陛下からの呼び出し
館の全ての階の片づけが完了した翌日、フォザリアは仕分けたゴミも片づけ終わりもう一度見回りも兼ねて細かい部分の掃除をしてまわっていた。
「最初に来た時は片付くのがいつになるんだろうって不安になったけど、やればできるものね」
軽くため息をついてきれいに片付いた部屋を見渡した。来た時は背中の袋一つだったが、端切れや直した服が着替え用として残してあったので、その分の荷物が増えていた。使用人の服はもちろん返さなければいけないが、靴はくれることになっていたので、ホッとしていた。
荷物の整理も済ませ、城を出る準備を完了させ、サルデーニャ様に確認してもらえば仕事が完了となり、あとは約束の仕事代金100ルーテン金貨を受け取るだけだ。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
フォザリアが顔を出すとロンダが立っていた。
「ロンダ様、ご挨拶に伺わなくてはいけないと思っていたんですよ。ピオレ様にも、お二人にはいろいろお世話になりました。ありがとうございました」
フォザリアはそう言って大きく頭をさげた。
「何言ってるの?それより、おじい様が話があるんだって、呼んでくるように言われたんだ」
ロンダは笑顔でフォザリアに向かって言った。
「陛下がですか?サルデーニャ王女様ではなくてですか?」
「うん、たぶん母上も一緒だと思うよ」
「そうですかわかりました。少しお待ちください」
フォザリアは既に準備していた。服に着替えると、荷物を両手に持ち扉に現れた。
ロンダはその姿には何も言わず、先に歩き出した。フォザリアは急いで後をついて行った。
王宮殿内に入るのは初めての事だった。きらびやかで、隅々まで清掃が行き届いている宮殿内部の様子にキョロキョロしながらついて行くと、ロンダは謁見の間の扉の前で立ち止まった。
「フォザリア、ここからは一人で入ってね。僕用事があるから。じゃあね」
ロンダはそういうとフォザリアに向かって手を振ると、さっさとその場を離れて廊下を歩いて行ってしまった。
フォザリアはドキドキしながら扉を押し開いた。中をそっと覗くと、中は真っ暗だった。
「あれ?ここであってるんだよね」
恐る恐る中に入ってどうしようと思っていると突然、カーテンが開け放たれ眩しい光が差し込み目がくらみながら恐る恐る目を開けてみると目の前に見知った顔ぶれがたくさんいたのだ。「えっ?えっみんなどうしてここにいるの?」
「フォザリア、お疲れ様」
ビゴーラがフォザリアの前に近づいてきて、フォザリアを抱きしめた。
「あんたたいしたもんだよ、最後までやり遂げるんだからね。これは私ら料理人からのプレゼントだよ。安心しな、使わなくなった調理器具や皿とかだからさ」
「ありがとうございます。でも・・・」
フォザリアがそう言いかける間もなく周りから運動の会で仲良くなった使用人たちから次々にいろんなプレゼントを手渡された。
「あっあの。みんなありがとうございます。でも私、これから住む場所も決まっていないのでお気持ちだけいただきます」
フォザリアがそういうとみんな顔を見合わせてドッと笑い出した。何かおかしなことをいったのだろうかと首を傾げているとざわついていたみんなが急に静まり返り、部屋の隅に控えてしまった。
訳が分からずその場に立ち尽くしていると、扉から国王とサルデーニャ王女、それにルカルナ王子が正装をして現れたのだ。フォザリアがもその場にひざまずいていると、玉座にすわった国王がフォザリアに向かって声をかけた。
「フォザリア、よくぞ短期間で一人で掃除を完了させた。見事であった。これはサルデーニャから聞いていた約束の報酬金だ、受け取るがよい」
そういうと、国王は後ろに控えていた側近から金貨がびっしり入った袋を受け取ると、フォザリアを手招きし近くに呼び寄せるとそれを手渡した。
「ありがとうございます。お世話になりました」
フォザリアはそれを受け取ると、頭をさげてお辞儀をした。
その瞬間拍手が沸き起こった。
「ところでフォザリア?これから予定でもあるの?」
サルデーニャ王女がフォザリアにたずねた。
「いいえ、何も計画をしていません。取りあえずどこかに住む場所を借りてから考えようかと思っているのですが」
「そうか、では今度は余と契約をしてはもらえぬか?」
「契約ですか?」
「私は、何の契約をすればよろしいのでしょうか?」
「実はな、我が息子が身の回りの世話をする専属の侍女が欲しいと申してな。それをそなたに引き受けてもらえぬかと思ってな」
「は?わっ私がですか?私は何も教育を受けてきておりませんので、できて掃除ぐらいです。ですのでとても務まらないかと」
「心配せずともよい、そなたの教育係はここにいるクラリスが引き受けてくれるそうだ。ルカルナの世話の仕方や王宮の作法などじっくり教えてくれるそうだ」
「そっそうですか・・・あのちなみにですけど・・・これは命令なのでしょうか・・・あっいえ決して嫌というわけではないですが、私に選択の余地はあるのかと思いまして」
「もちろんそなたが決めてよいぞ、こやつの世話などごめんだと思うのであれば、断ってくれて一向にかまわぬぞ、断ったからと言ってそなたに何か危害を加えたりはせぬ」
その言葉を聞いてフォザリアはしばらく考え込んだ。
あまりの長い時間の沈黙の為、しびれを切らせたルカルナが口を挟んできた。
「フォザリア、何を悩む必要があるんだ?この僕がお前を指名してやっているのだぞ」
「申し訳ありません、人の世話なら前世で嫌って言うほどしてきました。今更、あなた様お一人のお世話などたいしたことはないとは思うのですが、決められた人生を生きるのじゃなくて、思い切って真逆の道を歩いたらどんな人生があるのかなと思いまして、少し想像しておりました」
「はあ?相変わらず何を考えているかわからない奴だな。この僕が頭をさげても引き受けてもらえないのか?」
「そうですねえ・・・しばらくはのんびりできるお金もありますしね、今すぐ再就職しなくてもいいかなと・・・」
「あっははは、面白い子ねあなたは、ますます気に入ったわ。ねえ、どう?私と契約しない?」
「えっ?サルデーニャ様とでございますか?」
「そうよ、実はねロンダがあなたを欲しいって言ってきていたのよ、でもあの子にはピオレがいるでしょ。だから駄目だっていったんだけど、話し相手にいいかなって思って」
「あらうれしいです。ロンダ様がそのように思ってくださって」
「ちょっと姉上、先にお願いしてるのはこっちですよ」
「あらルカルナ、決めるのはフォザリアでしょ」
「あっあの・・・喧嘩はおやめください。わかりました」
「じゃあ引き受けてくれるのか?」
「いえ、お断わりいたします」
「はあ?こんな光栄なことはないんだぞ、どうして断るんだ!」
「どうしてといいますと・・・少しのんびりしてみたいんです。のんびりこの国みてみるのもいいかなって思いまして。私生まれて物心つくころから生きる為に働いてきました。だから、しばらく何もしないでのんびりしてみたいんです。この国がどんな国なのか見てみたいですし、機会があったら異国にも行ってみたいですし・・・あなた様の侍女を引き受けてしまうと毎日大変そうですし」
「プッ、ああ~もう駄目、私あなたみたいな子大好きよ。どう?私の息子の嫁になる気ない?まだ子どもだけど、後十年もしたらいい男になるわよ」
「そうですね。私もそう思います。でもそうしますと、私は行き遅れてしまいます。この国の平均婚礼年齢は17歳だと聞いています」
「あら、大丈夫よ」
「姉上、いい加減にしないと本気で怒りますよ」
「あら私はいたって真面目よ、あなたの方こそ諦めなさいよ。振られたんだから」
「はあ?僕はまだ振られてはいませんよ」
「わっははは、確かに変わっておるな。よかろう、フォザリア、そなたの気がすむまで休暇を堪能してから、働きたくたら戻ってきてこやつの侍女を引き受けてくれぬか?何だったら余の侍女でも良いぞ、そなたと話しておると楽しそうだしな」
「父上まで」
「ありがとうございます。それでしたらお引き受けいたします」
「どれ?」
そう叫んだのは玉座の後ろに隠れていたロンダだった。
「あらロンダ様いらしていたんですか?」
「うん・・・ねえ、フォザリア、誰の侍女ならフォザリアが働く気になったら引き受けてくれるの?」
その問いかけにロンダはもちろん、その場にいた使用人までもがかたずをのんで聞き言った。
「もちろん、ルカルナ様です」
フォザリアの言葉でガッツポーズをとっているルカルナに比べてロンダが聞き返した。
「ねえ、どうして?僕じゃダメなの?」
ロンダがフォザリアに駆け寄り、フォザリアに向かってたずねた。
「だってロンダ様にはピオレ様がいらっしゃいますでしょ。私とてもピオレ様のようにはお仕えできる自信がないんです。それに、ロンダ様には私なんかよりももっと素敵な方がそのうち現れますよ。だってすごく素敵なんだもの」
「そうかな・・・叔父様に負けたかと思うと悔しいけど、まだ婚約したわけでもないしね、チャンスはあるよね」
「婚約ですか、私はただの孤児ですよ、何かあるわけないじゃないですか?夢物語ではないんですから身分差もございますしね」
「そっそんなものどうとでもなるじゃないか!」
ルカルナが叫んだがフォザリアは冷静に答えた。
「ルカルナ様も私なんかじゃなくて、どこかの王族の姫君とお幸せになられる方がよろしいかと思いますよ。その時までお世話させていただきますわ」
「まあいい、時間はまだあるからな」
ルカルナはあきらめていない様子だった。フォザリアは思うのだった。
(私の運命の王子様はきっとルカルナ様なんだろうな。だけど・・・私なんかじゃ駄目、今はまた後で働くって言っておいてここに戻らなければいいだけよね。神様には王子様と結婚できる可能性のある世界を希望したけど、違う生き方をめざしちゃいけないとは言われてないし。人生にあらがうのも一興かな)
フォザリアは心の中でそんなことを思いながら大きく頭をさげ、ひとこと言った。
「お世話になりました」
フォザリアはそれだけいうと、頂いた報酬金を鞄の奥に詰め込み、二個の鞄を持つとさっそうと謁見の間を出て行った。
(さあ!これからは私が自分で選んでいく人生のスタートだ、絶対野垂れ死にはしないわよ)
フォザリアは空を見上げると意気揚々と王宮殿をでると門を出て都の商店街に向かって歩きだした。




