返答
「あの・・・せっかくのお申し出ですがお断りいたします」
フォザリアはそういうとリアムスとその横にいたビゴーラに頭をさげた。
「どうしてだい?私達の養女になれば、堂々とルカルナ様とだって会える機会が増えるんだよ。生活だって今までとは比べ物にならないぐらい良くなる。これからいろんな勉強をすればいいことだし、あたしだってこの通りだ、貴族社会には全くなじんじゃいないからこれからだよ」
ビゴーラはフォザリアの答えに全く納得がいっていない様子だった。
「ビゴーラ、こういうことは強要するもんじゃないよ。フォザリアさんにはフォザリアさんの生き方があるんだから」
リアムスはビゴーラに首を振りながら言った。
「だけどフォザリアが心配なんだよ・・・」
ビゴーラはあきらめきれないというかのようにリアムスの顔を見た。
「リアムスさん、ビゴーラさん、正式な親子になれなくても気持ちは既に私のお父さんとお母さんみたいだって勝手に思ってるんです私、それじゃだめですか?」
ビゴーラの申し出に驚きつつうれしい気持ちは正直あった。フォザリアはしばらく考えて本音を語り始めた。
「私のような孤児を養子になんて言ってくれて、すごく嬉しいです。でも、私は孤児として育ったただのフォザリアです。この名前は私が捨てられていた時に産着に刺繍されていた名前なんだそうです。私はただのフォザリアとして生きてきました。これからもそのつもりです。ですがもし、私の本当の親がまだどこかにいるのだとしたら、私はあってみたいと思うんです。どんな理由で捨てられたのか、私は生まれてきてよかったのかを知りたいんです。この国の法律では貴族の養子になる時は新しい名前を授けられるのですよね。今までの名前は捨てなければいけないということですよね」
「そうだけど普段の生活では慣れ親しんだ名前を使う者も多いよ」
「私はこの名前を気に入ってるし、何より、もし私が養女になった後で、私がとんでもない一族の末裔とか、極悪人の子どもだったとかわかったら、ビゴーラさんやリアムスさんに迷惑がかかるかもしれないですから」
「あんたがどんな人間を親に持とうと関係ないじゃないか、あんたはあんただ。あたしは全然気にしないよ」
「でも・・・貴族社会は違うと思うんです。大丈夫ですよ。私運がいい方ですから、次また盗賊団が侵入してきても切り抜けてみせますよ」
フォザリアがそう言い切ってもビゴーラはまだ納得できない様子だった。
「だったら、下宿というのはどうだい?家の屋敷からだって通えるんだから」
「だめですよ。あの店は私が人生で最初に手に入れた初めての家なんですから。今の所あそこから出て他の所で生活する気にはなれないんです。都の人達との生活だって楽しいですし」
「だけどねえ・・・じゃああたしがまたあそこに住むよ」
「無理ですよ、あの部屋は今はもう作業部屋になっているんですから、それにビゴーラさんにはリアムスさんっていう素敵な旦那様と素敵なお屋敷があるんでしょ。いろいろこれから大変でしょうし、私の事は気にしないでください。ケーキとかの差し入れももう結構ですから私は本当に大丈夫ですから」
「ケーキの差し入れはあたしの生きがいなんだよ。ルカルナ様の専属料理長の座も譲る羽目になるし、あんたへの差し入れも拒否されたんじゃ私の生きがいが無くなるじゃないか。あたしは普通のお母さんをやってみたかったんだよ。あの店での生活は私の理想そのものだった。あんたには私が貴族出身だとはずっと言わなかったのは、あんたに私の素を知ってもらいたかったからなんだ。私は料理が好きなおばさん、貴族にも色々いるんだよ。孤児出身だっている。生まれなんて関係ないよ。利用できるものは利用したらいいじゃないか。あたしたちは喜んで利用されるよ」
「すごく嬉しいです。私もすごく楽しかったです。あんな生活がまたできるなんて想像するだけで幸せな気分になれます。だけど・・・私は今はこのままでいいです。それにケーキはずっと甘えてましたけど、これからは商売として、時間がある時に知らせて下されば取りに行きますから、それ相応の金額で仕入れさせてください。あのケーキすごく人気なんで私としてもなくなるのは正直おしいと思っていたので」
フォザリアがそういうと、ビゴーラは大きなため息をつくとフォザリアを自分の胸に抱き寄せると呟いた。
「本当に頑固な子だねあんたは、仕方ないね、明日からきちんと納品させてもらうよ、伝票と一緒にね。だけど、困ったことがあったらいつでも頼ってくるんだよ。あんたは私の娘って勝手に思っているんだからね。血のつながりなんか関係ない、書類上がなんだい、ああ~もうどうでもいいことだね。フォザリアはフォザリアだね。他の誰かになれだなんてあたしたちが悪かったね」
「いえ・・・私の方こそ生意気なことを言ってすみません」
フォザリアはビゴーラの背中に腕をまわしながら、この世界では味わったことのない遥か昔に味わった前世の母の記憶を思い出していた。
「ねえねえ、じゃあ僕はフォザリアの弟分になってもいい?」
ビゴーラとフォザリア会話を聞いていたロンダが急に発言した。
「ねえ、いいでしょ。正式じゃなくて、気持ちの問題でさっ。僕姉上が欲しかったんだよね。もうすぐお兄ちゃんになるんだけどさ」
「あら?サルデーニャ様、本当ですか?」
フォザリアは驚いてロンダの後ろにいたサルデーニャに視線を向けながら聞き返した。
「そうなのよ、もう嫌になっちゃうわ。また体形が崩れるんだもの。でも、愛の結晶がまた一つ増えるのは楽しみよ。だから後一人増えたって全然いいのよ。わたくしもあなたの母親役をして差し上げてもよくてよ。困った時はわたくしも頼りなさい」
「ちょっとサルデーニャ様、この子はあたしの娘になるんですから、何かあったらあたしを頼るから大丈夫ですよ。お忙しい王女様を煩わせることはありませんから」
ビゴーラはフォザリアをギュッと抱きしめながらサルデーニャに反論していた。
「あら、あなたよりこの国の王女であるわたくしの方が頼りになるわよ」
「姉上もビゴーラもフォザリアが困惑しているじゃないか。もし何かあったら、フォザリアは遠慮なくこの僕を頼ればいいことだから、いがみ合う必要はありませんよ」
二人の話に割り込んできたのはルカルナだった。
「あら、あなたは王子なんだから、早く婚約者選んで、その女だけの心配をしていればいいじゃない。フォザリアには振られたんでしょ」
「あっ姉上!僕はまだ一度も振られてはいませんよ」
「あらそうだったかしら?フォザリアこの際だからはっきり言ってあげてくれないかしら、この意気地なしの弟に」
困惑しているフォザリアに向かってサルデーニャがいうと、ビゴーラもフォザリアを離すとフォザリアの肩に手をあてて言った。
「そうだね、この際だからはっきり烙印を押してあげた方がいいかもしれないね。フォザリアの旦那になるにはルカルナ様では無理だとね」
「ちょちょっとまってくださいビゴーラさん、逆ですよ。私では無理なんですよ。貴族でもない私なんかじゃ・・・」
「何言ってるんだいフォザリア、あんたがルカルナ様とどうしても婚姻したいと本気で思っているんだったら利用できるものはなんでも利用しているはずだろ。だけどあんたはそうしようとしない、そういうことなんじゃないのかい、この王子様にハッキリ言っておやり」
「そうよ、フォザリアだっていつまでも付きまとうようなことをされたら迷惑よね。だから、いい機会だからはっきり言っておあげなさいな!ルカルナ、いい加減あきらめて、どこの誰でもいいから適当な相手と婚姻しなさいってね」
サルデーニャとビゴーラの言葉を受けてルカルナは青い顔をしていた。そしてとうのフォザリアは混乱していた。サルデーニャとビゴーラの間に挟まれて、何やらルカルナ様とのことを言い始めた。自分でもよくわからないのだ、この気持ちがなんなのか、それにこれが恋だとしても、相手は王子かたや私は孤児、到底結ばれることなんてない身分の差がある。誰かの養女になってまで私がルカルナ様を求めているのか・・・自分でも答えが出ない。
(なんていえばいいのかしら)
混乱している頭の中で失礼にならない返答に悩んでいると、ルカルナが先に言った。
「うるさい!フォザリア!僕はお前が好きだ。お前が側にいてくれるならなんでも頑張れる気がする。身分差などこの際問題にならない。肝心なのはお前の気持ちだ。今すぐにとは言わない、後数年ぐらいなら待つ、お前の気持ちが少しでも僕に向いているのであれば僕も努力する。どうだ、お前の気持ちを聞かせてくれ」
「わっ私は・・・」
フォザリアはそう言いかけてふいに意識が遠のくのを感じた。




