第九十一話 覚醒
件に死の宣告を喰らったシーサーペントだったが、どうやらそれを払拭する手立てがあるらしい。
囚われたお雪の方も気になるが、今の所変わった動きはない。ここはシーサーペントを信じて、戦いに専念するべきのようだ。
オレはDDを振り、攻撃に転じた。出た目は6の津波を示した。これならば、件に通常のダメージを与えられる筈だ。
「水虎よ、これはチャンスだ。お前の力を見せてやれ!」
「うむ。心得た」
水虎は両手を天にかざし、水気のないこの土地にある僅かな水分をかき集めた。みるみるうちに集まっていく水気は濁流になり、やがて巨大な津波へと発展した。
「期は熟した。さぁ、水虎よ。見せてやれ――っ!」
水虎が腕を振り下ろすと、包み込むように津波が件を飲み込んだ。件に95のダメージを与えた。――HP272/500――
さすが水虎の津波、効果は抜群だ。
「どうだ、件よ。これがオレの水虎の実力だ」
「くっくっくっ……。たががこれしき、問題はありません。それより、見てください。シーサーペントが最期の時を迎えようとしてますよ」
「何っ?」
シーサーペントの肉体は歪みながら、至る所から血飛沫をあげていた。件の告げた予言通り、死を迎えようとしている。
「うぐっ……うぐっ。あ、主よ、心配はいらないと言った筈だ」
「しかし、これでは……」
「主よ……真琴を此処へ……」
「真琴だと? わ、わかった。真琴――っ! 此処に来てくれ!」
オレがそう言うと、真琴はオレの傍に寄り添った。
「真琴……ソナタには計り知れない力を感じる。私が事尽きる前に……かはっ」
「シーサーペント、大丈夫?」
「……大丈夫だ。かはっ……その前に私と融合するのだ。完全とはではいかないが、格段にレベルアップする筈だ」
これがシーサーペントの考えていた
こと。だが、それでは……。
「でも、そしたらシーサーペントが……」
オレを代弁するかのように真琴が言う。融合……確かに真琴は強くなるだろう。しかし、シーサーペント自体は消滅するも同然だ。
「かはっ……時間がない。早く……早く……」
真琴は風に青い髪を靡かせ、真っ直ぐな瞳でシーサーペントの目を見つめた。どうやら意思は固まったようだ。
「シーサーペント……わかったよ。その力、ありがたく頂くね」
「真琴……恩に着る……」
シーサーペントが満面の笑みを浮かべると、真琴はその背中の鱗に手を伸ばした。
「最期のお別れですか? 仲間を思う気持ちは、いつみても美しいものですね。いいでしょう。暫く、待つとしますか」
何も知らない件は、そう言うと地面に座り込んだ。強者の余裕というべきか、散漫なお陰で時間が稼げるというもんだ。
「件、待ってろ! 今、いいものを見せてやる!」
「ほほぅ。それは楽しみですね。白旗ですか? それとも勾玉ですか?」
「もっと、いいものだ」
オレがそう件に言うと、真琴とシーサーペントは光に包まれ空の彼方に消えていった。それと同時に、地面につくぐらい青く長い髪の美しい女性が姿を現した。そして、純白に包まれた衣は眩い光を放っている。
「お前……真琴なのか?」
「うん、ボク真琴だよ。ラクシャサ改め、磯女……宜しくね」
飛んでもなく強い妖気。今までのラクシャサだった真琴とは比べ物にならない。このオレでさえ、凝視することは出来ない程だ。
「タクマ、真琴の奴やりおったわい。西洋妖怪同士の融合で、異国の妖怪に突然変異しおった。磯女と言ったら、かなりの上玉じゃ。シーサーペントも粋なことをするもんじゃ。ほれ、見てみい」
磯女真琴 レベル30 ランクS 特性 理力攻撃 AI二回行動
HP420 MP81
攻撃力120
素早さ85
1.2 通常攻撃
3 ミス
4 長い髪(8)
5 吸血(10)
6 恵みの雨(12)
妖怪大翁の言う通り、かなりの上玉だ。
「じいさん、それはそうと、理力攻撃ってなんだ?」
「いい質問じゃな。これはSランク以上の妖怪が使える特性じゃ。今まで付加攻撃以外MPとは縁がなかったのじゃが、MPを消費することによって強力な攻撃が出来るってことじゃ。因みにスキルの横にある数値が、消費するMPじゃ」
「そうか。それじゃ、MPがなくなったらどうするんだ? 攻撃出来ないんじゃないか?」
「そういう時は、二つ方法がある。一つは次のターンまで攻撃をしない。そうすれば、MPは回復するのじゃ。もう一つは、そのまま攻撃する。しかし、威力は半減するのじゃ」
「成る程な。要は、テイマーの判断次第ってことか」
「そう言う事じゃ」
「タクマさん、私では今の真琴は手におえないわ」
「川姫……わかってる。ここから先はオレ一人で何とかするさ。さて、件……残念ながらお前の予言は外れたようだな?」
「くっくっくっ。可笑しな術を使うのですね。興味深いです」
「ならば、お前もテイムしてやるぜっ! 真琴、行くぞ!」
「任せて、お兄ちゃん」
真琴の返事を受けると、オレはDDを勢いよく転がした。出た目は4の長い髪だ。
真琴はフワリと宙に浮くと、水が滴る長い髪を件に巻き付けた。ラクシャサの時とは比べ物にならない素早さ、そして目で見てわかる破壊力。件に、155のダメージを与えた。――HP117/500――MP8消費MP73/81
件の物理攻撃半減も真琴には通用しない。
「これがSランクの実力……」
「タクマよ、三種の神器を集めて究極進化した妖怪は、もっと凄いぞい」
オレはそれを聞いて鳥肌が立った。そうまでしないと、鬼骨王に勝てないということを示唆していたからだ。
――オレに魔王であった時の力があれば――
そう思ってみても虚しいだけ。今は確実に妖怪達の力をつけることが先決だ。
更に真琴の攻撃は続く。ラクシャサの時まで世話になった貫通パンチ。さっきはまったく受け付けなかったが、今度はその肉体を貫いた。件に120のダメージを与えた。――HP0/500――
通常攻撃とは思えない破壊力。件は、体を丸めもがき苦しんでいる。
「うがぁ……、何故、小生はこんな所にいるのですか? はっ、思い出しました。確かバックベアードとかいう西洋の悪魔に操られていたんでした」
どうやら、この件もバックベアードにやられた被害者のようだな。オレは迷うことなく、消え失せる前に件に両手を伸ばした。そう、コイツをテイムする為に。




