お茶会①
フォザリアは王宮の裏門につき、通行手形をみせるとすんなりと中に通された。
門番もフォザリアの事は知っていたというのもスムーズにはいれた理由だった。フォザリアが中にはいると、行くように指定された場所はロンダの館だった。
(どうしてロンダ様の館なんだろう・・・お茶会の場所はサルデーニャ様の住む宮殿のどこかの庭園だと思っていたんだけどな)
そんなことを思いながらロンダの館がある場所に歩いて向かっていると、視界に入ったのは、ロンダとルカルナの館がある二つの建物の周りにきちんと整備された見事な庭園だった。季節は夏の終わりで、色とりどりの花が咲きほこっていて、フォザリアが去った時と同じ場所とは思えない変わりようだった。そしてその場所には多くの白い丸いテーブルと椅子がセッティングされていて、お茶会の準備が多くの使用人たちによって急ピッチで準備されていた。
「ええ~もしかしてお茶会ってここでするの~!」
思わずその光景を目にして叫んでしまった。その声にお茶会の準備をしていた多くの使用人たちが一斉にフォザリアの方に視線を向けてきた。それと同時に一斉にフォザリアに駆け寄ってきた。
「フォザリア、元気そうでほっとしたわ」
「そうよ、心配してたのよ」
など、ここで働いていた時に仲良くなった使用人たちが口々にフォザリアに話しかけてきた。
「はいはい、みんな時間がないわよ」
人だかりから聞こえてきたのはサルデーニャ王女の声だった。見事なドレスを身に着けているサルデーニャ王女の姿は完璧な装いだった。
「サルデーニャ様、本日は天気も良く、お茶会日よりで何よりです。私では役不足かと思いますが、私にできることはさせていただきたいと思っておりますのでなんでもお命じくださいませ」
フォザリアはそう言って頭をさげた。
「あら、いい心がけね。待っていたのよ、さあ館の中に入ってちょうだい」
「はい」
フォザリアは使用人たちに軽く頭をさげてからサルデーニャ王女の後に続いてロンダの館の中に入って行った。すると階段の上のほうからロンダの元気な声と共にロンダが姿を現した。
「フォザリア、僕ね色々計画を立ててるんだよ。お茶会が終わったら時間ある?」
「ロンダ様すごくカッコイイですね。今日の予定はこれだけですから、お茶会が終われば夕方までなら時間はありますよ」
フォザリアの腕に自分の腕をからませると、フォザリアを見上げながら可愛くいうロンダにフォザリアは笑顔で言った。すると横にいたサルデーニャ王女がロンダをフォザリアから引っぺがしながら言った。
「まあロンダ、無理に決まっているでしょ。今日の夜は舞踏会があるのよ」
「でも、僕は出なくていいって母上はいったじゃないですか」
「ええ、出たくないなら出なくてもいいとはいいましたよ。でもフォザリアには参加してもらう予定になっているのよ。舞踏会は夜遅くまであるから、フォザリアと話すのは無理ね、諦めなさい」
「え?あの・・・私舞踏会の参加は聞いていないのですけれど・・・」
サルデーニャ王女の言葉を聞いて膨れてサルデーニャ王女の手から離れようと暴れだすロンダをすぐ後ろにいたピオレに引き渡すとサルデーニャ王女は笑顔で言った。
「あら言ってなかったかしら、契約では一日ってなっていたのよ。お茶会はお昼過ぎには終わるんだけど、夕方から規模は小さいんだけど、親しい友人達をまねいた舞踏会があるのよ。明日の舞踏会の方が規模は大きいんだけど、お父様がルカルナに、どちらか一つは参加しろっていわれてね、今夜の舞踏会なら参加してもいいって急にルカルナがいうものだからあの子のパートナーを探す時間がなかったのよ。急なんだけどその相手役を引き受けてほしいのよ」
「そっそんなの無理ですよ。私は平民ですよ。しかもここの使用人ですらありませんし、それにルカルナ様のパートナーなんて務まるわけありません。ダンスだって経験ありませんし」
「あら大丈夫よ、ああ見えてルカルナはダンスのリードがうまいから、何とかなるわよ。それにね、今夜の舞踏会は仮面舞踏会だから、みんなそれぞれ好きな仮面をつけるから、あなたが紛れ込んでいてもばれないわよ。もうお父様にも許可を得てるのよ。あなたをパートナーとして参加させるからって、ほら、舞踏会にあの子が参加すると、王子目当てでたくさん近づいてきたらあの子また機嫌が悪くなって引きこもりが再開しちゃったら大変でしょ。今夜は人前にでることが目的だから、それにね、あなたが引き受けてくれないとあの子がごねて舞踏会に参加したくないっていいだしかねないのよ」
サルデーニャは最後の方は何故か声を小さくしながらフォザリアに言った。
「つまり・・・私はルカルナ様が仮面舞踏会に参加させるための餌ですか?」
「あらよくわかっているじゃない」
「それは大変な任務ですね、ルカルナ様は仮面を付けていても皆様気づきますでしょうし、そのルカルナ様のダンスパートナーとなれば注目を浴びてしまいますよね。本当に私で大丈夫なのでしょうか?貴族でもない私が王家の舞踏会にまぎれこんでいたなんて知れたら騒ぎになりませんか?他に適任の人はいらっしゃらないのでしょうか?」
話を聞けば聞くだけ不安になってくる仕事依頼だった。フォザリアは顔を曇らせながらサルデーニャにたずねかえした。
「あら大丈夫よ。あの子は誰かしらって噂が広まるだけで、あなたが平民だなんて誰も思わないわよ」
「ですが・・・ルカルナ様のパートナーが私ではルカルナ様が恥をかくのではありませんか?他の方を探された方がいいと思いますけど」
「あらだめよ、それじゃあ面白くないじゃない。それにあなた以外だとそもそもルカルナがすぐに自分の館に戻っちゃうじゃない」
「面白くないと言われましても・・・」
「ああもう、じゃあ、前金を返しなさい」
「今すぐなんて無理ですよ」
「じゃあ、参加しなさい!無事こなせたら更に追加の料金を支払ってあげるわ」
「ええ?追加料金頂けるんですか?」
追加料金の事を話した途端、フォザリアの顔つきが変わった。その姿にニヤリとしたサルデーニャ王女は隣の部屋の扉の奥にいる相手に向かって言った。
「賭けは私の勝ちのようねルカルナ」
その声にフォザリアが驚いていると、隣の部屋の中からルカルナが正装した姿で現れた。頬のあざの部分には鷲のペイントが既に施してあった。
「ルカルナ様!どうしてここにいるんですか?」
「僕もお茶会に参加することになっていただろ」
「そっそうでしたけど、舞踏会の参加ってどういうことですか?」
「お前はオッケーしないだろうと思って賭けをしたのに、簡単に追加料金で引き受けやがって、見損なったぞ」
「そっそんなこと言ったって、お店の改修作業だってお金がかかるし、みんなを養うためにはお金はいくらあっても足りないんですよ。お店に並べる商品を作るまでにはまだ時間がかかるし、材料費だって支払いがあるし、それに明日からはみんなの食費もかかるし」
そう言いながら下を向いてまだブツブツ言いだしたフォザリアにルカルナがさえぎった。
「はあ・・・・わかったよ。但し、引き受けた限りはさっさと着替えて、ダンスの基礎ぐらいは覚えろ!お茶会が終わったら舞踏会まで特訓してやるからな」
「上手く踊れなくても私の責任にしないでくださいね」
「ああわかった。僕がダンスが下手だってことにしてやるよ」
その時ピオレの手からぬけ出したロンダが再びフォザリアの所に駆け寄った。
「僕も舞踏会でる!ねえフォザリア僕ともダンス踊ってくれる?僕ダンスは得意なんだよ」
「あら、そうなんですか?じゃあ・・・ある程度仕事が落ち着きましたら人目がないテラスとかで踊りましょうか?大勢の人に見られると緊張しますから」
「うん!母上いいでしょ」
ロンダは上機嫌でサルデーニャ王女の方に向かっていうと、サルデーニャ王女は軽く頷いて見せた。
「やった~!じゃあ、準備しなきゃ。ピオレ、僕の仮面ある?」
ロンダはご機嫌でフォザリアから離れると階段を駆け上がっていった。そしてすぐに降りてくるとフォザリアに言った。
「フォザリア、お茶会のビンゴゲームは僕もお手伝いするね」
「あらありがとうございます。じゃあ、ビンゴの番号をひく役をしていただこうかしら、皆様のビンゴに関わる重要な役なんですけど、お願いできますか?」
「うんいいよ、じゃあフォザリアも準備頑張ってね!」
ロンダがご機嫌でフォザリアに手をふると三階へと上がって行った。
「ロンダ様もお元気そうで何よりです」
「あの子、あなたが出て行ってからすごい暗かったのよ。でもあなたから教師の依頼を聞いてからすっかり元通りになって、今日もすごく楽しみにしていたのよ。わたくしもだけど。さっ、お茶会まで時間が無いわ。準備にかかりましょうか?」
そういったかと思うと、サルデーニャ王女は指をパチンと鳴らした。すると別の部屋から三人の侍女らしき人達が出てきて、フォザリアの両腕を掴むと隣の部屋へと引っ張って行った。
「えっあの、あの準備って、ビンゴゲームの準備をするんじゃないんですか?」
「あらそれなら外で準備をさせているわよ。数字を入れてある箱も用意させてあるし、引き当てた紙を張り出す板も用意したし、あなたの店から届いた景品を並べるテーブルの設置も準備中よ。あなたがする準備はあなた自身を磨くことよ。わたくしの友人はみんな王族ばかりなのよ、その格好では失礼でしょ。体を綺麗にして髪も綺麗に結い上げないといけないし、化粧もしないとね。安心なさい、その額の傷はきれいに隠せるから」
「ええ~、使用人の格好じゃだめなんですか?」
「あら駄目よ~夜の舞踏会にでるのに磨き上げる必要もあるしね。あなたが着るドレスは作らせてあるからそれに着替えてちょうだい。安心しなさい、ドレス代金を請求したりしないから」
笑顔でそう言いながら嫌がるフォザリアに満面の笑顔で手を振った。それを何も言わずに見送ったルカルナがボソッと言った
「そんなに急に磨いて何とかなるものなのか?」
「あら、そんな事をいってあなた心配なんじゃないの。他の男がフォザリアに目をつけないか」
「そっそんなことあるわけないじゃないか!」
「あら~分からないわよ。あの子は磨けば光る逸材よ。そこらへんの王女なんかめじゃないわよ。仮面を付けたってあの子の魅力にメロメロになる王子たちが群がってくるかもよ、ダンスを申し込まれちゃったりしてね」
「それは阻止しないといけないな」
姉の顔を睨みつけてくるルカルナをサルデーニャは面白そうに眺めた。その後、お茶会の為にぞくぞくとサルデーニャの友人や他国の王女達が王宮に到着して外の庭園がにぎやかになってきた頃、ようやくフォザリアの準備が整ったとロンダと共に三階の部屋でくつろいでいたルカルナの元に知らせが入った。ロンダと共に一階に降りてきたルカルナは言葉を失ってしまった。そこに立っていたのはどこからどう見ても貴族令嬢そのものだったのだ。
「あっあの、変じゃないですかルカルナ様」
「あっ・・・ああ」
言葉が出ないぐらい驚いているルカルナに対して、ロンダはすぐ近くまで近づいてきて見上げながらフォザリアに言った。
「フォザリア、すっごい綺麗だよ」
「ほっ本当ですか?お世辞でもうれしいです。サルデーニャ様やロンダ様、ルカルナ様の側に立っていても皆様の目を不快にさせない程度には仕上がっているといいんですけど」
「僕ね、さっきから部屋の窓から外を眺めていたんだけど、お母様のお友達とか、若い子達も結構集まってきているけど、あの中でも一番可愛いよ」
「まあ、慰めて頂いてありがとうございます。恥をかかないようがんばりますわ。お手伝いよろしくお願いいたしますねロンダ様。何か失礼なことをしそうになったり発言をしてしまったらこっそり教えてくださいませね」
「うんわかった」
フォザリアはロンダと何気ない会話をしながらも心臓はマックスに高鳴っていた。というのも、すごく高級ドレスを身に着けているというのはさすがに分かったが自分がどういう仕上がりになっているのか、部屋には鏡がなかったのでわかっていなかったのだ。フォザリアは緊張で倒れそうになりながらも外から聞こえてくる貴婦人たちのおしゃべりの声を聞きながら出番が来るのをじっと待つことにした。




