雨の訪問者
雨が一日降り続けた翌日もあいにくの雨の為今日も焼却炉に火が入れられないらしく、ゴミの搬入はできなかった。王宮内のゴミもかなり溜まってきている様子だった。
その為、ゴミを減らすこともできず、相変わらず中身の確認作業をしつつ仕分けだけしたが、雨の為外に放りだすこともできず、作業はまったくはかどらなかった。仕方なく狭いスペースでいることになり暇を持て余していたら、昼過ぎ再びロンダが傘を差して訪ねてきた。
「ねえフォザリア、どうせ今日も雨だし作業できないんでしょ。暇ならさ、僕のコレクション見に来ない?」
「コレクションですか?」
「うん、僕ね本が好きなんだ。いろんなことを教えてくれるし、物語も主人公になったつもりで読むのすごく楽しいんだ。フォザリアは字読めるんだよね」
「はい、生きるためには字は読めるようにならないとだめだって、私を育ててくれた施設の院長が教えてくれたんです。実際本など読んだことはありませんけど」
「そうだね、本は貴重だからね」
「そうですよ、そんな貴重な本がある部屋に私のような汚れた人間を雨の日に呼んじゃだめですよ。私は今日は一階の部屋のゴミの中身を確認をするつもりですから」
「そんなの二度手間じゃないか、ねえ、雨の日は仕事はお休みでいいんじゃないかな。頼みたいことがあるんだ。次の休みまでやっぱり待てないし・・・今日は今から来てよ」
「ですが、昨日結局寝てしまいましたし・・・」
「来てくれないと、貯まってるゴミの山をとってきて外にばらまくよ」
ロンダがかわいく不貞腐れながらいうと、フォザリアは困った顔をして返事を返した。
「なっ何を言っているのですか?この雨の中、合羽も着ずにそんなことをしたら風邪をひいてしまいますよ」
「合羽って何?」
「えっ、アッなんでもありませんよ。わかりました。これも仕事のうちということでうかがわせていただきます」
「そうこなくっちゃ。おいしい焼き菓子ももらってきたから、行こう」
そういうなり、ロンダはフォザリアの手を引っ張って外へとうながした。外はものすごい豪雨になっていた。
その後、隣の屋敷に入るとまず目に留まったのが、壁一面に描かれた女性たちと見たこともない景色の絵だった。
「これね、僕が描いたんだよ」
「ロンダ様は絵の才能がおありなのですね。とてもお上手です」
「えへへ・・・みんなそういうよ、この絵はね、僕のお気に入りだったバロンデの港町と、僕の世話をしてくれていたタタとツクとマムだよ、みんな僕がこの国に来る時に辞めちゃたんだ」
「そうでしたかお寂しいですね。ロンダ様はもし願いが叶うなら生まれた国に戻りたいと思いますか?」
フォザリアは子どもの絵にしてはとても素晴らしい完成度の絵を真剣な顔で眺めながらたずねた。
「別に戻りたいとは思わないな。時々海は見たくなるけどね」
「そうですか、今の場所が気に入っておられているのならいいことですね。人間は誰しも自分の力ではどうすることもできない事が起こるものですものね」
「フォザリアはどうなの?故郷とかあるの?」
「いいえ、私は孤児でしたからどこの誰から生まれたのか、故郷はどこなのかわからないんです。14歳までは寝る場所があって、食事にもありつけていましたけど、施設をでてからは路上生活をして生きるのが楽しいなんて思った事もないし、懐かしいと思える記憶があるロンダ様がうらやましいです」
フォザリアはあえて前世の記憶の事は言わなかった。その前世の記憶の自分の故郷は懐かしく思う気持ちがあることを言っても理解してもらえないことが分かっていたからだ。
「うらやましい?」
「はい、ロンダ様は飢える事のない生活、雨が降るたびに忍び寄る死の恐怖、理不尽に虐待されることのない生活。誰もがうらやむ生活ができているのですから」
「そうだよね、僕は恵まれているんだよね」
そう言ったロンダにフォザリアはしゃがむとロンダを真剣な目でみて言った。
「ロンダ様、あなた様は私達貧乏人を幸せにできる地位にいらっしゃいます。自分が生きることだけを考えて生きればいい私たちと違って、あなた様はいつかこの国の未来を背負わなくてはいけなくなるんですものね、そのほうがきっと大変ですよね。ですから、私は思うんです。人間はみんな同じ生きるのは大変なんだって、自分の定めから逃げちゃいけないんだって。アッすみません私、なんか生意気なことを言ってしまいました」
フォザリアはそういうと立ち上がり大きく頭をさげた。
「うううん、僕ね最近落ち込んでいたんだ。みんなすごいすごいっていうんだよ。もしかしたら次期王になれるかもしれないんだからって・・・別に僕王様になんかなりたくないのに」
「あら王様になりたくないんですか?」
「ならなきゃいけないんだったらなれるように頑張るつもりだけど、これは内緒だよ、僕ね本当は王立図書館の館長になりたいんだ。この国の図書館にはすごい本があるんだよ。閲覧禁止のも含めるとすごい数なんだよ、だけど、王様になると忙しくなるから本なんか読んでいる時間がなくなるっていうんだ。それならなりたくないんだ。それに僕は王にはルカルナ叔父様がなるべきだって思うんだ」
「ルカルナ様ですか?」
「そうだよ、叔父様僕よりすごく勉強家でずっと本を読んでいるんだよ難しい本ばかりね」
「すごいんですね。ですが、どうしてそのような方があんなゴミの中に閉じこもっていらっしゃるの?」
「それは・・・」
突然口ごもってしまったロンダに後ろで立っていたピオレが割り込んできた。
「さあさあロンダ様、ここで時間をとっていてはゲームができなくなってしまいますよ」
「そうだった、フォザリア、こっちだよ」
ロンダはフォザリアの手を引っ張って、玄関を開けてすぐ隣の部屋に引っ張って行った。そこにはテーブルと椅子があったが、壁には本がたくさん並べられていた。テーブルの上には木の樽が置かれていて水が入っていて、きれいなタオルも置かれていた。
「まずは手などを洗って下さい。その後、あちらの椅子に掛けてあるドレスに着替えてくださいませ、本がよごれるといけませんので」
「じゃあドアの外で待ってるから」
それだけ説明すると、ピオレとロンダが部屋から出て行った。フォザリアは急いで汚れている顔や手や足などをきれいに拭き、肌触りのいいドレスに着替えた。こんなドレスを着るのは初めてだった。何だか自分ではない気がして変な気分だった。
フォザリアが着替え終わって部屋を出ると、ロンダは手においしそうなビスケットの皿を持っていた。ピオレは手にはグラスと何かが入った瓶がのったお盆を持っていた。
「よかったすごく似合っているよ。それ母上のなんだけど、もういらないやつらしいからフォザリアにあげるって」
「そっそんなこんな高級なドレスいただけません」
「いいんだよ、母上はたくさんドレス持ってるし、よく飽きた服は捨ててるから」
「服を捨てる?」
「そうだよ、自分が着たドレスを誰かに着られるのも嫌だって言って、だけど次々とドレスができてくるから、衣装部屋に入りきらないんだ。母上は宝石とかより衣装の方が好きみたいでさ」
「贅沢な話ですね」
フォザリアは淡い黄緑色で胸元にレースが飾られているとてもかわいいいそのドレスを見下ろしながらポツリとつぶやいた。
それから三人は三階へらせん階段を上ると、きれいに整頓されているベッドと共にここにも大量の本が本棚に納められていた。
「本当にすごい量の本があるのですね」
「これは一部だよ、ここにはお気に入りだけ持ってきているんだ。さあ、座ってよ」
フォザリアを部屋の奥の方の椅子に座るように促した。フォザリアが座ると、ロンダはテーブルに大きな紙を広げた。
「なんですかこれは?」
「僕が作ったゲームだよ」
そう言って何やら紙と四角いものを机の上に置いた。
「これはサイコロだよ、これを順番に振ってでた数だけマスを進めるんだよ。この紙はお金の代わりだよ。ここに書かれている金額をそれぞれ所どころに書かれているますに止まったらゲットできるんだよ。最終的に金額の多い方が勝ちだよ」
面白そうですね。あら、誕生から死ぬ所まであるのですね。これは人生ゲームですね」
「そうだよ、どうしてわかったのフォザリア、他で見たことがあるの?」
驚いた顔を向けて質問してくるロンダにまさか前世で見たなど言えるわけもなく口ごもってしまった。
「あっそっその当てずっぽうがあたったみたいですね。ははは」
「そうなんだ、じゃあはじめようよ、二人でしてても面白くなかったんだ」
それからピオレも混ざり三人で人生ゲームなる遊びを堪能して盛り上がった。外では雨が激しく降り続いていた。どれだけの時が過ぎただろうか、外は雨が止み、薄暗くなってきていた。
「私が王様ですよ」
フォザリアが興奮したように立ち上がった。
「ああ~それ僕が先にそこに止まる予定だったのに~ああ~負けちゃったあ」
「ふふっ人生でこんなに大金をゲットしたのは初めてです。ロンダ様楽しい遊びありがとうございました」
フォザリアは頭をさげて礼を言った。その時下でフォザリアを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ビゴーラさんが呼んでいるみたいですね。窓を開けてもよろしいでしょうか?」
「いいよ、雨は止んでいるみたいだしね」
ロンダの返答にフォザリアは窓を開けると、ちょうど向かいの窓が開けられていて、ルカルナが部屋に夕食を引き上げている最中だった。確かに、ここからだと向かいの窓が丸見えだった。
「ルカルナ様~この間はすみませんでしたあ」
突然向かいから聞こえてきた声に驚いて声がした隣の館に視線を向けたルカルナが引き上げていた夕食を縛った綱を思わず放してしまった。そして慌てた様子で戸を閉めてしまったのだ。
その直後下では夕食を入れていた器が箱の中で割れる大きな音が響いた。
下にいたビゴーラが驚いてその落ちて来た箱に駆け寄っていた。
「ビゴーラさ~んごめんなさい。私がルカルナ様に急に声をかけたりなんかしたものだから」
そう言って三階の窓から体をのり出しながら叫んだ。
ビゴーラはフォザリアの姿をみて一瞬驚いた顔をしたが笑顔になって答えた。
「あんたが心配することじゃないよ。殿下には新しいのをすぐにもってくるから。それよりそこにいたのかい?姿が見えなかったからどうしちゃったのかって思ったよ。体調は大丈夫かい?」
「はい、今日はまたお休みを貰っちゃいました」
「ああ雨だからね仕方ないよ。あんたの分入り口のとこに置いてあるから温かいうちにお食べ」
「はい、いつもありがとうございます」
そういうと、ビゴーラは割れて駄目になったルカルナ王子の夕食の入った箱を持つと急いで宮殿の方に引き返して行った。
フォザリアはそれを見送ってから窓から離れると、ロンダに頭をさげた。
「ロンダ様、今日は今までで一番楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました」
「あれ、もう戻るの?」
「はいもう夕食ですし、ロンダ様も宮殿にお戻りになられないといけない時間ですよね。帰り際にまた一階の部屋をお借りします。服を着替えてきますので」
「いいよ、その服はお前にあげたんだから」
「いけません、こんな高級な服はいただけません」
「だってその服捨てる服だもん。だけど、フォザリアだったら着てもいいって許可もらったから遠慮なく着てていいよ」
そう言ったロンダの言葉にフォザリアは自分の着ている服を改めて眺めた。
「ありがとうございます」
フォザリアは素直にもらうことにした。着てきた服はボロボロだったし、ここを辞めた時に着る服が必要だと思ったのだ。
「ルカルナ様、やっぱりこの間のこと怒ってらっしゃるんですね。あんなに顔を引きつらせていらしたし」
顔全部は薄暗くなっていて見えなかったが、半分だけ見えていた顔はフォザリアの姿を見つけた瞬間、フォザリアには怒りでひきっているようにしか見えなかったのだ。
「ルカルナ叔父様のあの顔は怒っている顔じゃなかったよ。驚いただけだと思うよ。ねっピオネもそう思ったでしょ」
今さっき窓に一緒に顔を出していたロンダが言った。
「そうですね・・・あれは・・・いえわたくしはあまりお顔までは見えていませんでしたので」
言いかけて止めてしまったピオネにロンダは何もいわなかったがフォザリアには笑顔をむけて言い切った。
「大丈夫だよフォザリア、多分だけど、叔父様ビックリしたんじゃないかな。ほら、フォザリア可愛いもん」
「えっ私がかわいい?そんな事はありませんよ」
両手をふって全力で否定したがロンダは首を傾げた。
「そっか!鏡みてないもんね、ピオネ」
ロンダがそれだけいうとピオネがすぐに隣の部屋から大きな姿見の鏡を運んできた。そこに写っていたのはフォザリアの知らない顔だった。
「これが私?嘘・・・」
「たぶんだけど、フォザリアここにきてから三食きちんと食べてるし、掃除をしているから適度に動いてるから、頬とかふっくらしてきてるんだよ。来た時はすごく痩せていたけどね、すごくかわいくなったよ。きちんと着飾ってお化粧したらきっと王宮にくる貴族たちなんかに負けないよ」
「きっ貴族様・・・滅相もありません。私なんか、あっあの、このドレスは遠慮なくいただいていきます。今日はもう失礼します」
フォザリアは慌てて部屋を飛び出して行った。自分の顔が赤くなっているのが分かったからだ。それを見送って、ロンダが窓から顔を出してフォザリアが隣の館に走って行くのを見守りながら呟いた。
「ねえピオネ、叔父様のあの顔って恋してる顔だよね」
「おや、お気づきになられていたのですか?おませさんですね」
「僕ももうすぐ10歳だよ、恋ぐらい本を読んで知ってるさ。まだ意中の子には出会えていないけどさ、フォザリアみたいな子がいいんだけど、僕じゃ駄目だよねきっと」
「御慰めいたしましょうか?初恋は実らないともうしますし」
「うっうるさいな。僕はいいんだよ。僕の野望の為にはあの二人がうまくいって表に出てくれないと困るからね」
「そううまく行くでしょうか?ルカルナ様のあれはそう簡単にはいきませんよ。フォザリア様も貴族出身ではありませんし」
「そうだよね、はあ・・・うまくいかないもんだよね。せっかくお似合いだと思うんだけどな」
「そうですね、普通に考えても身分差という問題はかなりハードルが高いですしね」
外はいつの間にか雨がやみ、夜空に星が輝き始めていた。




