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第三十四話 電話ボックス?

 窓から飛び出したサリルトと斎鹿は広い庭園の中の一角にある、白と赤のバラが辺りに咲いたアサガオの蔦が絡まる白亜のアーチの前にやってきた。斎鹿としては早く遠くに逃げたかったが、サリルトに先導されてアーチの前に連れてこられたのだ。

 斎鹿はサリルトへと誰にも見つからないよう後ろから密やかな声で急き立てる。

 しかし、サリルトはその声を無視するようにアーチの右側の柱部分に右手をついてボソボソと小さな声で言っているが、斎鹿にはよく聞き取れない。サリルトが柱から手を放すとアーチの丁度真下に移動し、向き返ると斎鹿へと右手を伸ばした。

 怪訝そうな顔でその手を取るか躊躇った斎鹿だったが、この世界の常識は斎鹿の常識の範囲を超えるということがわかっていた。怖ず怖ずとサリルトの手に自分の手を重ねた。

 すると、サリルトはその手を握り思い切り自分の方へと引っ張った。その反動で斎鹿は何度目かのサリルトの腕の中に閉じ込められる。サリルトのもう片方の手が斎鹿の背中に回り引き寄せられると、何の変哲もなかった周囲が目も開けていられない程の光で満ち溢れた。そして、それと共にまるで高い鉄棒からぶら下がっているかのような身体が引っ張られるのを感じた。

 斎鹿はサリルトにしがみついて離れなかったが、上から声がした。恐る恐る目を開けるとそこは、緑の並木に沿って洒落た邸宅が建ち並ぶ美しい城下町だった。

 クラシカルな雰囲気を纏った家々の前には、木組みの屋台が真っ直ぐな石畳の道の両側を連ねている。屋台の屋根には光を僅かに反射する色とりどりの布がかけられていた。

 屋台には果物や野菜を売っている店や装飾品を扱っている店などその種類も多種多様だ。白亜のアーチの真下にいたはずだった斎鹿とサリルトだったが、今は緑の並木の隣にある透明な2m30㎝程の長方形箱型居住空間内だった。その箱の1m50㎝程のところにはダイヤル式の赤電話が置かれていた。

 斎鹿は不思議そうに電話を詳しく見るが、受話器やダイヤルは使い慣れた電話に間違いなかった。サリルトは斎鹿を胸から放すと、透明な扉を開けて斎鹿と手を繋いだまま外に出た。斎鹿は引っ張られるようにその後を追いながらサリルトに疑問を尋ねた。


「 ねぇ…どうして電話ボックスがあるの?」


 サリルトは斎鹿の問いに答えないままどんどんと石畳の道を進んでいく。

 斎鹿は口を尖らせると同じ質問を先程よりも大きな声でサリルトへとぶつける。

 

「 …あれは、電話ボックスというものではない。 箱型亜空間移動居住空間転送機・改だ」


「 名前、長っ」


 斎鹿は後ろを振り返り改めて見るがどうみても電話ボックスだ。

 箱型亜空間移動居住空間転送機・改という難しそうな機械には見えない。見れば見るほど、10円を入れるとどこでも電話がかけられて、無料で119に緊急電話が入れられる便利な文明の利器だ。


「 あれは空間移動のための装置だ」


「 空間移動って…瞬間移動?」


「 大まかに言えばだが…。AとBという地点があり、その2つの地点は離れている。AからBへ一瞬で空間移動をするためには、地点Cを必ず通らなければならない。そして、このCを捻じ曲げることによってAからBへと一瞬で移動できるのだ」


「…はい?」


 斎鹿はサリルトの説明を黙って聞いていたが、再び歩き出した。斎鹿は探究心はあるが、持続力が壊滅的にないのだ。


「 …手、放して」


 斎鹿はいまだに繋がれた手を揺らした。


「 嫌だ」


「 あ、そう…って、何で⁉︎」


「 …治安はいい方だが、安心は出来ない」


「 心配してくれてんの?」


 サリルトの真剣な瞳に、斎鹿はからかうように見詰めかえす。


「 妻を心配しない夫はいない」


 サリルトの真摯な言葉に斎鹿は頬が熱くなるのを感じた。きっと赤くなっているだろう。街を歩く人々も公爵とも知らずに甘い言葉を言うサリルトに向かい、口笛を吹いたり言葉を掛けて煽る。


「 つ、妻じゃないから心配はいりません!」


 斎鹿はそんな周囲の視線や言葉にさらに顔を赤くすると、手を繋いだままこの場を去ろうとサリルトを引っ張った。サリルトもそんな斎鹿の様子に気付いているのか、さらに強く手を握ると斎鹿に引っ張られるようにして後をついていく。

 平静を取り戻した頃、石畳の道を頬を赤く染めた斎鹿は、辺りを見廻しながらサリルトと共にゆっくりと歩いていた。

 初めてみる城下町に興奮気味の斎鹿は物珍しい気になった物を見つけてはそちらに行こうと動き出すので、サリルトは左手で斎鹿の右手を強く握った。

 斎鹿は周囲に関心が向いたようで感嘆の声を上げたり、あれは何かと質問をすることに気が向いていった。サリルトは質問する斎鹿に1つ1つ簡単に丁寧に答えていく。知らない間にサリルトは自然と穏やかな笑みを浮かべていた。


「 あ、これ可愛い」


 斎鹿は軒を連ねる屋台の中の装飾品を取り扱っている店をのぞくと、ネックレスやアンクレットなどが置いてあり、斎鹿はその中の銀の細いチェーンに小さなビーズがいくつかちりばめられ、銀の5弁花が3つ青い宝石に付けられたブレスレットを手に取っていた。


「 お嬢さん、お目が高いねぇ~。そりゃ、滅多に手に入らない品物で…」


「 欲しいけど…お金持ってないんで」


 店主の言葉を遮るように言うと、斎鹿は手に取っていたものを元の場所に戻した。

 

「 店主、いくらだ?」


 店主は嬉しそうに答え、言い値を渡すとブレスレットを受け取り、斎鹿へと渡した。


「 え⁉︎ いいよ!」


「 もう買ってしまった。 女物を私がしていたらおかしいだろう」


斎鹿は、プレスレットをはめて、自慢げに見せつけるサリルトを想像し思わず吹き出した。


「 ぷっ! ありがと」


 サリルトは斎鹿の右手をとると、ブレスレットを手首へとつけてやった。




ありがとうございました。


2014/11/02 編集致しました。

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