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黒竜王と黄金の太陽  作者: ホシクズノソラ
第一章 棒切れ令嬢、冒険者になる
1/13

1.棒切れと呼ばれた少女

はじめまして、ホシクズノソラと申します。

小説投稿は10年ぶりくらいになります。一度書いてみたかった「婚約破棄もの」!お目汚し失礼します。

この文章は校正前のものになります。誤字脱字脳内補完していただけると嬉しいです。


 涼やかな風が木々の葉を揺らしている。

 やや頬のこけた少女は、ベッドに寝ながらぼんやりと窓の景色を見ていた。


「さ、お嬢様。こちらを召し上がってください。今のあなたに必要なものはきちんと栄養を摂ることですよ」

 侍女()()()アンナがほかほかと湯気の立つ器を差し出した。両手にすっぽりと納まってしまうその中には、水分が多めのお粥が入っている。

「⋯⋯ありがとう」

 少女――ソーフィアは礼を言って受け取る。目を閉じれば、まるで昨日のことのように思い出せる。



 和やかなワルツ、プカプカと浮かびながら周囲を照らす照明、大広間に咲く色とりどりのドレス。

 華やかな光景とは裏腹に、侯爵令嬢であるソーフィアは静かにため息をついた。血色の悪い顔を隠すように厚く塗られた化粧。流行遅れのドレスはブカブカで、袖からのぞく腕は棒切れのように細い。


「ねえ、見て、棒切れ令嬢よ」

「カイル第二王子殿下もお可哀想に。なんであれが婚約者なのかしら」

「魔法も使えない能無しのくせに。妹君のカタリナ様なら、ねえ?」

 クスクス、と囁く声がワルツと共にソーフィアの耳に入ってくる。

 棒切れ令嬢。ガリガリのソーフィアを揶揄した言葉だ。


 ドレスが流行遅れなのは新しい物を買わせてもらえないから。

 血色が悪く、やせ細っているのは満足な食事を取らせてもらえないから。

 魔法が使えないのはソーフィア自身が聞きたかった。――なぜか、ソーフィアには魔法の出力が上手くいかなかった。何度試しても不発に終わるのだ。魔法の詠唱をしても何一つ発動しない。体に流れる魔力は感じるというのに。


 カタリナは一つ下の異母妹だ。母が亡くなってすぐ愛人と再婚した父はほぼ年の変わらないカタリナを連れてきた。

 同じ場所に住まうことは許されず、小さな別邸に一人追いやられた。

 妹のカタリナには季節ごとに新調される艶やかなシルクのドレスが与えられるのに、ソーフィアに回ってくるのは数年前の流行遅れ、それも仕立て直すことすら許されない「お下がり」ばかり。


「魔力を持たぬ者に、高価な布を纏わせるなど宝の持ち腐れだ」


 父の冷たい声が、いつも食卓に響いていた。食事さえ満足に与えられず、空腹を紛らわすために水を飲んで眠る夜。

 それでも、心のどこかでは期待していたのだ。いつか、一度でいいから、父に頭を撫でてほしい。カイル殿下に「綺麗だ」と微笑んでほしい。

 そんな幼い願いは、空っぽの胃袋と一緒に、とうの昔に枯れ果てていたけれど。

 もし、自分もカタリナのような華やかな魔法を使うことができたら、家族にも愛されただろうか。三人で笑い合う姿を見て、何度思ったか分からない。

 父に疎まれ、義母に憎まれ、異母妹に蔑まれ。

 もう慣れてしまったその心は、痛みも感じなくなっていた。


 今日は第二王子カイルの十六歳の生誕パーティーの夜会だ。その一つ下であるソーフィアは彼の婚約者。すでに関係は破綻しているのだが、王宮からの招待を断ることは許されない。建前上、連れてこられたのだった。もちろん、エスコートはされていない。


 それでもまだ幼い頃はマシだった。顔合わせの時は母が存命だったのだ。ソーフィアも侯爵令嬢としての生活を送っていたし、カイルもややふんぞり返った態度ではあったものの、子ども独自のそれだったから、ソーフィアは彼を支える良き王子妃になろうと思ったものだ。


 年月が経つにつれ、カイルとソーフィアとの交流は薄れ、ここ数年は顔を合わせてもひと言二言罵られるだけ。言葉は決まって「なんだその態度は!」「はっ、棒切れのようだな!」「カタリナを見習え!」であった。そろそろ婚約破棄、という言葉がちらついている。

 そう、ソーフィアは知っている。カイルとカタリナは隠れて会っていることを。――二人は既に関係を持っていることを。



 壁の花になりながら美味しそうな料理の皿を見る。鮮やかなサラダ、ちょうどよい焼き加減のステーキ、一口に揃えられたサンドイッチ、つややかなデザートたち⋯⋯。


(――家では満足に食べさせてもらえないから食べちゃおうかしら。なんて美味しそうなの⋯⋯)


 そう考えているうちに、わあ、と一際大きな歓声が上がる。見ると、色とりどりの蝶がひらひらと舞う魔法が展開されていた。きっとカタリナが魔法を披露したのだろう。

 そんなことより。料理だ。美味しそう。どれを食べようかしら⋯⋯。


「ソーフィア・ローラン! どこにいる! ここへ出てこい!」

 第二王子、カイルのうるさい声がソーフィアの耳に届いた。



「ソーフィア・ローラン! いるのだろう、さっさと出てこい!」

 カイルの不機嫌で苛ついた声が大広間に響き渡った。音楽は止み、沈黙がその場を支配した。


 美味しそうな料理たち、さようなら⋯⋯。取ろうとした皿に別れを告げ、ソーフィアは重いドレスを引きずって、しぶしぶ声の方へと向かう。


 カイルの側には眩い金髪を品よく飾り立て、デコルテが大きく開いた豪奢なドレスを身にまとっているカタリナがべったりと侍っていた。


 婚約者ではないのにちょっと距離が近すぎるのでは? と思いつつ、ソーフィアは輪の中にたどり着く。

「殿下、お呼びでしょうか」

 カイルはイライラとしているようで、小さく舌打ちをした。

「私が呼んだらすぐに来い! 愚図が!」


「殿下、お姉さまが申し訳ありませんわ」

 カタリナはそう言いながら絡める腕に力を入れている。十四歳という年の割に育った胸をムギュとカイルの腕に押し付けている。  あ、鼻の下が伸びた。

「⋯⋯大変申し訳ありません」

 ドレスを持ち上げるカーテシーはソーフィアの体力を奪う。やや時代遅れのドレスはやたら重くて、ガリガリなこの体を支えきれず、少しふらつく。それを見たカイルは鼻で笑った。

「ふん、貧相だな。礼儀もなっていないとは嘆かわしい! カタリナを見ろ、美しく侯爵令嬢としての品を持ち、何より魔術を使える!」

 カタリナは勝ち誇ったような、それでいて憐れみの表情を浮かべている。

「⋯⋯左様でございますね。カタリナの魔法はいつ見ても素晴らしいですわ」

 表情も変えず淡々と頷くソーフィアに、カイルの苛つきが最高潮に達しているのを肌で感じた。


(――早く終わらないかしら。せめてあの鴨のローストだけでもいただきたいわ)


 そんなソーフィアの気持ちを知ってか知らずか、カタリナは無邪気に、だが邪気のある言葉を投げつけた。

「ねえ、お姉さま。私のほうが殿下のお相手に相応しいと思わない? 魔法が発動しないなんて、どこか欠陥があるのではなくて?」

 勝ち誇ったような口調のカタリナに、カイルも鷹揚に頷いた。

「そうだ! 能無しの貴様は私の婚約者に相応しくない! それに、最近では私の茶会にも欠席するという、その態度の悪さも目につく! それに、魔法も使えず、見栄えもせぬ。こんな『棒切れ』を誰が愛するというのだ!」


 始めこそソーフィアだって、彼を愛そうとする努力はしていた。だが、いつの間にか第二王子の公務を肩代わりし、茶会もあることすら知らされていなかった。家族も王宮も、ソーフィアの味方はいなかった。


「愛を知らぬ者ほど醜いものはないな。私の隣には、国民を照らす太陽が必要だ。枯れ木ではない。⋯⋯よって、この場を持って貴様との婚約を破棄する! そして、この美しく気高いカタリナ・ローランと婚約を結ぶ! カタリナこそ、私の『太陽』だ!」

 大広間に響き渡るような大声でカイルは宣言した。

「お姉さま、ごめんなさい。だって、お姉さまがあまりにも『お仕事』をなさるから、カイル様がさみしがってしまったの。癒すこともできない王子妃なんて、不要でしょう?」

 カタリナの笑みを含んだ声が遠くから聞こえる。ソーフィアはうつむき、肩を震わせながら礼をとった。

「⋯⋯承知いたしました。御前失礼いたします」

 陛下も王妃も何も言わない。全て仕組まれたことだったのか。この場にいるはずの両親でさえ、蔑む視線を向けていた。


 前年、カイルとソーフィアの婚約を進めた王太后が亡くなった。王太后はソーフィアの母をよく気にかけていたからか、この婚約が今まで続いたのだろう。


 ああ、やっと自由になれる。いや、家に帰ったらまた両親に何か言われるのだろうか。

(――面倒だわ)



 パン! 頬を叩かれる衝撃でソーフィアの細い身体が吹っ飛び、床に倒れ込む。頬を打たれた衝撃で視界が火花を散らし、床の冷たさが肌に刺さる。けれど、その痛みと引き換えに、ソーフィアの心にまとわりついていた「家族」という名の重い鎖が音を立てて引き千切れた合図のようでもあった。

「家の恥さらしめ⋯⋯!」


 継母は汚らわしいものでも見るかのように、嫌そうな顔を扇子で隠している。

「魔法が使えないなどと、どこの家にも嫁げないではありませんか。穀潰しだわ」

(――穀潰し⋯⋯? 毎日深夜まで書類仕事をさせられ、パン一つも満足に与えられなかった私が?)

 そう心の中で毒づいた。父はそんなソーフィアの目には気づかず、口から唾を飛ばして怒鳴った。

「我が家の子はカタリナただ一人! お前など侯爵家から除籍する! 二度とこの家の敷居をまたぐな! 今すぐ出ていけ!」

 腫れた頬を押さえながらソーフィアはゆっくりと立ち上がった。ぐっと奥歯を噛み締め、震える膝に力を入れる。

「承知、いたしました⋯⋯。今まで、お世話になりました」

 それは感謝ではなく、過去の自分への決別。


(――ああ、せいせいした)

 不思議と足取りは軽かった。けれど、門の外に広がる夜を見つめ、現実に引き戻される。

(⋯⋯けれど、これからどう生きていこうかしら。魔法も使えない私が、どうやって?)



 まだジンジンする頬を時折撫でながら、着の身着のままソーフィアは追い出された。

 誰もいない門を出ると、一人の影が月明かりに伸びている。それは旅装に身を包んだ赤毛の女。

「⋯⋯アンナ⋯⋯? どうして」

 ここに、と言おうとしたソーフィアを、アンナは抱きしめた。その腕はわずかに震えている。

「お嬢様⋯⋯よく、我慢しましたね⋯⋯。その頬、なんとおいたわしや……」

「アンナ、私、追い出されちゃった。能無しはいらないのですって」

 うふふ、と力なく笑う。これからどうやって生きていこうかしら、と続けたソーフィアにアンナは胸をドンと叩いた。

「このアンナにお任せを! 侯爵家など辞めてまいりました。お嬢様、これからは安心して美味しいご飯を食べて温かい布団に寝られますよ!」

 しばらく別の地で養生いたしますよ、とジャラリと重い音がする袋を掲げた。恐らく退職金――金貨が入っているのだろう。

「そんな大金⋯⋯アンナに使って? 私に使うなど勿体ないわ」

「何をおっしゃる! このアンナ、お嬢様を養うことこそ夢でございました! さあ、ここから離れて、少しゆっくりいたしましょう」

 そう言ったアンナは軽々とソーフィアを抱えてしまう。

「きゃ、アンナ!?」

「お嬢様は軽すぎます。羽根のようです。さ、参りますよ」

「ふふ、重かったら、言って、ね⋯⋯。アンナ、ありが、とう⋯⋯」

 ソーフィアはとうとう限界だったのか、とろとろと瞼が下がっていく。その顔をもう一度愛おしそうに眺めて、アンナの瞳がきらりと光を帯びた。

「これでようやく、お嬢様肉体改造計画が始動できます」

 呟いたアンナの声はソーフィアには届かなかった。



ザ、テンプレートな婚約破棄!

ざまあできるのか……?


タイトル修正いたしました。

大変失礼いたしました。

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