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死亡フラグが立ってます  作者: 水上かなみ
はじめてのともだち
9/18

 急いで帰ったのに、家には誰もいなかった。考えてみればそりゃそうだよね。お母さんは仕事だし、希だってこんなに早く帰ってきてるはずない。せっかく走ってきたのに、完全に無駄足だったみたい。


 風を切って走っている間は良かったんだけど、家について足を止めた途端にどっと疲れが吹き出してきてしまった。今日は色々あったなあ、と私は溜息をひとつつくと、制服を脱ぐために自室に向かった。

 部屋着に着替えながら、姿見越しに映ったフラグを眺める。竹本さんの旗は一日で随分成長したみたいだったのに、私の頭の上で揺れる旗は今朝見たときと何も変わっていないように見える。それが喜ばしいことなのかどうかは分からないけど。


 結局今日分かった事といえば、この旗がフラグを表しているってことだけ。ホントに、このフラグ、なんなんだろう。死亡フラグなんて言われてはほっておくこともできないし、なんとかしないと。

 いや、それよりも今は希の事の方が重要だ。佐々木さんが見たっていう男の人、希とはどんな関係なんだろう。希が帰ってきたら、まずは話を聞いてみないと。

 でもいきなり聞いても絶対に答えてくれないだろうし……。それとなく聞き出すための方法を考えておかないといけないな。

 なんだか、懸案事項ばっかりがたまっていくみたいで気が滅入る。私は今日何度目かも分からない溜息をついた。

 考え事をしていたせいか、随分時間がたってしまったような気がする。そのまま部屋に居る気にもならず、私は階下へと降りた。


 リビングに行くと、テーブルの上に書置きがしてあった。差出人はお母さん。今日は遅くなるから、晩ご飯は自分で作って食べてね、とのことだった。お母さんは忙しい人なので、こういう事は珍しく無い。

 まだご飯の支度するには早いし、希が帰ってきたら何が食べたいか聞こう。そう思って私は、希が帰ってくるまで勉強していることにした。今日は学校で全然勉強できなかった分、家で頑張らないと。

 勉強用具を取りに部屋に戻ると、机の上にはよだれでふやけたノートが出かけた時のまま置いてあった。濡れたまま放っておいたせいでページが貼りついてしまっていた。こんなことがあるなら、ノートじゃなくてルーズリーフにした方が良いかなぁ。なんてどうでもいいことを考えた。

 ……よし、今日は数学にしよう!

 私は参考書とノートを取り出して、勉強を始めた。


 気がつくと窓の外はすっかり薄暗くなっていた。勉強はいったん切り上げることにして、椅子から立ち上がって伸びをした。

 そろそろ希が帰ってくる頃かなと思って時計を見ると、いつのまにそんなに時間が経っていたのか、もう三時間以上勉強を続けていたみたいだ。

 私は慌てて、晩ご飯を作るためにリビングに下りる。途中で希の部屋を覗いてみたけれど、やっぱりまだ帰ってきてないみたいだった。帰ってくるまで待っていようと思ったけど、さすがに待ちきれないのでご飯を作ることにする。

 何を作ろうか考えながら、冷蔵庫と戸棚の中身を確認。ちょっと迷ってカレーを作ることにした。慣れた手つきで支度を済ませる。

 私はカレーが好きだ。簡単に作れて美味しいし、なによりも、家庭の料理って感じがする。その家ごとにそれぞれ違った味があって、そんなところでも家族の絆を実感して、嬉しくなるのだ。


 晩御飯が出来上がったのはいいけれど、希はまだ帰ってきていない。時計を見ると、もうすぐ八時になろうとしている。

 希遅いな……。もう、何してるんだか。

 一人でご飯を食べてもつまらないし、どうせ話をするならご飯を食べながらの方が良いかなと思っていたので、私は希の帰りを待つことにした。テレビのスイッチをいれて、何とはなしにそれを眺める。

 しばらくして、連続ドラマが始まる頃になって、玄関のドアが開く音が聞こえた。、私はハッとして玄関に向かった。

「……ただいま」

「おかえり、遅かったわね。何してたの?」

 できるだけ叱るような口調にならないように意識したのだけど、希は「別に」と一言だけ呟くとそのまま階段を上がっていってしまった。私は慌ててその背中に向かって叫ぶ。

「ご飯出来てるから! 着替えたら降りてきなさいよー!!」

 希は私の言葉を無視して、自分の部屋に入っていってしまった。私は仕方なくリビングに戻った。

 希、なんだか落ち込んでいたみたい。どこがって言われると困るけど、でも私にはなんとなく分かるんだ。


 ほどなく、お皿に料理を盛ってテーブルに運んでいると、私服に着替えた希がリビングに入ってきて、私たちは一緒にご飯を食べ始めた。

 せっかくの姉妹団欒なのに、希はずっとテレビを見ていて、私の方を見ようともしない。話しかければ一応は返事をしてくれるのだけれど、どうみても生返事だ。

「今日ね、学校で新しく友達が出来たんだよ」

「……ふぅん」

「あとね、うちのクラスに転校生が来たんだー」

「うん」

「そうそう。その仲良くなった子は転校生君のことが好きなんだけど、そのきっかけが今日の朝登校中にぶつかったことでね」

「うん」

「その場面、私も見てたんだけど、ホントに漫画みたいでさ……って希、ちゃんと聞いてる?」

「……聞いてるよ」

 私は溜息をつく。話しかけるのは諦めて、希と同じようにテレビを眺めながら食事を進めた。黙々と食べたカレーは、思っていたよりも美味しくなかった。

 希が食べ終わったのを見計らって、私はまた希に話しかける。


「ねぇ、希」

「なに?」

 希はようやくこっちを見てくれた。けれど、やっぱり不機嫌そうな声は相変わらず。私はめげずに話を続ける。

「えーっと……最近学校はどう?」

 いきなりストーレートに聞くのはマズイよね。まずは世間話でも。と思ったんだけど、出だしから失敗してる気しかしない。

「何、いきなり」

「いや、最近希とあんまり話できてなかったから、どうなのかなって思って」

「……別に普通だけど」

「何か悩み事とかあるんじゃない? 何かあったならお姉ちゃんに話してよ」

「うるさいな、何にも無いって言ってんじゃん!」

 希はそう言うと、もう話す事は無いとでもいう風にそっぽを向いてしまった。……取り付く島もない。こうなったらもう、直球で聞くしかないか。


「あのね、友達が街で希のことを見かけたらしいんだけど」

「……それで?」

「その時に、男の人と一緒に歩いてたって言ってたの」

「はぁ? 知らないけど」

 希が驚いた顔で、急に大声を上げる。目も泳いでるし、口では知らないと言っているけれど、心当たりがあるんだろう。こういうところ、分かりやすい。

「……その男の人って、誰なの?」

「だから知らないってば!」

「ホントに? お姉ちゃんに嘘ついたってダメなんだからね」

 年上ぶったその言い方が気に障ったのか、希は苛立たしげに顔を歪めた。

「分かったような事言わないでよ! 私の気持ちなんて何にも知らないくせにっ!!」

「そんなの……、言ってくれなきゃ分かるわけないじゃない!」

「うるさいな。別に誰でもいいでしょ。お姉ちゃんには関係ないんだから!!」

 希が怒ったように椅子から立ち上がって叫ぶ。つられて私の声が大きくなってしまう。

「関係無いわけないじゃない! 希が何か悪いことしてるんじゃないかって、私心配で……」

 勢いのまま口走り、しまったと思ったときにはもう遅かった。

「……何それ、私の事疑ってんの!?」

「ち、ちがっ──」

 希は「最悪!」と吐き捨てると、早足にリビングから出て行ってしまった。リビングのドアが閉まる音が、一際大きく響いた。その音も消えると、リビングにはテレビの中のくだらない笑い声だけが残される。私は力なく椅子に座り込んだ。

 さっきのはさすがに私の言い方が悪かったなと自分の行動を反省。冷静に話さなきゃって思っていたのに。

 でも、希が何か隠し事をしてるのは分かった。男の人と一緒に居たのも本当のようだ。


 テレビを消して、私も自分の部屋に戻った。机の上にはやりっ放しの参考書が広げてあったけれど、とてもじゃないけど勉強する気にはならなかったので、そのままベッドにダイブした。

寝転んだまま私は考える。

 どうすれば希は心を開いてくれるんだろう。一緒に歩いてた人との関係は何なんだろう。本当に悪いことしてないんだろうか。そもそも、どうして希は私に冷たくするんだろうか。

 何か、嫌われるようなことをしてしまったんだろうか。していないと信じたいけれど、今日のことを思えば、知らないうちに傷つけてしまったということも考えられる。

 それに頭の上のフラグのことも、何がなんだかわかんないまま。原因も分からないし、どうすれば良いのかなんて見当もつかない。


 疑問ばかりが膨らんで、回答は一個だって出てこない。これが数学だったら、考えればいつかは解けるって思えたかもしれないのに。現実は数学の問題とは違う。公式も模範解答も在りはしない。


 結局その日は何も結論がでないまま、考え事をしているうちに、私はいつの間にか寝てしまっていた。


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