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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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不完全燃焼

「はい! 降参(サレンダー)します!」


「…………」


 フェイルーラの眼前で、ローブに身を包んだ女性が、綺麗に片手を上げて降参した。まだ試合も始まっていない。対戦相手はフェイルーラを見た瞬間にサレンダーを申請したのだ。


 フェイルーラが改めてランクバトルを始めると、そんな事態が立て続けに始まった。サレンダーは決闘者に与えられた確かな権利だが、ここまで全員サレンダー、五階でも同様な事態が続いている。


『DO YOU WANT TO CONTINUE?』


 真っ暗なポッドの中、フェイルーラの前にまた現れる表示に、フェイルーラは少し辟易してきていた。


『YES』に決定する。バトルフィールドに転送される。対戦相手がサレンダーする。またポッドに戻され、『DO YOU WANT TO CONTINUE?』と表示される。『YES』に決定する。バトルフィールドに転送される。対戦相手がサレンダーする。ポッドに戻される。その繰り返しは単純作業のようで、我慢強いと自認しているフェイルーラでも、少し精神的苦痛に苛まれる程に、退屈であった。


(またサレンダーするのかなあ。この調子でいくと、午前中に母上の記録を抜く事になっちゃうんだけど)


 今日幾度目か、もう数えていない『YES』を決定して、バトルフィールドに転送されると、対戦相手はフェイルーラの姿を確認しても、サレンダーしなかった。


「へえ、流石に五階まで来たら、サレンダーしない人も現れるか」


 何気ないフェイルーラの問い掛けに、木の棍を手にした対戦相手の男は、不敵な笑みを見せる。


「はは! 俺の魔力属性は貴様には天敵だからな!」


 そう口にした男の身体が赤銅色に変化していく。手に持った棍も、鈍色に変色していった。


「俺の魔力属性は『鉄』! 鉄の表皮を、貴様は素手で貫く事が出来るかな!?」


 成程。と感心するフェイルーラ。魔力属性とは、その個人が生まれた時から決定している魔力の性質の事だ。魔力は基本的に無属性である。これを純魔力、または無属性魔力と呼称するが、その形はパズルのピースのように人によって違う。このピースがどのような別の無属性魔力のピースと組み合わさるかによって、その人物の魔力属性の強さや個数が決まるのだ。


 フェイルーラが思うに、ジュウベエであれば、海、もしくは水と塩、それに弱い風の属性を有していると考えている。守護精霊の座敷童のまつりによって、音(振動)と虚偽看破も加わっているであろう。


 このように、個人が持つ魔力属性は属性の種類も数も千差万別で、地水火風光闇などと言う簡単な分類が出来るものではない。しかし人間と言うものはカテゴライズする事が好きな生き物のようで、敢えてこの魔力属性を当て嵌めるのなら、『渾沌』、『固体』、『液体』、『気体』、『波体』、『虚空』の六つに分けられる。『渾沌』を『時間』、『虚空』を『空間』と分ける場合もある。勿論例外や別の分け方もある。『次元』などはそちら側だ。


 そして、これらは移動速度と顕現の重さに依存する。『渾沌』は全てが混ざり合い、最も重く、広がりを持たず、一点から動かす事はほぼ無理である。そして、『固体』、『液体』、『気体』、『波体』とその移動速度は増していき、『虚空』に至ると、それはこの世界全てに一瞬にして遍く広がり、重さを持たない為に物質を透過し、『渾沌』と違って、逆に一点に集中させる事がほぼ不可能となる。


 人間や精霊は、この六つの魔力属性のどれか、または複数を有し、無属性魔力と言うピースの組み合わせで、個々人唯一無二の魔力属性を獲得するのだ。


「『鉄』属性か。初めて見るねえ。話して良かったのかい?」


 フェイルーラが対戦相手に尋ねると、これを笑い飛ばす対戦相手の男。


「はははは! 馬鹿か、貴様? 魔力量はこちらが上。それを表皮と武器を鉄にする事に集中させたのだ。たとえ貴様が全魔力で以て俺に攻撃したところで、その手刀が俺の肌を傷付ける事など出来ん事は明白だ!」


 成程? と小首を傾げながら、フェイルーラは対戦相手の言い分を飲み込んだ。本当に自分の攻撃が効果ないのかは、試合が始まれば分かる事である。などと二人が会話している間に、


『READY! DUEL!!』


 試合開始のアナウンスが流された。


 それまで同様、不用心な程隙だらけに見える動きで、フェイルーラは対戦相手に近付いていく。相手は余程自身の魔力属性『鉄』に自信があるのか、フェイルーラに攻撃しようとする素振りもない。棍をフィールドに立てて、それを持たないもう片方の手を腰に当てて、「さあ、来い!」とばかりにふんぞり返っている。


 フェイルーラはこれに心の中で嘆息しながら、自身の制空権まで歩を進めると、何の躊躇いもなく目潰しをした。


「いぎゃあああああああああッッ!?」


 これに対して、フェイルーラの予想通り痛がる対戦相手。すぐに両手で両目を押さえるも、そのあまりの痛さに、対戦相手は鉄と化していた肌を元に戻してしまい、その隙を見逃すフェイルーラなはずはなく、フェイルーラの手刀が対戦相手の胸を貫き、その心臓を抜き取ったのだった。


 ✕✕✕✕✕


「簡単に十一階まで来てしまった」


 エレベーターでやって来た十一階の決闘者用スペースで、ジュウベエを見付けたフェイルーラは、何とも不満そうにジュウベエにそう告げた。


「いや、早過ぎるだろ!!」


 これに対してジュウベエがツッコみを入れる。当然だ。先程別れてから、一時間も経っていないのだから。


「だって。対戦相手がどんどんサレンダーしていくんだもん」


 顔全体を使って不満を顕わにするフェイルーラ。


「され? 何だ、それ?」


「サレンダー。降参って事。試合前に対戦相手が殆どサレンダーしたから、ほぼ闘わずにここまで来ちゃったよ」


 自慢か? とジュウベエは眉根を寄せる。自分(フェイルーラ)が強過ぎるが為に、対戦相手がサレンダーしていった。と一瞬誤解したジュウベエだったが、フェイルーラの闘い方を思い出し、あの殺され方をされるなら、自分も降参するかも知れない。と思い直すのだった。


「どうよ? 順調?」


 どよ〜んと項垂(うなだ)れたフェイルーラに尋ねられて、頬を引き攣らせるジュウベエだったが、一度嘆息とともに何とも言え表せない感情を吐き出し、フェイルーラと向き直る。


「順調だよ。もう十六階も終盤だからな」


「まだそんなところにいるの? 俺抜いちゃうよ」


 一時間弱で三十六戦以上したのだ。早いくらいなのだが、フェイルーラの対戦相手がどんどんサレンダーしていったら、確かに抜かれる可能性は高かった。が、


「どうかな。ここから先は、うちの派閥の奴らもいるし、お前の派閥の奴らだって闘っているんだ。そう易々と上階に行けると思わない事だな」


 ジュウベエの言葉を聞き、普通であれば嫌がるところだが、ここまで不完全燃焼で来たフェイルーラには違ったらしい。


「そうか! もしかしたらジュウベエ君と再戦する事もあるかも知れないもんね! これは楽しみになってきたかも!」


「お、おう……」


 フェイルーラとの再戦。ジュウベエとしても願ったりだが、フェイルーラと闘うのは心身ともに猛烈に疲労するので、ランクバトルで上階を目指して闘ううえでは、ジュウベエからしても闘いたくない相手であった。


「あ、あと、俺たちは昼には闘技場から引き上げるから」


「あん? 何でだ?」


「スフィアン王太子殿下が、昼には帰るんだって。俺がここに来たのは、スフィアン王太子殿下の要請だから、スフィアン王太子殿下がいないのに、ここに残るのもね」


「はあ……、お前なあ」


 これに対してジュウベエとしては、決闘者への敬意に欠ける。と思う反面、フェイルーラの闘い方が闘技場向きでない事も、今なら理解出来ているので、それも仕方ないか。と思う自分もいるのだった。


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