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1.弟と姉の関係

よくある設定の軽い読み物です。オチもヤマもなだらかな丘くらい。

10話程度で終わる予定です。お付き合いいただけると嬉しいです。

 アリシアはフレイム伯爵家の長女である。幼い頃からずっと彼女は伯爵位を継ぐために領主になるべく教育を受けて来た。

 この国の貴族は男性女性のどちらでも爵位を継げる。とは言え出産などで領地経営を休まざるを得ない女性より男性の方が多い。だから彼女の二つ下の弟、セドリックが爵位を継ぐのが順当であると考える者もいるだろう。彼は現当主の実子でもあるのだから。

 しかしアリシアの弟であるセドリックは生来身体が弱く、すぐに熱を出したり体調を悪くしたりして寝込むことが多かった。そして義父であるスチュワートはアリシアの実の叔父である。彼女の実父であるクリストファーは前当主の側室の子で、爵位を継がず屋敷を出て貿易商人として自活していた。スチュワートは側室の子であるクリストファーが正室の子である自分に遠慮して爵位を譲るために家を出たと考えており、スチュワート亡きあと引き取ったアリシアに爵位を継がせるのは当然、と考えているらしい。彼ら兄弟はとても仲が良かったようだ。

 引き取られた当初、スチュワートと妻エノーラの間に子が無かったため、アリシアも優しい叔父に報いたいと後継ぎになる決意を固めていた。だがそれがプレッシャーであるのも事実。だから弟が生まれた時は肩の荷が下りたようで少しホッとしたものだ。

 しかしその後、弟の体調が思わしくなく、エノーラの産後の肥立ちも悪く次の子が難しいと診断されたこともあり、フレイム家はアリシアが継ぐのだとスチュワートに諭されたのだった。このため、体の弱い弟を助けるために後継ぎとして頑張らねばならない、と改めて彼女は気持ちを整理することとなる。養女である彼女は、それが自分の存在意義と幼い頃から感じていたため、領主教育を頑張ったのだった。


 アリシアと、弟セドリックとの関係は非常に良好だった。

 父であるスチュワートは領主の仕事で忙しかったし、母であるエノーラも産後体力がなかなか回復せず、床に伏せりがちでセドリックを構うことが出来ず、彼の世話は乳母や侍女にほとんど任せきりであった。

だから子供部屋に何くれとなく彼の様子を見に来るアリシアに、セドリックはとても懐いたのである。


「ねえたま! あの、ごほん、よんでくだちゃい!」

「ええ、今日は何にしようかしら?」

「あのね、このあいだの―――ボウケンするやつ!!」

「ああ、『シリウスの旅』ね?」

「そう、それ!」


 ニパッと笑うセドリックが可愛くて、自然にアリシアも笑顔になる。

セドリックは「ねえたま、ねえたま!」と隙あらばアリシアと一緒の時間を作ろうとする。そしてそれはアリシアも同じだった。

 貴族の父母は子育てを早くから乳母や使用人に任せて、自分の仕事や社交を優先するのが普通だ。だからスチュワートやエノーラとセドリックに距離があるのは、本来それほど不自然なことではない。

 だが市井で父と母の元で平民として暮らしていた時期があるアリシアには、それはとても寂しい事に感じてしまうのだった。幼少時に病気で母を失い、その後父を事故で失った。裕福だったから暮らしに困ったことはないし、叔父の養女となってからも、勉強や後継ぎの重圧は大変なものの何不自由ない暮らしを保証してもらっている。だが寂しい気持ちは消せなかった。

 だから愛情を注げる相手を得て、アリシアは生まれ変わったような気持ちになったのだ。自分が大事にして、いくらでも愛して良い相手がいる。そしてその愛情が、笑顔になって返って来るのだ。いくらでも可愛がりたいし、セドリックを可愛がることが、アリシアの生き甲斐になった。スチュワートやエノーラにも、もちろん恩を感じている。だが恩や義務だけでなく―――セドリックのために生きて行こう、と自然と思えることがただ嬉しかったのだ。


 しかしある時、アリシアとセドリックの蜜月は終わりを告げる。

 アリシアが十歳となり、王都にある王立学院に入学する頃、エノーラが体調を崩しそのまま儚くなってしまった。王立学院に入学する際、エノーラの母親である、セドリックの祖母の手の者である家令に手を回され、彼女はタウンハウスではなく寮に入ることになった。その後すぐに、弟は療養目的と称して祖母のいる侯爵領に居を移されることになったと言う。『母親のいない屋敷では後継ぎの世話に手が回らないから』と言う理由で。もともと体の弱い貴族夫人であるエノーラは子育てなどしていなかった。なのにこのような理由を付けるのはほぼ言いがかりである。上位の爵位を持つ貴族から、無理矢理な理由を付けて強引に押し通されてしまったのであった。

 騎士志望だったスチュワートは会計や屋敷の采配などを不得手にしており、妻の実家から紹介された有能な家令が、既に屋敷を掌握していた。このため、逆らうのは難しかったのである。スチュワートはこの時、用意周到に張り巡らされた囲い網に捕らえられた気分だったという。


 それからほぼ二年、アリシアは弟と連絡さえとれなかった。

 彼女が学院の休暇中に領地へ会いに行くと伝えても、セドリックの体調不良を理由に断られ、手紙を書いても返事は梨の(つぶて)

 スチュワートはアリシアとセドリックの面会について、勇気を出して抗議してくれたものの、素気無く却下されたようだ。肩を落とす養父を、アリシアは責められない。忙しい中時折セドリックの様子を確認してくれただけでも嬉しかった。

 徐々に健康になっていく様子を伝えてくれたから、それだけでも良かったと感謝したのだった。会えない寂しさはあったものの、心配はせずに済んで良かったのだと、自分に言い聞かせた。

 どちらにしろ二年後、王都で会える筈だ。そう―――セドリックが学院に入学するまでの我慢だ、と自分に言い聞かせた。


 叔父であり養父であるスチュワートは自分に優しかったし、亡きエノーラもアリシアに優しく接してくれた。しかしエノーラの母である侯爵家の前当主夫人は自分の血筋ではないアリシアを目の敵にしていたから、その所為かもしれない。一度セドリックの七歳の誕生日会で顔を合わせた時には不快気に睨まれ、挨拶をしても無視された。聞こえるように「家畜の匂いがする(貴族が平民を蔑む隠喩)から体調が悪くなった」と言ってそうそうに立ち去ったし、それ以来顔を合わせてはいない。

 これまで彼女は体が弱く伯爵家の後を継げない孫に対して関心を示していなかった。しかし近年開発された魔力症に効く治療薬のお陰で丈夫になりつつあるセドリックには興味を持ったようだった。しかし体の弱い自らの娘、エノーラには横柄な態度をとっており、アリシアにとっては、どうにも好きになれない人物に違いは無かった。







 待望のセドリックの王立学院入学の時―――彼は伯爵家のタウンハウスから通うこととなった。が、アリシアがタウンハウスに戻ることは許可されなかった。お祝いを述べるためにタウンハウスを尋ねることを打診しても、屋敷を管理する家令に『忙しい』の一言で断られる。


……もしかして自分は、セドリックに避けられているのでは?

と、気が付いたのはつい最近のこと。


 それでも。せめて、あの子が元気になっているか、遠くからでも確かめたい。

アリシアは弟が入学するのを、今か今かと待ちわびたのであった。


ご訪問いただき、ありがとうございます。

次話は24日6:00投稿予定です

よろしくお願いします<(_ _)>

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