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第三話

私、桜井みおが開いたアパレル雑貨カフェ「自由が丘解放区」は、

無事に初日のカフェ・バー共に営業を終え、今日は2日目のカフェ営業だ。


一緒に働いてくれる元現場監督の建部 飛鳥君(27歳)は、

私よりも小柄で見た目も可愛らしくお人形さんのようだ。

体はキビキビ動くし、さすがは元現場監督、と思うのだが、

その反面とてもそそっかしく、ミスが非常に多いのだ。



挿絵(By みてみん)

マルチタスクが苦手な建部 飛鳥(27)



今日は昨日に比べて数組のお客様の来店があり、

いよいよ店の営業も勢いが付いて来たかなと思っていたのだが、

飛鳥君に皿洗いを頼んだ所、洗剤を大量に付けてしまい、

全然洗い終わらない。

更には大量の洗剤によりヌルヌルになったお皿を落したり、

その落としたお皿の破片に自ら不用意に触れてしまい怪我したり。

一つのミスが連鎖して終わらないミス地獄のループにハマっていた。


「あぁもう、とりあえず私がやるから、飛鳥君は絆創膏貼って。」


これでは雇っている意味が無いように思えるが、

まぁいきなり畑違いな仕事をやって勝手がわかり難いのだろう。


と、好意的な解釈をしてみるものの、全然そんな事は無いのだ。

他の子達は普通にミス無く出来るし、そもそも一人暮らしすれば

この程度の作業は必須になるだろう。

飛鳥君は仕事では責任ある立場を任されながらも、

普段の生活では色々と行き詰ったりしていたのだろうか。

私はこの子には生活のあらゆる基礎能力を身に付けさせるつもりで、

横に付いてシッカリと教え込んでいく覚悟を決めた。


「いい?まずはね、目の前の一番やらなきゃいけない事に集中して。

 他の事を言われても忘れても良いわ。

 とにかく、今やるべき一番の事だけをやるのよ。」


彼の場合はマルチタスクが難しいように感じた為、

まずはシングルタスクで一つずつをシッカリとこなして行くよう教えた。

すると、真剣に目の前の事に取り組み始めた彼はミスが無くなった。


「ボク、前職では上司に付いてサポートをしていたんですが、

 常に怒られてばかりで・・・。

 名ばかりの現場監督だったんですが、

 店長の下でならやって行けそう、かも?」


ウチに働きに来てくれている彼らは、どうにも自分が養って行こうだとか、

そういった昭和男子の気概は一切無い。

むしろ女性経営者で店長の私に使われる事を良しとして、

そのぬるま湯状態が心地良いと感じている子達が多い。

だけど私はそれで良いと思っている。

もう今更過去の役割に縛られた社会には戻らないのだから、

もっと皆が自由で自分を生きれば良い。

私は、段々と自分のカフェの立ち位置がわかって来た気がした。

そしてそこに何故女装男子達が集まってしまうのかも、理解した。


「あら、しっかり皿洗い出来たじゃない、偉いわね。」


私がわしゃわしゃと彼の髪を、まるでペットの犬を撫でるように荒めに

掴み弄ぶと、彼はまんざらでも無いような顔をした。

何だか、可愛いと思った。


「あ、あの、店長。これからもボク頑張りますから、出来た時にはちゃんと

 さっきみたいに褒めてくれますか?」


来た。少し褒めた途端におねだりだ。

これを続けてしまうとクセになり、それ無しではやる気が起きなくなる。

だけど、私はそれで良いと思っているので、約束する。


「良いわよ。だけど少しずつ要求するハードルは上げて行くからね、OK?」


彼のほんの少しの被虐心みたいなものを刺激してしまったのか、

心の底がゾクゾクするような様子が見て取れた。

そう、ここで働く子達は皆素直で可愛いのだ。

多少意見を言っても、私が何かを言えば逆らえなくなる。

大きな企業ではそれも問題かも知れないが、こんな小さなカフェで

それが問題になる事は少ない。何より、趣味の延長みたいな場所だ。

好きにやっても誰にも迷惑はかけないじゃないか。


「飛鳥君、どうして女装をしていて、そしてその姿で働こうと思ったのか、

 もし話せるなら、聞かせてくれないかしら?」


私は客足が途切れた時間に、面接でも聞けなかった事を聞いてみた。


「最初は、会社の飲み会の出し物でした。

 ボクって小柄だし顔立ちも中性的だからと、先輩から勧められて。

 それで何となく服だけじゃなくてメイク道具も一式揃えて、

 姉に聞きながら練習していたらいつの間にか趣味になっていました。

 それで仕事休みの日に女装して遊んでいたら、外出したくなって。

 しばらくはそれで満足感があったんですが、

 仕事中の自分に段々と、違和感みたいなものが湧いて来ちゃって。

 それで、いっそこの姿で仕事が出来れば良いなぁって、甘いですよね。」


「全然甘くなんてないわよ。

 だって今現に飛鳥君はここで働けている。

 その現実を見ないで自分の殻に閉じこもっていたら、

 勿体なくないかな?せっかく女装しながら働ける環境なんだから、

 もっと自分を解放して好きに振る舞ってみても良いんだよ?」


私には彼が、まだどこか本当の自分を出し切れていない気がしていた。

私の言葉を聞いた飛鳥君はハッとした顔をして、

”ちょっと、客引きに行って来ます!”と言い出て行った。

彼なりに何か響いた所があったのだろう。


十数分後、彼はカップルを連れて店に入って来た。


「お客様ご入店です!!」


どうやら彼らしいやり方でお客様を連れて来られたようだ。


見ると、カップルに対して愛らしい甘え声と仕草で、

まるで子犬のように媚びているようだった。


媚びている、なんて言うと聞こえは悪いかも知れないが、

それは彼の自然体のように感じられた。

変にシッカリと取り繕ったり、自信満々というのは彼には似合わない。

可愛がって貰う事、それが彼なりの処世術でもあり、

彼もそれが心地良いようだった。


「お客さm・・・お兄ちゃんお姉ちゃん、

 ボクの作ったこのアクセサリー、買ってくれませんか?」


私の店にはハンドメイドの委託品のアクセサリーや雑貨があるのだが、

その中に彼らスタッフが作ったものも置いてある。

飛鳥君の作ったアクセサリーは決して上手いとは言えないものの、

絶対に彼が手作りで作ったのであろう不器用さが見て取れ、

そうした『(ナマ) 感』みたいなものが、刺さる人には刺さる。


このカップルもそれを気に入ったようで、購入を決意したようだ。


飛鳥君に限らずだけど、本当にそれぞれのスタッフが個性を発揮し、

皆にとって働き易い環境に自然とそうなってくれる事を願う。

ここは私だけの場所では無い。

お客様の第二の心を許せる部屋であり、スタッフ達にとっても

帰って来る場所となって欲しいと思っている。


私自身の成長、スタッフ達皆の成長、お客様からの認知度の向上。

これから多くの時間を経る中で、そうした前向きなスパイラルを作り、

この町に、地域に、そして一人一人にとって大切な場になって欲しい。


少し小高い街から郊外へと抜ける場所に建てられたこの場所は、

これからも人々の休息のとまり木としてあり続けたい。

もし、お散歩の際にお見掛けしましたら

是非一度、脚をお運びください。


それでは、また良き日に出会いましょう。またね。


ーおわりー

最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。

次回はかなり刺激的な作品を書きます。

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