↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
109/155

第九十三話 言葉じゃない優しさ

 重い腰を上げ声のした鉄格子の向こうに視線をやると、そこには酒呑童子の姿があった。


「酒呑童子、どうしてここへ?」


「あぁ……ここに幻の酒があると聞いて忍び込んだワケよ。それより何だ? ヘマしてバックベアードの奴に捕まっちまったのか? こいつは愉快だ!」


「貴様――っ! 言わせておけば……」


「甘寧、落ち着け。酒呑童子の言っていることは事実だ」


「うぐっ……」


 甘寧はオレに宥められ、一旦は引き抜いた青龍刀を鞘に収めた。ここで酒呑童子と争っても意味がない。それに強固な鉄格子が邪魔して、斬り付けるのは不可能だ。


「甘寧、相変わらず血の気が多いな!」


「余計なお世話だ」


「そんなこと言っていいのか? 折角ここから出してやろうと言うのに……」


 酒呑童子にカリを作りたくはないが、オレ達では牢屋(ここ)から出る術はない。それに囚われたお雪の安否も気になる。


「甘寧、オレ達の負けだ。ここは素直に酒呑童子の力を借りよう」


「ケッ! タクマがそう言うなら仕方ない。酒呑童子……頼む」


「最初からそう言えばいいのだ。離れていろ!」


 酒呑童子はそう言うと、鉄格子を握り締め力を込めた。


「ふぬぅ――っ!」


 凄まじい馬鹿力――。鉄格子はまるでゴムのようにグニャリと曲がり、人一人が通れる程の隙間が出来た。


「ざっと、こんなもんだ」


「恩に着る」


「な~に、これくらい朝飯前だ。さぁ、行くのだろう? バックベアードの所へ」


「勿論、そのつもりだ」


 オレは禍々しい牢屋から脱出しながらそう返した。そんなオレを見て、酒呑童子は何か言いたそうな表情を見せた。言いたいことはわかる……。またオレ達と手を組みたいと言いたいのだ。


「それじゃ、我輩はこれにて失礼する」


 しかし、予想に反して酒呑童子は言葉少なに背を向けた。呼び止めようとすれば出来る距離……。


「タクマさん、これでいいの?」


 オレの気持ちを察して背中を押す川姫。心配してくれる気持ちはありがたいが、こればかりはどうすることも出来ない。

 葛藤にもがき苦しむオレを余所に、


「待てよ! 一緒に来ないか?」


と、凌統が酒呑童子を呼び止めた。

 酒呑童子は振り向きもせず、


「勘違いするな。我輩は、鬼骨王様の部下だぞ。仲良しごっこはゴメンだ」


と、言い残し足早に去っていった。


「何だよ、アイツ……。イイ気にやりやがって」


「甘寧、酒呑童子(アイツ)にはアイツなりのプライドがあるんだ。許してやれ」


「でもよぉ……」


 オレがキッと睨み付けると、甘寧は反論するのを止めた。オレだって本当は酒呑童子についてきて欲しい。だが、それは叶わぬ運命なのだ。


「皆……酒呑童子のことは忘れるんだ。オレ達はオレ達で血路を開く。いいな?」


「しゃ~ねぇな」


 甘寧が苦笑いしながら羽飾りを揺らすと、牢獄の上の方で慌ただしい動きが見られた。それは酒呑童子が去っていった方向だ。


「いたぞ――っ! 捕まえろ!」


「ミノタウロス様に報告だ――っ!」


 どうやら酒呑童子が見張りの妖魔達に見付かったようだ。


「行くぞ!」


 そう言って一歩踏み出そうとした瞬間、怒号を上げる酒呑童子の声も聞こえてきた。


「我こそは酒呑童子。鬼骨王が右腕だ。死にたい奴は掛かって来い!」


「なんだ貴様は? バックベアード様の庭にノコノコと」


「お前がミノタウロスか? 大したことなさそうだな」


「何だと? おい、お前達! この世間知らずを袋叩きにするぞ!」


「おぉ――っ!」


 声の感じからして相当な数……。やがて、激しく金属のぶつかり合う音が牢獄に響いてきた。


「おら、おら――っ! 酒呑童子様を舐めるなよ! どんどん掛かって来い! 表門(・・・)の奴等もな!」


 その言葉でオレは気付いた。酒呑童子は囮になることで、手薄になったバックベアードが待つ城内へと行かせようとしているのだ。何とも粋な計らい。アイツらしいと言えば、アイツらしい。


「酒呑童子の奴……。皆、ここはアイツに任せてオレ達はバックベアードの所へ行くぞ! 反撃だ!」


 激しく戦闘を繰り広げられている中庭を背に、オレ達は再びバックベアードの待つ階段を駆け登った。


「皆、死ぬなよ! これは最後の戦いじゃない……いいな?」


 これまで以上にのし掛かる重圧を払拭するように、オレは再び扉を開いた。

 扉の向こうには、相も変わらず巨大な一つ目を光らせたバックベアードが不敵な笑みを浮かべていた。


「待っていたぞ! 馬鹿どもよ。ここまでやって来るのは計算済みだ。これを見よ!」


 バックベアードの鋭い指先が示す先には、石になった人らしき物が三体並べられていた。


「孫権! 孫策! 孫尚香!」


 甘寧と凌統が揃って声を上げる。どうやら、石になった三体は甘寧達が探していた孫権達で間違いなさそうだ。


「お雪は何処へやった?」


「お雪? あぁ、あの雪女か。ここにいるぞ!」


 バックベアードがギロリと視線を上に向けると、禍々しい鎖に繋がれ宙吊りになったお雪が目に入った。気を失い、痛々しい程に流血している。


「貴様――っ! 生かしておけない! 絶対にな。真琴、水虎! 行くぞ!」


 オレは真琴と水虎を具現化した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。