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王子様はゴミ屋敷の引きこもり住人  作者: 加阪あおか
第一章:私掃除婦になる!
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チャンス到来

細い路地裏の間でうずくまって迎える朝、どうやら生きているようだ。私が今日死にそうなくらいお腹を空かせて路地裏でうずくまっていても、私が昨日、大っ嫌いな奴に会って、鼻で笑われ馬鹿にされ、ただ働きをさせられただけのことで落ち込んでいようと、世界の多くの人達にすれば些細なことだ。


世の中は何も変わらない。変わらなければいけないのは私の方だ。だけど、世の中そんなにうまくできていない。生まれてすぐに捨てられ、教会の孤児院の施しで読み書きを教わり、その日の食べ物をもらって生き長らえてきたけれど、その孤児院も14歳になったといわれた日に追い出された。


食べ物を得る手段を無くした人間は死ぬしかない。泥棒でもやって人間の屑に成り下がってでも生き延びるか、女の武器を利用してお金を稼ぐか、その日暮らしの日雇いの仕事を探すか、選択肢はあまりない。なんとかなるかもしれないと思って選んだ人生だったが思いのほか辛い。今生き延びられるか毎日が戦場のようだ。


これは前世では経験したことがない。家族というものに守られて生きるのと、一人で生きるのとではやはり大変さは桁違いだ。そもそもスタートラインが違うのだから、チャンスという限られたものを手にするにはかなり至難の業だ。


それにこの世界は不便過ぎた。前世の知識などまったく役に立たない。車も飛行機もない、家に当たり前のようにあった家電製品もない。便利な世界で生きてきた普通の主婦の知識など今のところ役にたっていない。

まだ16年しか生きていないが、選択を間違えてしまったのかと後悔し始めている。そう・・・私は何故か覚えているのだ、前世の記憶と共に神様との会話も全部、神様のくせにまたミスをしたようだ。


そのおかげで、自分の目標は定まっている。王子様との結婚だ。幸い、聞くところによると、この国には19歳になる王子様がいるらしく、婚約者がいるという噂はまだ聞かない。可能性はまだゼロにはなっていない、限りなくゼロに近づいているだけで・・・なぜなら、ここは王都から離れた田舎で歩くと五日はかかるらしい。この世界の人達は五日で行けるから近いというが、文明社会で生きた記憶がある私からすれば五日も途中に立ち寄る店もなく、ましてやお金もない弱冠16歳の小娘が王都に歩いて向かうのは無謀すぎた。


せめて馬車に乗れればいいが、そんなお金も持ち合わせていない。今のところ、目標達成どころか生きるのでさえあやうくなってきた。


フォザリアは力なく立ち上がると、生きる為に歩き出した。目的は、この先の仕事あっせん所だ。そこでは毎週同じ日に新しい仕事が書かれた木札が入った箱が人々に配られるのだ。そこで仕事募集を見つけて仕事にありつくのだ。まだ時間はあるはずなのだが既に多くの人だかりができていた。


フォザリアはしばらく歩いてまた建物の路地の間に座り込んだ。

この町にはお金持ちの貴族たちの別荘街もあり、その近くにはきれいなお店も数多くあるが、一歩大通りを外れれば、貧乏人がひしめくあばら家が立ち並んでいた。そこに家が借りられるだけでもまだ幸せな部類だった。孤児が一人生きていくには決まった家すら中々借りるお金を稼ぐことができずにいた。一日の食べるものを稼ぐのが精一杯なのだ。


「フォザリア久しぶりだね。もうすぐ今週の仕事がくる時間だろ、もっと近くにいないといいのがとれないよ」


フォザリアの目の前に現れたのは、同じ孤児院にいた孤児仲間だった。フォザリアより一年早く教会をでていて、男顔負けの日雇いの仕事をたくましくこなして生きているフォーラだった。


「フォーラ~私もう駄目かもしれない・・・お腹すきすぎて力がでないんだ・・・今日で最後かもしれないから礼を言っとくよ、今までありがとうフォーラ」


「なんだい、そんな礼なら聞きたかないね。あんたがそういう時はまたマランの奴に何かされたのかい?よく騙されるね。ああそうか・・・あいつあんたに気があるんだったね、いい加減諦めたらいいのにね」


「そうなのよ、昨日もそろそろ僕の奴隷になる気になったかいなんて言いやがるんだよ。ムカつくったらないよ」


「あいつもしつこいね・・・下級貴族の息子だかしらないけど、よくあんたに絡んでくるよね。いっそのこと一晩だけ相手してやることを条件に前金をがっぽりせしめてやったらどうだい」


「やだよ!そんなことをするぐらいだったらこのまま餓死した方がまだましだよ」


フォザリアは真剣な顔で怒り出した。


「ごめんごめん、冗談だよ。私も死んでも嫌だよ。あんなやつ馬にけられちまえってんだよ。私ら孤児の事を人間とは思っていないからね。まっ逃げるのが賢い選択だよ」


フォザリアはブヨブヨに太って、嫌らしい目つきでいつも見ながらからんでくるマランを思い出して身震いした。フォーラも身震いさせながらフォザリアの顔を見ていった。


「だけど、あんたこの間いい仕事にありつけたっていってなかったかい。住み込みの」


「ああ、あのくそ親父も裏からマランに賄賂もらっていたみたいでさ、私にお給料を払ってほしかったら、体をさしだせってぬかしてきやがったから、逃げてきたんだよ。ただ働きさせやがって、まあ雨が続いていたからいい雨宿りにはなったけどさ」


「それは不幸中の幸いってやつか」


その時お腹がぐ~とまたなり出した。


「ああ~だけど、もう五日も町はずれの野草ばかりでまともなもの食べてないんだよ。この際、体を売るか、死ぬかの二択が見えてきた気がする。だけどさっ、こう痩せてちゃ客もとれない気がするしなあ。かといってあいつに触られるのは耐えられそうにないし、やっぱり死ぬしかないのかな・・・」


「まだあきらめちゃだめだよフォザリア、あんたは磨けば光るんだから。神父様が言っていただろ。魂まで売っちゃだめだって」


「はあ・・・魂を売らなくても、もうすぐ悪魔に捕まるはめになるかもしれないよ」


「フォザリア、ほらもうすぐあっせん所だよ。まだ死ぬのは早いよ。日雇いなら一日働けば日銭は稼げるんだから。きっと今日はいい仕事がえられるよ」


フォーラは地面にしゃがみ込んでいるフォザリアの手を掴むと立ち上がらせた。

フォザリアはお腹をさすりながら歩いた。履いている靴ももうボロボロで靴の先は穴が開いてしまい、ひもで縛っている有様だ。


二人が仕事あっせん所につくと既に人が群がっていた。いい仕事はすぐになくなってしまう。残るのはクズみたいな仕事だけだ。


「よ~し頑張って仕事ゲットしてくるか」


フォザリアは横に立っているフォーラに向かってウインクしてみせた。


「そうだね、やるしかないよ」


二人は腕まくりをして仕事が書かれている木札の入っている大きな箱が外に運ばれてくると一斉にそれに群がっている群衆の中に飛び込んで行った。

しばらくしてフォザリアは一枚の木札を手にして人ごみから抜け出てきた。


「どれどれ、ああ~死体処理作業じゃんか・・・も~この仕事はやらないって誓ったんだ!ああ~いよいよ私野垂れ死にかあ~」


フォザリアはその木札を群がっている中に投げ返した。そしてその場にへたりこんだ。またあの中に突撃していく体力は残っていなかった。


「この木札あげるよ」

「えっ?」


少年の声で振り向くと、そこには身なりのよさそうな少年が立っていた。まだ10歳にもならないだろうぐらいのその少年はにっこりとフォザリアに向かって微笑むと木札を差し出した。半身半疑でその木札を受け取り見ると、掃除婦の仕事依頼だった。仕事場所に貴族の紋章と名前らしきものが刻まれていたが、どのお屋敷なのか分からないが、住み込み可だと書いてあった。


フォザリアがその木札に書かれている内容を見入っていて顔を上げると、その少年の姿はもうどこにもなかった。茫然としていると、フォーラが木札を握って戻ってきた。


「フォザリアいいのあった?」

「えっうん、あったというか」


フォザリアが言葉に詰まっていると、フォーラがフォザリアの手の木札をのぞき込んで叫んだ。


「あんたそれすごいじゃん。こんなの滅多にでないよ。私なんか市場の荷物運びの日雇いしかなかったってのにさ」


「そっそれが」


そう言いかけて言うのを止めた。とにかくこの仕事をゲットしないと命にかかわるからだ。仕事にありつけないなら死ぬしかないのだ。フォザリアは何度も見てきているのだ。路上で餓死した子どもたちの行く末を、ゴミのように回収されて、墓地の奥の谷に投げ入れられる末路をその仕事もしたことがある、二度としないと誓った。


フォザリアは貧民街の向こうの貴族の街とを隔てている巨大な壁を見上げながらその木札をとられないように懐の中に押し込んだ。


(とりあえず貴族街の門番にこれを見せればどのお屋敷にいけばいいのかわかるよね。早速行ってみよう)


フォザリアはフォーラに別れを告げると、フラフラとした足取りで貴族街へと歩いて行った。


その様子を路地の片隅で見ている人物がいた。


「ロンダ様、どうしてあのような者に木札をお渡しになったのですか?あれはどう見ても孤児ですよ。掃除婦をお探しならば貴族街ででも見つけられるのですよ」


「そう言ってこの一年何人の貴族の紹介状を持っておばさんたちが掃除婦としてに出入りしたと思っているんだ。僕がこの国にきてから三年だぞ、その間に100人だよ。身元がしっかり者たちは全員入った瞬間逃げ帰ったじゃないか。都では根性のありそうなのがいなかったからこんな場所まではるばるきたんだろ」


「ですが・・・身元もわからない者を勝手に雇ってはサルデーニャ様に叱られますよ」


「安心しろ、叱られるのはピオレ、お前の役目だ。とにかくなんとかしないといけないんだぞ。とうとう、僕の屋敷の出入り口までゴミがあふれ出てしまったじゃないか。ルカルナ叔父様の研究所のゴミを何とかしないと隣の僕の屋敷がゴミ屋敷に占領されてしまうんだぞ。最近じゃ風向きが変わったら匂いが僕の部屋まで上がってくるんだ。外のゴミだけでもなんとかしないと読書に集中できなくなるじゃないか」



「では別の建物に移られてはいかがですか?王宮内にはまだ開いているお屋敷はありますし、なんでしたら、サルデーニャ様のいらっしゃる王宮殿に移動されてはいかがですか。その方がサルデーニャ様もお喜びになられますでしょうし」


「はあ?僕におかまになれっていうのか?毎回毎回ドレスをきろとか冗談じゃないよ。僕は男だよ!着せ替え人形なんかごめんだよ。僕はあの屋敷が気に入ってるんだよ。そんなに文句ばかりいうなら、おまえが変わりに女装でもして掃除をしてくれるというのか?それならこのままおとなしく帰ってやってもいいんだけどな」


「無茶言わないでくださいよ。わたくしは男です。まだ命がおしいですから」


「まったくへんな条件をだして叔父様何を考えているんだろうな。何をしているのか知らないけど、ゴミ調達だって真夜中にしているみたいで、朝になると一気に大量のゴミは増えてるんだよな。王宮のゴミを漁っているんだろうけど、ゴミ対策をしてもすぐゴミ収集場の鍵を壊されて持ち出されるっていってたし。とにかく叔父様があそこにこもってもう三年でしょ。いい加減なんとかしないと、僕は次期王になるつもりなんかないんだからね」


「ならないんですか?そのためにこの国に来たのではないのですか?」


「僕は毎日好きな本を読む生活がしたいんだ。父上の国のハーレム生活にもううんざりしていたんだ。何人いるかわからない義理の兄弟の顔やご機嫌取りもうんざりなんだ。ここの方が天国だ。あの匂いとゴミさえなければね」


「そうですね、ルカルナ王子もあの出来事から三年、貴族の令嬢たちは顔を見るなり悲鳴を上げてしまうしまつ、引きこもられて三年、両陛下も跡継ぎ問題解消のためにあのがめついロダ王に婚姻解消の違約金をはらってまでロンダ様とサルデーニャ様をお呼び戻しになったのですから」


「そうだよ。まあ、お母様もこの国に戻れて大喜びしているし、僕はこの国が好きだからいいんだけどね、僕専用の屋敷ももらったしね。だけど、僕の部屋の窓から見えるあの外の生ゴミだけは我慢できないんだ。あれさえ解決して、ルカルナ叔父様が元に戻ってくれさえしたら万々歳なんだから。取りあえず掃除が必要なんだ。だけど、誰でもいいってわけにいかないだろ、条件があるんだから」


「それでどうしてあのようなきゃしゃな少女をお選びになったのですか?今にも倒れそうにやせ細っていましたよ。とても務まるとは思えませんが」


「目だよ」

「目ですか?」


ピオレはわけがわからないという顔をしてロンダに聞き返した。


「そうだよ、僕の目に狂いはないよ多分。あの目は今までの奴らとは絶対違うよ。さっ屋敷へ先回りしなきゃ」


そういうと、ロンダは止めてある馬車に乗り込むと貴族街にある別荘に向かわせた。馬車の中でもロンダはご機嫌だった。


(あの子はきっと叔父様を変えてくれる子だ。僕の目に狂いはないはずだ。これが成功すれば、僕は好きなだけ本が読めるに違いない。うまく行けば跡継ぎ問題も解決して僕は自由になれるかもしれないしね。今さら母上も妻が五人もいる爺の嫁ぎ先には戻らないだろうし、本当の父上に会えなくなるんは寂しいけど、しかたないよね。僕はこれで自由を手にいれるんだ。あの子のやる気さえ引き出せれば。僕の未来はバラ色だ)


ロンダは馬車の窓に視線を向けながら一人ほくそえんでいた。


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