玉があるらしい。そして、鬼童子の親玉"酒呑童子"もな」
オレの問いにお雪も川姫も頷く。
「今度こそ、勾玉を手に入れてやる」
真琴をカード化した後、オレ達は壮絶な戦いを繰り広げた廃屋病棟を後にし、酒呑童子のいる天狗の里へ向かうことにした。




