死にたがりの主人公が、他の死にたがりにカウンセリングする話
「死にたい」と本気でそう思っても、実行するのは楽じゃない。
首を吊るのは怖い、死ねば世間に迷惑がかかる。
だから、誰かに消して欲しい
殺してくれと願い、出会いを求める
主人公、藤巻茂はこの世界に禿げこむ孤独な死にたがりのことを考えていた。
自分が何よりも死にたがりだった。
だけど死ねない。死ぬほど詰んではいないから。
だけど誰も助けは来ないと、信じて疑わない。
この世界は、死ぬことを許さず、怠惰に生きるものに救いをあてることもないから。
ただ放置され、放浪とした心で生産活動に従事するしかない。
この世界では、死ぬことは犯罪であり、死ぬことを助けることも罪だ。
たとえ本人が心から望んでも。
死にたがりから助けようとしてくれる機関はそれなりにある。
だけどどこも、「死なせてはいけない」という前提がある。さらに機関は大量の患者を効率よく捌く都合上、「寄り添う」と言ってもせいぜい1時間程度の時間にとどまる。
結果として営業スマイルで良く扱われる。或いは説教タイムで嫌な時間を過ごす。
そんなんじゃだめだ。
確かに理論上なら、きっと大半の人間は死なせなくて救える。
だが現実ではそうじゃない人間も必ずいる。
この世界は「助けたい人間よりも、助けてほしい人間のほうが多い」から。
しげるは自分の人生を終わったものと思っていた。だけど死ぬには惜しいとも思って死ねない死にたがりだった。
彼は他人を害せず、自分を害さぬ言葉のみ語れと教わった。だが、彼は罪に手を染めることを決めた。それが自分の人生に価値を持たせる唯一の方法だと思ったから。
「死にたがりの楽園」
それが店の名前。名目上は占い師だ。
そして営業方法、カウンセリング内容は極秘。それは白い領域だけでは片付かない世界があるから。
料金も非公開。金がないものでも相手をするため、献金方式を取った。
彼は移動営業という足が付きにくい方法を取って世の中の死にたがりと接触を謀った。
仕事に疲れた者、失恋したもの、いじめに苦しむもの、老後に苦しむもの、取り返しのつかないトラウマを抱えた者、己の劣等さに浸りきってしまったもの
しげるは時間で区切るようなことはせずに、お客と一緒に生活を送ることで相手の本音を聞きだした。ようやく話せる本音と向き合い、これからのことを「あらゆる選択肢を残したうえで」話し合った。
彼は患者が去るときに必ずこういう「もし、今度こそ無理だと思ったら、ここに来ると良い。そしたら殺してあげるから」と。
すべての人間が元の世界に戻ることを決めるわけではない。一部はしげるの世界に長く居すぎて、彼の旅仲間になってしまったものもいる。
そして、そうでない者は、本人の望む形であの世に葬られる。迷惑をかけず、確実に。




