同居人①
フォザリアはその足で役所に書類を提出した後、自分の店となったばかりの店舗に向かい、もらったばかりの鍵を使って中に入った。
中はゴミが散乱し、陳列棚が数個置かれているだけでゴミ以外全てなくなっていた。
奥の部屋にもガラクタやゴミらしきものだけが散乱していた。
「さて、どうしようかな・・・また一文無しに逆戻りかあ・・・」
フォザリアはため息をつきながら二階に上がり散乱しているゴミをすみに寄せて寝転がると天井を見上げながら目を閉じた。
「はあ・・・まっ少なくとも雨と変な奴らからは身を守れるし、なんとかなるか・・・明日考えよう」
どれだけ眠っていただろうか、再び意識を取り戻すと何やら温かい部屋の中にいるようだった。ボーっとする意識の中周りを見ると、別の場所ではないようだったが、何だか様子がおかしい。
部屋がかび臭くない
「あれ、ここどこだろう・・・」
フォザリアはそう呟いたと同時に自分が寝ているフカフカのベッドと布団が目に入って驚いた。
「ええ~どうなってるのよ~!」
意識がはっきりし始めてよくよく目を凝らして部屋を見渡してみると、もう暗くなっているにも関わらず、部屋にはランプが数個置かれているし、何よりゴミしか落ちていなかったはずなのに、床を見てもゴミ一つ落ちていなかった。それどころか洋服タンスやテーブル、ベッドなど、快適に生活できる家具がそろっていた。フォザリアは何度も目を擦りながら確かめたが目に見えている景色は変わらなかった。
「私まだ夢をみているのかな・・・」
「起きたのか?心配したぞ、丸一日寝ていたからな」
その時になって誰かが部屋の隅の椅子に座っていることに気が付いた。その誰かはフォザリアが起きたのを見ると、読んでいた本を閉じ近づいてきた。
「一日・・・っていうかルカルナ様?どうしてここにいらっしゃるのですか?というか、この部屋はどうしてこんなに家具がそろっているのですか?どうして私はここで寝ているのでしょうか?」
フォザリアは信じられないといった様子で近づいてくるルカルナを目で追いながら聞き返した。
「質問が多いな」
ルカルナは笑顔でフォザリアに近づいた。長いフード付きのローブを羽織っているわけでもなく、顔にはあざがむきだしのまま、白いシャツに紺色のズボン姿だった。
「あの・・・私の質問に答えてください」
「仕方ないな・・・」
そう言うと、ルカルナは椅子をフォザリアの近くに持ってくると、そこに座り説明を始めた。
ルカルナの説明はこうだ。
「お前は父上から掃除完了の対価として100ルーテン金貨を受け取ったが、まだ、あの館の掃除は完了していない。なぜなら二階に置いてある物の処分が終わっていないからだ。よって、100ルーテン金貨の返金を要求しようかと思ってお前の後をつけさせていたら、一日も過ぎていないにもかかわらず既に全部使ってしまったようだと報告が来たんだが」
「それは・・・私が頂いたお金ですからどう使おうと私の自由ですよね。それにあの館の二階はルカルナ様が使っていると」
フォザリアはさすがに既にもらった金貨を全て使ってしまったことにばつが悪そうに下を向いて最後の方は小声になってしまった。
「そうだな、確かにそう言ったが、契約は屋敷全部の掃除だろ?二階の物を全部処分して初めて完了なんだよ。だからお前に二択選ばせてやろうと思って起きるのを待っていたんだ」
「二択ですか?」
「そうだ、お前が僕の侍女になることを拒否してここで商売をしたいというのは、お前の自由だ。だが、契約は契約だ。今すぐ金貨を返金して王宮に戻るか、あの二階の物のオブジェをここで販売しながら減らしていくかどちらかを選べ。僕は全ての品物が売れるまで見届けることにしたから、二つ目を選ぶのならしばらくこの部屋は僕が使う予定だ。今日からここでしばらく生活をすることにした」
「はあ?ちょっと待ってください。おかしいですよ。あの二階の物を売れといわれるのでしたら売りますけれど、どうしてルカルナ様がここに住むんですか?」
「理由か?簡単なことじゃないか。お前は金貨を全部使ってしまったんだろ?仕事も終わっていないのに、だから、僕が代わりに父上に返したんだよ。すなわち、この家は僕のものってことだな。お前は僕に借金があるってわけだ。お前がきちんと契約を終えるまで僕が側で監視することにしたんだ」
「私をだましましたね。詐欺ですよ」
「人聞きの悪いことをいうな。お前が素直に僕の侍女を引き受けていればよかったんじゃないか?今からでも遅くないぞ」
「嫌ですよ。私は私の稼ぎで生きていくって決めたんです。誰かに養われてこき使われる人生なんて前世だけで十分よ」
フォザリアはルカルナを睨みつけながら言った。
フォザリアは口からでた自分の言葉にはっとした。それが本心なんだと
(そっか、私自分で商売をしてみたかったのか。そういえば前世では私若くして結婚して専業主婦してたからあまり働いたことなかったっけ、バリバリ働くってうらやましかったんだ。家族はみんな、私が家事をするのが当たり前みたいな感覚だったものな・・・達成感とか感じたことなかったな・・・そっか・・・王子様と結婚したいって言って選んだけど、私、本当は認めてもらいたかったのかもしれないな。私っていう人間の存在を・・・今、私は商売ができる店を手に入れたんだ。成功するか失敗するか、これからの自分の考え一つで変わってくるんだ)
フォザリアはそう思うとドキドキと不安が入り乱れてきていた。
(だけど、なんだろう・・・一人じゃないってなんて安心できるんだろう・・・私の運命の相手だからかな・・・でも私は孤児だもん、王子様と結婚ってやっぱり大変そうだしな、神様も予定変更は許してくれるかな)
フォザリアがそんなことを頭の中で考えていると、いきなりルカルナに抱きすくめられた。
「ちょっちょっとはっ離してください」
「嫌だ、お前が店の中で倒れているのをみた時の僕の気持ちがわかるか?侍女にならないって言って意気揚々と出て行かれた時の気持ちがお前にはわかるか?僕は僕はな生まれて初めてなんだこんな気持ちは、心臓をひとつきされた気分だったぞ。僕は逃げることを止めたんだ。周りがどう思おうとも気にしないことにしたんだ。だが、お前は別だ僕から逃げることは許さない。僕をこんなに変えた責任をとるまで僕からは解放してやらない。お前がどこに逃げても必ず追いかけていくからな」
ルカルナの心臓の鼓動がドクドク言っているのが伝わってくる。フォザリアはなんて返事をしていいのか分からなかった。
しばらく無言が続いて、ようやく絞り出した。
「わっ私にも夢があるんです」
「僕のそばにいてもできるだろう」
「わっ私は自分の力でやりたいんです」
「じゃあ、僕がここで手伝ってやる。お前のその夢とやらをかなえる為の手伝いをな」
「駄目ですよ、あなたには公務があるのではありませんか?長い間引きこもっていたのでしょう。早くあなたのすべきことを再開した方がいいと思いますよ」
「ここで庶民の生活を経験することも僕の為になると父上がいっていたぞ」
「えっ・・・陛下がですか?」
「ああそうだ」
「・・・それなら仕方ありませんね。但し、この店の店長は私ですからね」
フォザリアはそういうしかないことに気が付いた。自分自身もこのぬくもりを手放したくはなかったのだ。まだしばらくの間は・・・。孤児として生きてきた16年の歳月は長すぎた・・・前世の家族の温かさの記憶を思い出してしまうほどに、王宮での生活は幸せすぎた。一度味わってしまうと、離れがたくなるものだ。
私はそれほど強くない。
フォザリアはそっとルカルナの背中に自分の手を添えた。




