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10.暗闇の灯

 無傷のテオを連れて森からオーク村に戻った時、みんなは最初とても驚いて、そして喜んだ。わたしたちはしばらく感謝の言葉を受け続けた。


 テオがしたことについて、説明するのはけっこう大変だった。(大人たちはそれなりに納得しつつ、それでもテオはこってりしぼられていた)


 アレクスを護衛していたみなさんは村に戻るとすぐにいなくなったし、アレクスもテオも特に話さなかったので、わたしが使った不思議な力について村の人が知ることはなかった。

 自分でも説明できないような不思議な力だったので、聞かれても困っていたと思う。きっと気を遣ってくれたであろう二人。……ありがとう!


 その後、お礼にと呼ばれた宴会は、村の集会所のようなところで盛大に行われた。おそらく村で採れる一番いいもので作られた大量の料理は、どれも手がこんでいておいしかった。テオの両親だという二人には、最初から最後までお礼を言われ続けた。

 宴会がお開きになり、アレクスのお屋敷に戻った時には、すっかり夜も遅くなっていた。



 星空はどこまでも広がっていた。

 電気もなく、ひたすら静かな夜。空に吸い込まれそうな気持ちになる。あまりの綺麗さにしばらく見入ってしまう。星の並びはわたしの知っているものと違う。嫌でも、自分が知らない場所に来ている現実を突きつけているようだった。


 ここはアレクスのお屋敷の中庭。一旦は自分の部屋で寝支度を整えたものの、何となく気持ちが落ち着かずに外に出てしまった。しばらく立ちすくんでいると、後ろから声を掛けられた。


「……寝れないのか?」

「アレクス……」


「じゃあ、ちょっと歩くか」


 辺りは暗かったが、アレクスが庭に一定の間隔で設置されているランプのようなものに触れる度、ぼうっと灯がともって周囲を照らし出した。

 スイッチのようなものはついていないし、なにより……この世界はきっと電気というものが存在していない。

(不思議……だけど、きれい)



「わたしがやったこと、何なんだろう。」

 歩きながら、言葉がこぼれ出す。

 魔物と話せた。それだけじゃなく不思議な力で抑えつけることができた。

 

 わたしの独り言のような疑問に、アレクスは足を止めて振り返った。そして、言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始める。


「ユーナ、初めて会った時、俺が怖かった?」

 森の中で助けてくれたアレクスの姿を思い出して首を振った。

「そんなことない。燃えているみたいで……きれいだなと思った」


 はっとした後少し目線を逸らしたアレクスは、少し何かを考えているようだ。

「この辺ではあまり見ないんだが、魔法自体はそんなに珍しいものじゃないんだ」

「魔法……」

 そう言われると、自分が起こした不思議な出来事も『魔法』ということばでまとめることができそうな気がする。

「ユーナのいた世界では、魔法は使われていた?」

「まさか!」


「魔法はいろいろな力があって……火を熾したり傷を癒したりもできるんだ。今つけた明かりだって、俺の力を使ったんだ」

 驚いたけど、心のどこかで納得もした。


「魔物と会話ができる力をもつ人間は、俺は見たことがない。ただ、広いこの世界ではきっとそういう人もいてもおかしくないんじゃないかな」


「『この世界』では、そうなんだろうね」

 あっ……なんか、自分でも嫌な言い方――でも、一度口にすると止まらない。


「自分が、自分でなくなっていく気がするの」

 気にしないようにしていたけど、ここ数日のいろいろな疑問がどっと押し寄せる。

「この姿も……顔だって髪だって、本当のわたしとは違うんだよ。そのうえ、変な力もあって。わたしは、誰か別の人間になって、そのうちそんな疑問をもっていたことさえ忘れて、この場所でずっと生きていく……もう、どうしていいかもわからないよ」



「俺の目の前には、ちゃんとユーナがいるよ。」

 それまで黙って聞いていたアレクスは、わたしを宥めるように言った。


「まだ出会ってからほんの数日だけど、ユーナが明るくてやさしいのを知った。前向きでどんなことも努力するのもわかった。そんな、今ここに存在するユーナは偽物なの?」

「それは……」

 慰めるためだろうけど、そこまで言われるとちょっと恥ずかしいな。でも――

「ユーナのことはここにいる俺が認めてるんだ。そんなんで安心できないかもしれないけど、でもそれは間違いないから」

 アレクスは、わたしを元気づけようとしてくれているのがうれしい。わたしの心に、温かいものが広がっていくのを感じる。


「それに、村のみんなも、ユーナにすっかり打ち解けているしな。」

「そうかな?」

「ああ。みんなちゃんとユーナのこと、見てるよ。俺のこともそうだった……」

「?」

 アレクスは少し遠くを見つめてなにかを思い出しているようだった。自分の過去?


「俺の力は少し変わってはいるけど、村の人たちはちゃんと対等に付き合ってくれる。俺の存在のことも、『何も悩むなー』って、丸ごとおおらかに包んでくれる場所だよ。ユーナの力を知っても、なにも変わることはないさ」

「そうだね、最初からこんなわたしのこと、みんな信じて受け入れてくれているんだった」

 すごくほっとした。


「今はわからないことでも、前に進めば見えてくることだってある。それをわかってて行動できるのはユーナの強みだろ?」

「ありがとう、アレクス。まずは……村のみんなにも自分のこと、きちんと話すね」


 その後、わたしの心配な気持ちが吹き飛ぶくらい、村のみんなはわたしの力をあっさりと受け入れてくれた。

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