第百五話 豪傑どもの戯れ
ガシャドクロが擦り合わせる骨の音は、鳥肌が立つ程に耳障りだ――。それよりも、こうして味方同士を戦うシチュエーションを演出すること自体悪趣味な奴だ。
「酒呑童子……早くそんな奴等、殺してしまえと言っている! 貴様がぐずぐずしてるから、こうなるのだ」
「ガシャドクロ……わかっている。これは我輩とテイマーとの問題だ。頼む……手を……手を出さないでくれ」
ガシャドクロは研磨を終えた骨を櫓の隅にそっと置き、漆黒の闇の隙間を流れる雲を見上げる。
「わかった……貴様がそこまで言うなら、もう手出しはしまい。但し、貴様が勝利した際……つまり、生き残った場合、私の部下にさせてもらうぞ。な~に、鬼骨王様とて、私の部下になれば貴様が裏切ったことさえ許してくれるさ。何せ、私が“鏡”を持っているのだからな。フハハハッ」
確かに聞いた“鏡”という言葉――酒呑童子との会話に夢中で、墓穴を掘ったようだ。
酒呑童子の意見を聞き入れたことは評価するが、長になる素質はないに等しい。
兎に角、酒呑童子をテイムして、ガシャドクロを倒せば鏡が手に入る。つまり、三種の神器が全て揃うってワケだ。
そうすれば……いや、それよりも今……この現状をどう覆すかが問題だ。
「主……ご采配を……」
「そうだったな、栄螺鬼。待たせてすまない」
振り上げたDD……それは5のダイヤの爪を示した。
栄螺鬼はダイヤの爪を重なり合わせ不協和音を奏でると、一目散に酒呑童子へと駆け出した。いくら味方とて、容赦はしない栄螺鬼――その姿に酒呑童子は不敵な笑みを浮かべた。
恐らく、手加減しないことを嬉しく思っているのだろう。
「さぁ、来い! 栄螺鬼……我輩がそのダイヤの爪を受け止めて見せよう!」
「笑止!」
栄螺鬼は薙刀を構える酒呑童子の強固な防御を掻い潜り、ガシャドクロが与えた傷口へとダイヤの爪を振りかざした。酒呑童子に148のダメージを与えた。――HP166/455――MP10消費70/80――
「どぁぁ……さすがた。今の一撃……効いたぞ」
脇腹から溢れ出す鮮血――攻撃に耐えられるのは、精々あと一回か二回……テイムするチャンスがすぐそこまで来ている。
「酒呑童子よ、本当に援護はいらないのだな?」
「はぁ……はぁ……案ずるなガシャドクロ。我輩は黄泉の鬼神と呼ばれた漢。簡単にはやらせん!」
薙刀を杖代わりに立つ酒呑童子。もはや、立っているのもやっとなのであろう。
脇腹から流れ出る血は太股を伝い、櫓の土台となる石の床にまで達していた。
「テイマーよ……よく見ておけ! これが……これが我輩の力だ――――っ!」
まさに鬼神。栄螺鬼に迫り来る形相は鬼そのものだ。
「何処にそんな力が……」
見ているこっちが心配になる程の、機敏な動き。それと同時に大量に噴き出す血――血――血。
「受けて立つ!」
栄螺鬼はそれを見据え、コンパクトに収納されたダイヤの爪で身構える。
酒呑童子もそれに答えるべく、薙刀に全体重を乗せ降り下ろす。
ダイヤの爪と薙刀が犇めき、額と額の間は五寸程。豪傑同士の鍔迫り合い――。
「薙刀……無双――っ!」
酒呑童子がそう発すると薙刀は鈍い光を放ち、徐々にダイヤの爪を押し出し、遂には栄螺鬼の鱗は引き裂かれた。栄螺鬼は105のダメージを受けた。――HP215/480――
しかし、直ぐ様傷口は塞がり、30ポイント回復した。――HP245/480――
「己れ……しぶとい奴め」
ダメージを与えた筈の酒呑童子が、跪く。ここまでくれば、奴に勝機はない。
「栄螺鬼……楽にしてやれ」
「御意!」
音もなく転がったDDは、3の通常攻撃を示した。
後退することさえ儘ならない酒呑童子。栄螺鬼は素早く斬り込み、141のダメージを与えた。――HP25/455――
残りHPは僅か25。テイムするなら今だ。
オレは鞘から村正を抜き取り、虫の息になった酒呑童子を背後から斬り付けた。ダメージを与えるのではない。威力を最小限に抑え、テイムするのだ。
酒呑童子に、20のダメージを与えた。――HP5/455――
力なく前のめりに倒れた酒呑童子は、オレに両手を差し出した。すかさずオレもそれに答える。
「テイマー……我輩、とても気分がいい。これから、我が主とする」
「酒呑童子、此方からも宜しく頼む!」
酒呑童子をテイムすることに成功すると、何処から聞き覚えのある声がした。妖気は感じられず、魂の叫びのみだ。
――酒呑童子……わらわじゃ。久しゅうな。
「その声は茨木童子?」
――うむ。わらわは、テイマーを恨んではいない。剣を交えることでわかった……悪の根元は鬼骨王だと。さぁ、わらわを迎えいれておくれ。
茨木童子の魂の叫びは蒼白い光となり、酒呑童子の体内へと吸収された。
「うぉぉぉぉ! 何だ、この漲る力」
甘寧に折られた角は修復され、酒呑童子の体はより強靭なものへと変化した。
「酒呑童子……貴様、これはどういうことだ?」
「ガシャドクロ……簡単に言う。我輩の体内に茨木童子の魂が宿った」
「何だと?」
「さぁ、テイマー。いや、我が主。ガシャドクロを亡き者にして、鏡を手に入れるのだ。ご采配を!」
酒呑童子をテイムしただけでなく、茨木童子と融合したことは嬉しい誤算だ。
あとは、ガシャドクロ……コイツを倒すのみってことだ。
「酒呑童子、改めて言おう。お前はオレ達の仲間だ!」
「戯れ言を」
ほんの少し笑みを浮かべた酒呑童子は魂も定着し、静かなる闘志を燃やしていた。




