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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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心構え

「そのような身体で、あのような叙情的な音色が奏でられるものなのですか?」


 イッシャーナ嬢が眉根を寄せながら、首を傾げて尋ねてきた。先程の部屋で『イザ、前進』を聴いて、そのような感想を抱いたのだろうが、


「まあ、そのように演奏しましたから」


 としか言えない。


「それはまるで、私たちでも頑張れば出来るようになるように聞こえるのですが?」


 イッシャーナ嬢の目は懐疑的だ。


「出来ると思いますよ? 私は技術的にあのような演奏をしましたから」


「技術的に、ですか?」


 この俺の発言には、イッシャーナ嬢だけでなく、音楽倶楽部の面々全員やセガン監督官も懐疑的な視線を向けてきた。これに特に異論がなさそうなのはインシグニア嬢くらいだ。


「技術で、あのような人の心を震わせる音が出せるのですか?」


「え? 大体の楽譜に書いてあるじゃないですか。百を超える音楽記号には、歩くくらいの速さで(アンダンテ)強く演奏せよ(フォルテ)極めて弱く(ピアニッシモ)などの音楽標語に、歌うように(カンタービレ)先へ急ぐように(アジタート)神秘的に(ミステリオーソ)などの発想標語があり、それを正しく弾けば、人の身体は、それに則した反応をするんです。だから正確に演奏すれば、それだけで人の芯を震わせる事が可能なのです」


 これにインシグニア嬢以外が、信じられないものを見るようにあんぐりとなる。でも音楽ってそう言うものだからなあ。あの人格破綻者のウェルソンだって正確な音色を出す事が出来るから、人の心を震わす歌奏が出来るのだし。


「別に、気持ちを込めて演奏している訳ではない? と言う事ですか?」


 質問するイッシャーナ嬢の声が震えている。


「そうですね。気持ちと技術は別物ですね。気持ちを込めれば良い演奏になる。と言われても私にはピンと来ません。気持ちを込めるって、どの気持ちを込めているんですか? カンタービレの時に歌うように演奏するんですか? それも正解かも知れませんが、結局のところ、どのように聴こえるかは聴衆が決める事ですから、聴衆にそのように聴こえれば良い。と言うのが私の持論です。そうなると『気持ちを込め』て演奏するのは、私からしたらノイズですね」


「ノイズ……、ですか?」


 顔を引き攣らせるイッシャーナ嬢。他の面々も同様だ。う〜ん?


「あれ? もしや私、変な事を口にしましたか?」


 隣りのインシグニア嬢に助けを求める。どうにも俺は他者の気持ちを理解するのが下手で困る。


「そうですね。間違いではないと思いますが、言葉足らずであったのは否めなかったかと」


 このインシグニア嬢の言葉に、更に驚いたように後ろに身体を引きながら目を丸くする面々。まさか『歌姫』からそんな言葉が出てくるとは思わなかったようだ。そんなにかな?


「フェイルーラ様の言葉に付け足すのなら、作曲や合奏の時、と言うのが妥当かと。誰もが演奏出来るようにする為には、感覚的過ぎる、『感情』に頼った作曲をしては、作曲者以外演奏出来なくなりますから。同様に、合奏も個人の『感情』に差がありますから、不協和音を生む要因となるでしょう」


『おお……』


 これには感嘆の声を漏らす全員。成程、確かに個人で楽しむ分には、どのような感情で歌奏しようとその人の勝手だもんなあ。


「参考になりました」


 俺は頭を下げる。


「いえいえ、蛇足になっていなければ良かったのですが」


「いえ! 合点がいきました! ありがとうございます!」


 イッシャーナ嬢の目は、先程までの俺への懐疑的な目から、輝いたものに変わっている。腑に落ちて、さっぱりしたのだろう。


「しかし、『感情』を消して歌奏、ですか……。私に出来るでしょうか?」


 何とも複雑な表情になるイッシャーナ嬢。他の面々も同様だ。


「そうですねえ。『感情』は外的内的要因で簡単に波打ちますから、普段から平静としていられるように努めるか、感情がどれだけ昂ぶっても、落ち込んでも、変わらず歌奏出来る技術を身に付けるか、ですね。そう言う意味では、大聖堂の聖歌隊が国内最高峰の楽団なのは、教会と言う場所で、普段から心穏やかに過ごしている事が要因かも知れませんね」


『ああ!』


 これには全員が納得してくれた。良かった。俺の下手な説明でも、こっちは理解して貰えたようだ。


「音楽を究めるには、教会の神官尼官になった方が良いのでしょうか?」


 イッシャーナ嬢の顔は真剣だ。


「いやあ、どうでしょうねえ? 教会は楽団ではないですから、歌奏以外の雑事と言いますか、祈祷や祭事、日々の奉仕活動に、皆さんレベルの魔力量だと、回復役として魔属精霊や賊の討伐などに駆り出される事もありますね」


 これには、それぞれ一長一短だと考えを巡らせたのだろう。イッシャーナ嬢始め、音楽倶楽部の面々はまた複雑な表情となる。


 まあ、俺の派閥じゃないから、将来の進路は自分たちで決めて……、いや、もしかしてこの人たち、ヴァストドラゴン寮に変寮する可能性もあるのか? あるかも。そうなったら、この人たちの将来の職業斡旋も考慮しないといけなくなるなあ。


「はあ〜〜。皆さんの将来を考えるなら、シキイを呼んだ方が良さそうですね。あいつはウェルソン程ではないですが、感情的な性格ですから、それを表に出さずに技術的に演奏する術を教えてくれるでしょう。それに歌奏魔法が使えますから、将来選べる職業の幅も増えるかと」


『おおおお!!』


 俺の提案に、歓喜の声を上げる音楽倶楽部の面々だったが、流石に煩過ぎたのだろう。食堂で昼食を摂っていた、他の学生たちからの視線が突き刺さる。何かごめんなさい。


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