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王子様はゴミ屋敷の引きこもり住人  作者: 加阪あおか
第一章:私掃除婦になる!
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引き受けさせていただきます。

フォザリアは生まれて初めて貴族たちの別荘が建ち並ぶ貴族街へと足を踏み入れた。誰もが気軽に立ち入れる場所ではなかったからだ。

フォザリアは門番に貰った木札を見せると門番は親切に場所を教えてくれた。フォザリアは教えて貰った通りを歩いていると一台の馬車が止まった。


「おい、お前フォザリアじゃないか、さてはようやく僕の奴隷になる気になったのか?」


フォザリアが振り向くと馬車の窓から嫌な奴が顔を出してニヤニヤしていた。


「おあいにく様、仕事で来たんだよ。私は忙しいんだからどこかへいってちょうだい」


「はあ?お前ごとき孤児が貴族様のお宅で仕事なんかできるわけないだろ」


そう言ったかと思うとマランの奴が突然馬車を降りてきて、スタスタと歩いて通りすぎようとしているフォザリアに向かって突進してきた。


「げっ!冗談は顔だけにしてよね」


フォザリアは腕を掴まれそうになるのを間一髪でかわすと必死で逃げることにした。かろうじてまだ走れる。走りだしてすぐに後ろで躓いて豪快に転んだような音が聞こえたが無視して走った。


(もう・・・限界だ。貴族様の屋敷についたと同時に倒れてしまうかもしれないな・・・だけど、あの様子だと今回の仕事はマランはノータッチみたいだ。あいつには何があっても関わらない方がいいって何かが言ってる気がするんだよね。あぶなかったぁ~)


フォザリアはマランがかかわっていない仕事だということだけでも確証が持てたそれだけわかれば十分だった。この仕事もあいつの罠だったら今度こそ餓死しそうだったからだ。


後は気合いで掃除でもなんでもしてやる!フォザリアはフラフラになりながら教えられた貴族の館をめざした。


ようやく目的の屋敷に到着すると、フラフラで倒れそうだったが、根性で踏ん張った。いざ目の前にすると今度は緊張で心臓がバクバク音をたて始めた。


玄関の木戸の扉についてある呼び鈴を鳴らすと、すぐに執事らしい人物が顔を出した。


「あっあのすみません、この木札に書かれている紋章のお屋敷はこちらであっていますか?」


フォザリアは懐から木札をとると目の前の執事らしいきちんと制服を着ている初老の男性に見せた。


「少々お待ちくださいませ」


そういうと屋敷の中に入ってしまった。しばらくすると、バタバタと廊下を走る小さな足音が聞こえてきて、フォザリアに木札を渡した少年が出てきた。


「やあ!待ってたんだよ。入って!」


フォザリアは予想外の展開に驚いて固まっていると、その少年は人懐っこい様子でフォザリアの手を掴むと強引に屋敷の中へと引っ張って行った。屋敷の中は初めてみる豪華な内装だった。


フォザリアはキョロキョロしながら言われるがままついていくと、部屋の中央のテーブルの上には豪華なデザートがたくさん置かれていたのだ。


「さあ、そこに座って、好きなものを食べていいんだよ。食べながら仕事の話をするから」


その少年はフォザリアにフカフカのソファーに座るように促すと、自分は反対側のソファーに腰かけた。そして食べかけのケーキをまた口に入れ始めた。


「あっあの、私を掃除婦に雇ってくださったのはあなただったのですか?」

「うんそうだよ。あ~でも掃除はここじゃないんだ」

「え?」


「まあ、詳しい話は食べてからでいいかな。君も遠慮しないで食べていいんだよ。これだけの量は僕一人じゃ食べきれないし、残すとロロがブツブツいうからさ」


戸惑っているフォザリアに、いつのまにいたのか今度は若い男性がフォザリアの側に近づくと濡れたタオル差し出して言った。


「どうぞ遠慮なくお食べくだいませ。お金を請求したり、仕事の報酬から差し引いたりはいたしませんから」


にっこりと微笑みながら言われた言葉にフォザリアは頷くと、その濡れたタオルで手をふき、自然に手がおいしそうなケーキやクッキーなどに伸びていた。気が付くと無我夢中で口に放りこんでいた。フォザリアとしての人生で初めて食べる甘いものだった。


「どうしたの?何か変なのが混ざっていた?」


フォザリアの顔をじっと見ながらいう目の前の少年の言葉で我に返ったのはそれからしばらく過ぎてからだった。気が付くと、目の前にあった大量のケーキ類はほとんどなくなっていた。フォザリアは真っ赤になって横に首を振りながら答えた。


「すみません、こんなおいしいものを食べたのは久しぶりだったので」

「久しぶりって?どこかで食べた事あるの?ロロのケーキは都でしか食べられないと思ったんだけど」


「あっいえ、間違えました。私は初めてです。すみません。食べ物をまともに食べたのは五日ぶりなので頭が混乱してしまって」


フォザリアはとっさに頭に浮かんだ前世でのケーキバイキングの事を思い出して久しぶりと言ってしまったのだ。孤児であるフォザリアが甘い砂糖や生クリームたっぷりな贅沢なケーキなど食べられるはずがないのだ。しかもここは異世界、前世と比べて食材の名前も微妙に違っていた。よく似た食材は確かにみかけるが、この異世界では作り方などわからないので二度と食べられないものもある。しかし目の前のデザート類は懐かしい匂いがした。


「五日も食べてなかったの?じゃあ、よかった。ロロに事前に用意してもらっておいて」

「本当にすみません。つい夢中になって食べ過ぎてしまいました」


フォザリアは立ち上がり頭をさげた。


「気にしなくていいよ。でも・・・実はお願いしたい掃除婦の仕事は本当に大変なんだ。仕事場所は王都だし、すぐに終わるような量じゃないから、ここをしばらく離れなくちゃならなくなるんだ。それでも引き受けてくれるかな。あっもちろん、準備もあるだろうから、王都までは乗り合い馬車だと三日ぐらいかかるから馬車のお金とその間に泊まる宿のお金は前払いするよ。僕は別の所によらなきゃいけない用事があるから、君より到着が遅くなるかもしれないけど、屋敷の者に先に連絡を入れておくからこの紙を見せると通してくれると思うから待っててよ」


少年は10ルーテン金貨とこの世界では高級品である紙を差し出して言った。


「10ルーテン金貨!そっそんな大金をいただけるんですか?」

「うん、だって宿に泊まるのもお金がかかるでしょ。足りないかな・・・」

「いいいえ、たぶんですけど十分です。ていうかもらいすぎです」


「そうなんだ、じゃああまったら君の小遣いにしていいから、とにかく君にぜひ片づけてほしい場所があるんだ。引き受けてくれるかな?」


「はっはい!引き受けさせていただきます」


フォザリアは立ち上がり震える手でその紙と10ルーテン金貨を受け取った。


「そっよかった」


少年は握手をフォザリアに求めてきたのでフォザリアはもう一度タオルで手をふくと握手をした。そして頂いたお金をテーブルの上に置くと、首にかけていた紐を引っ張ると、服の中でお腹の辺りにぶら下がっていた巾着袋を取り出した。今は中には何も入っていなかった。


「あの・・・その布頂いていいですか?」


それはおそらくケーキなどを食べる際に汚れた口元や手などをふく用に用意されたお手拭きなどだろうと思ったがフォザリアは使わなかったのだ。


「うんいいけど、何に使うの?」


「金貨と契約書が落ちたり濡れたりしないようにくるんでおこうかと思いまして」


「ああ、そうだね、お腹に入れておくと安心だね。もし、その紙をとられたりしたら、僕の名前を言えば僕の居場所は教えてくれると思うから覚えておいてね、僕の名前はロンダ・ルーセンデリンだよ」


「ロンダ・ルーセンデリン様、よろしくお願いいたします。あっそうだ・・・あのできれば、この金貨を銀貨に砕いてくださいませんか?」


「いいけどどうして?」


「こんな大金を最初に私なんかが持って見せると泥棒したんじゃないかっていって返してくれない場合があるんです」


「そうなの?ひどい人間もいるんだね。ピオレ両替してきて」


ロンダはすぐに10ルーテン金貨を受け取るとピオレにそれを渡した。受け取ったピオレはすぐに細かい両替をして持ってきた。この国の通貨では銅貨10枚で1ルーテン銀貨一枚に相当し、銀貨10枚で1ルーテン金貨一枚に相当するのだ。この町の労働者の一日の基本賃金が大人男性でせいぜい銀貨3枚程度であり孤児だと更にさがって一日働いても多くて銅貨5枚程度が相場だった。だから金貨10枚ということはかなりの大金だった。フォザリアはそれを震える手で受け取ると半分を巾着に紙と一緒に入れると、後の半分は背中に背負っていた大きい巾着袋の中の小さな巾着袋に分けていれることにした。

フォザリアは大切そうにお金と紙を懐に終うと頭をさげた。


「あっそうだ、君の名前を聞いてなかったね」

「私の名前はフォザリアです」

「フォザリアか・・・女神様の名前と似ているね」

「女神様ですか?」


「うん知らないの?神話に出てくる癒しの女神様だよ確か・・・フォザリアーナだったかな。正確にはフォザリアだという説もあるんだよ。凄いね」


「そうなんですか?そんなすごい名前だったんですね。光栄です。一度みてみたいです。その女神」

「そうだね、僕も会えるなら会ってみたい神様だよ」


ロンダも笑顔で言った。フォザリアは心の中で本当の神様の言葉を思い出していた。


(あなたはフォザリア、今からあなたはフォザリアとして新しく転生します・・・確かそう言っていた気がする、じゃあ私の名前はあの神様がつけてくださったのか・・・癒しの女神様か・・・私にできるかな・・・私の夢に一歩近づいたんだ。都に行けば可能性は10%ぐらいには跳ね上がるはず。頑張らなきゃ)


フォザリアは心の中でガッツポーズをした。その後フォザリアは仕事場となる掃除場所のすごい現状をロンダから聞き、夕方屋敷を後にした。乗合馬車に乗るのは明後日の朝にすることにしたのだ。明日は世話になったフォーラや町の親切にしてくれた人達に挨拶をする予定にしていた。次はいつ戻ってくるか分からなかったからだ。



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