第百二十五話 集結
時空の歪みへと飛び込むと、オレ達は再び鬼骨城へと戻ってきた。
さっきまでうねりを上げていた空間は消え去り、本来あるべき姿へと戻っている。
辺りは薄暗く、燭台の灯りだけが心許ないほどに謁見の間を照らしていた。
その先にある王座に待ち構えるであろう鬼骨王――これまで出会ってきた妖怪達より、桁外れの妖気を放っている。
三種の神器を手に入れた時の、あのまやかしなど比べ物にならない――だが、心の底から湧き上がる期待感が、何故かオレの背中を押した。
「覚悟はいいな……皆」
そっと囁くような声が謁見の間に広がりをみせると、それぞれが思いを胸に力強く頷く。
「タクマ……」
「タクマさん……」
「勿論です」
「同じく……」
「俺様に任せろ!」
「だな?」
ここにいるのは、オレとお雪と……川姫、義経、弁慶――明らかに返事の数が二人ほど多い。
と言うことは……思わず振り返ると、心地好い鈴の音――
「タクマ、何しけたツラしてんだよ! 早く行こうぜ!」
「集結って感じだな」
凛とした勇姿――それは苦難を乗り越えてきた甘寧と凌統の姿だった。
「お前ら……」
「タクマ! 死ぬ時は一緒だぜ!」
「甘寧……悪いがオレは死ぬつもりはない……」
「タクマ、それよりその姿……どうしたんだ?」
「それは……」
オレは今までの経緯を、二人に話した。
「成る程な……でもな、お前の出番はないかもな。なぁ、凌統?」
「だな。俺達もかなり腕を上げたからな。早いとこ鬼骨王なんて、ぶっ飛ばしてやろうぜ」
頼りになる仲間が増えることは嬉しいことだ。だが、鬼骨王がオレ達の力を上回るとすれば、犠牲がそれだけ多くなるということでもある。
「甘寧、凌統! 鬼骨王を甘く見るな」
「甘くは見ていない……これだけ力をつけても、身震いさえする」
甘寧の本音――それを聞けたことでオレは安心した。
足並みが揃い王座に近付くと、これまで破れていった妖怪の霊が鬼骨王に纏わりついていた。いや、纏わりついているというより、憑依している感じだ。
以前にも増して鋭く反り上がった角は黒光りし、体の半分以上が白骨化している。奴も奴なりに進化を遂げたのだと、オレは感じた。
「誰だ……貴様は!」
「折角の再会だというのに、ツレない奴だな……」
「教えてくれ……我は何者なのだ。どうして我はここにいる? 旅の者よ、教えてくれ……」
まるで記憶を失っているかのような口振り――だが、これは罠だとも考えられる。
「鬼骨王よ、下手な芝居はやめるんだな! ここでお前を倒す!」
「我を倒すだと? 貴様は我の敵なのか?」
「タクマ! 様子がおかしいわ」
唯一、オレ以外で鬼骨王と面識のあるお雪が異変を感じ取ったが、もう後には退けない――
オレは妖怪達を具現化し、仲間達も戦闘に備え身構えた。
「鬼骨王! 今度こそ、その息の根を止めてやる!」
「我を仇なすものは、何人たりとも許さぬ……」
鬼骨王はゆっくりと王座から立ち上がり、天井を貫くほどの巨体を晒した。それと同時に、一段と妖気は高まっていく。
「タクマよ、死ぬでないぞ! これが鬼骨王のステータスじゃ」
恐らく最後になるかも知れない、妖怪大翁の大仕事――
やっと……やっと此処まで来たのだと、唇を噛み締めた。
鬼骨王 LV60 ランクSS 特性 稀に反撃
HP12000 MP200
攻撃力700
素早さ80
スキル『冥界の鉄槌』(30)『地獄の灯火』(20)
――鬼骨王……黄泉に君臨する妖怪の王。魔界を手に入れようと、魔王であるタクマと争っていたが……
妖怪大翁の十八番である補足が、途中で途切れている。未だかつて、こんなことは初めてだ。
「タクマよ、済まぬ……」
「大した問題じゃないさ。さぁ、皆! これで最後だ……全力で行くぞ!」
オレは妖怪達のバトルフォースを展開しながら、雄叫びを上げた。




