約束
「疲れたのかい? 生徒会長」
「案ずるな。貴様こそどうなのだ?」
「案ずるな、だ」
異世界での出来事から五ヶ月。俺たちは二年生に進級した。
「そういや、生徒会は続けるのか?」
もうすぐ校長に、生徒会の更新書を提出しなければならなかった。
「無論なのだ。まあ、人数が足りないらしく先輩に引き留められたのもあるがな」
「千景先輩か」
一年生だった破耶が、生徒会長をやっていた理由は千景先輩の推薦だったらしい。まあ、千景先輩から聞いたんだが。
「それはそうと」
破耶が、一枚の紙を差し出す。
「書け」
「え?」
「馬鹿が……言わなきゃ分からんか」
「これ、更新書だよね」
「嫌、なのか?」
「そうじゃないけど、俺なんか何も出来ないよ」
「大丈夫だ。貴様の役職は決めている」
「何なの?」
「生徒会長の護衛なのだ!」
「……要らなくない?」
「言っておくが、既に生徒会長選によって、わたしの続投が決まったのだ」
「いつ決まったんだ!?」
「昨日なのだ」
「俺、熱出して休んでたから参加してないよ」
「………仕方がない。計七名で出してくるのだ」
破耶が生徒会室から出ようとする。
「書かないなんて言ってないよ!?」
破耶が紙とペンを差し出す。
俺は、自分の名前を書いて渡した。
「ありがとう」
破耶が笑顔で言ってきた。
「では行ってくる」
「やれやれ」
「ご苦労様、夏郷くん」
「千景先輩! 居残りですか?」
「喧嘩売ってる?」
目が笑ってない。
「いや、珍しいと思って」
「私の眼鏡を取りに寄っただけよ」
「千景先輩は眼鏡掛けないほうが似合ってますよ」
俺の本心を言った。
腰まで伸びた髪が先輩の身長の高さを協調し、スラッと伸びた健康的な脚が先輩の魅力を引き立たせている。
「視力は問題ないのだけれど、なんか掛けてないと落ち着かなくて」
「だて眼鏡?」
「そうね」
景先輩は眼鏡を掛けると扉、に向かいながら言ってきた。
「破耶にもアドバイスしてあげたら? 喜ぶわよ
「何でですか?」
「付き合ってるんでしょ? 夏郷くんと破耶」
「誤解ですよ!?」
「そうなの? 校内でも噂になってるわよ」
「え!?」
「……私もてっきり、そうだと思ってたのよ」
そう言って千景先輩は生徒会室を出た。
「知らなかったな」
破耶が、入れ違いで戻ってきた。
「受理されたのだ」
「そうか」
「どうしたのだ。顔が赤いのだ!?」
破耶が寄ってくる。
「なんでもない!」
俺の額に手が触れる。
「熱はないようだな」
「……心配いらないよ」
「……何を隠している」
「え!?」
「遠慮は要らん。言わなければ遠慮はしないがな」
「……怒らないか?」
「案ずるな。わたしは寛容だ」
「俺と破耶が、付き合ってるって噂があるんだよ」
「だからなんなのだ?」
「なんとも思わないのかい!?」
「……わたしは夏郷が好きなのだ!!」
「はあ!?」
いきなりの告白に面をくらってしまった。
「貴様は、どうなのだ!?」
破耶が、ゆでダコの様に赤い。
「まあ……その……好きだ」
「よし、もう噂では無くなったぞ!」
「いつから?」
「ハッキリと自覚したのは、こっちに戻ってきて貴様と再会したときだ」
「屋上の時か」
「ああ」
「気づかなかったな全然」
いつの間にいつもどおりに話せていた。
「用件は済んだ。帰るぞ、夏郷」
「うん。帰ろう」
破耶と目が合う。
「恋人なら……普通にするのだ」
「!」
破耶が俺の口を唇で塞ぐ。
夕陽が生徒会室を照らし、生徒会室が二人だけの異世界のように感じた……。
※ ※ ※
「新たに生徒会の公約を発表する」
翌日、破耶は体育館のステージに立っていた。
「沢山の協議の結果、公約は〈ゼロスト〉に決まりました」
「なんだそれ?」
「意味わからない」
「で? なんなのさ」
沢山の生徒の声が聞こえてくる。
「えー、〈ゼロスト〉の意味は〝0〟〝反対〟です」
やはり、生徒会に反感を持つものが大勢いる。この状況を少しでも変えたくて生徒会が選んだ公約。
「ひとりでも多くに生徒会を認めてもらいたく思い……」
千景先輩が俺の所に来た。
「校内の四分の一が、今も生徒会に何らかの不満を持っていることがアンケートで解ってね」
「生徒会の目標ですね」
演説が終わり、拍手の中を破耶が戻ってきた。
「ご苦労様」
「これから本当に苦労するがな」
「千景、水をくれないか」
「持ってくるわね」
「先輩をコキ使うなよ」
「会長権限さ」
破耶が紙を渡してくる。
「夏郷にも会長権限だ」
俺は紙を開く。
『ずっと傍に居てほしい』
「こちらこそ」
「約束なのだ」
目の前で破耶が微笑んでいた。




