空を飛ぶ
「まあ、ソースの話はこれくらいにして、フェイルーラ君やインシグニア嬢の派閥はどう? 合格出来そう?」
セガン陛下が気遣ってくれたのは、昨日の事で動揺があったかと思ってだろう。
「まあ、問題ないかと」
「私の方も」
「そう、なら良かった」
「二人の派閥は、騎士なら合格して当然とか言って、戦闘試験ではなく、一芸一能試験とか言う方を受けているらしい」
ジュウベエ君の言に、セガン陛下と学長は「ほう」と声を漏らす。
「インシグニア嬢の方は派閥が戦闘向きと言う感じじゃないから分かるけれど、フェイルーラ君のところは武闘派のヴァストドラゴン領だろう?」
セガン陛下が言外に言いたい事は分かる。が、
「現状の入試だと、戦闘試験の方を受ける意味が見出だせないので」
これに対して、「ほう」と学長の視線が鋭くなる。それが何を意味するのか分からんけど。
「ハッ、どうせ戦闘試験じゃあ、合格出来ないから、一芸一能試験の方に切り替えただけだろ」
後ろのヒュージー君からそんな言葉が投げ掛けられた。まあ、そう思って貰っても俺は別に構わないのだが、それを否定する者が二人、ジュウベエ君と何と学長だ。
「いや、フェイルーラの派閥の奴らは、全員かなり強いぞ。立ち居振る舞いだけで分かるだろ? そんな事も見抜けないなら、その目は節穴だな」
「んな!?」
ジュウベエ君に反論されて、食って掛かろうとするヒュージー君よりも先に、学長が言葉を発する。
「ヴァストドラゴン領は、長男のジェンタールの頃から戦闘試験の成績は抜群だった。ジェンタールや長女のアドラから聞いた話では、母親であるセイキュアが、周遊旅団として各地を回り、その土地の騎士貴族の子を鍛えているらしいからな。末子のフィアーナは王城暮らしだったから、派閥の強さは分からないが、フェイルーラやエスペーシの派閥も同様に鍛えられたのなら、戦闘試験など余裕で合格するだろう」
ああ、ジェンタール兄上やアドラ姉上を知っていれば、ヴァストドラゴン領の騎士貴族の子息令嬢の強さは理解しているか。
「まあ、そう言う事です。ある程度強くなったら、領内の貴族の子供たちは皆、ナイフ一本と三日分の食料を持たされて、人里から歩いて一週間程離れた場所に放置されて、サバイバル試験を受けさせられるので」
「え? お前の母親は鬼畜か? いや、般若か?」
ハンニャが分からないが、たまに悪魔の如く悪辣だと思う事はある。
「しかし、ナイフ一本で一週間サバイバルは、何と言うか、セイキュアらしいね」
遠い目をするセガン陛下。身に覚えでもあるのだろうか?
「まあ、別に一週間サバイバルしなければならない訳ではなく、人里から一週間離れた場所に放置されるだけなので、すぐに戻れば問題なしです」
『…………』
周囲が静まり返ってしまった。何故?
「それ、普通は一週間以上掛かるか死ぬかの二択だからね。多分、一週間で戻れたなら、セイキュアの中では相当高得点だと思うよ?」
セガン陛下が微妙な表情をしている。そうかな?
「参考までに、どのようにしてそのサバイバルを切り抜けるのか、聞きたいところだね」
フィルフィン君が若干胡乱な目をこちらへ向けてきた。
「う〜ん。参考までに、か。私の方法は参考にならないからなあ。グーシーたちがいれば、ブッシュキャンプの仕方とか、魔属精霊や魔物が寄り付かないような結界魔法とか教えてくれると思うけど」
「フェイルーラのやり方は参考にならないのか?」
ジュウベエ君が首を傾げる。
「うん。私は母上に大自然の中に放置されてから、母上よりも爆速で帰宅するから、苦い顔した母上に、理不尽に拳を落とされるね」
「はあ!? 一週間掛かるんだろ!?」
「だから、徒歩で一週間程の場所に放置されるだけだから。一週間掛けないといけない訳じゃないから」
「いや、言っている意味は分かるが、そのやり方が想像出来ないんだよ」
「だから、参考にならない。って言っているのに」
これにジュウベエ君やギガントシブリングス家の面々が頭を抱える。
「騎士貴族よりも少ない魔力量の人間が、人里から一週間離れた場所から、放置した人間よりも早く返ってくる方法が全く想像出来ない」
フィルフィン君の言に、ギガントシブリングス家の面々だけでなく、ジュウベエ君にセガン陛下、学長まで頷いている。何これ? 俺、馬鹿にされている?
「何と言いますか、先程からボタンの掛け違いのような会話が続いていますね」
そこにインシグニア嬢も参戦してきた。
「それで、結局のところ、フェイルーラ様はどのような手段で期間を短縮なされたのですか?」
「ふむ。インシグニア嬢の方が、この方法は向いているかな」
「え? 私ですか?」
まさか自分がサバイバルに向いているとは夢にも思わなかったのだろう。目を見張るインシグニア嬢。俺も、インシグニア嬢がサバイバルに向いているとは思わない。
「ヴァストドラゴン領での、人里離れた場所からの脱出、と言う限定的な意味では、インシグニア嬢は向いていますね。高いところが苦手じゃないなら」
「高いところ、ですか?」
「ああ! 確かに空を飛んでいけばすぐに帰れ……、フェイルーラの魔力量じゃ第二魔法を挟んでも無理だろ!?」
一度納得し掛けてたが、それが無理だとジュウベエ君の中で自己完結したようだ。
「まあ、そうだね。それに私の第一魔法に風属性はないし、私の方法は魔力は使わないしね」
「魔力は使わずに、一週間以内に人里に辿り着く。それでいてインシグニア……嬢でも可能な方法? ぐぐぐッ、想像が付かない。いや、インシグニア嬢となれば、歌か? 演奏か? いや、そんなものでどうやって帰還するだよ?」
何か凄く悩んでいるけど、そんなに答えを引っ張るような問題でもないんだよなあ。
「それで当たりだよ。答えは簡単で、水辺で葦を採取して葦笛を作って、それで空イルカを呼んで、空イルカに跨って帰ってくるんだよ」
「ああ」
「…………」
インシグニア嬢は納得のご様子だが、ジュウベエ君は理解出来ずに呆けた顔となる。
「いや! 空イルカって何だよ! イルカは海か川にいるもんだろ!」
その意見は最もだ。動物としてのイルカはそうだ。
「ヴァストドラゴン領には、空イルカって言う自然精霊がそれなりの数いるんだよ。その空イルカの鳴き声と、葦笛の音が似ているから、葦笛を奏でると、空イルカが寄ってくるんだ」
これに対して、疑惑の視線を向けてくるジュウベエ君。そんな視線のまま、俺以外の面々に視線を送ると、皆が頷き返してくるので、この事実を飲み込まざるを得ず、何とも言えない顔で一度ギリッと歯ぎしりする。
「空イルカはアダマンティアでは結構メジャーな自然精霊なんだよ。基本的に大人しくて、無害な精霊として位置付けられているね。私としたら、タヌキの方が見た事ないから、どんな姿か想像出来ないよ」
「成、程?」
これに不本意そうに首を傾げるジュウベエ君。
「タヌキさんはとても可愛くて、触るとふかふかなんですよ」
そこへインシグニア嬢が一言加えてきた。インシグニア嬢はタヌキを見た事があるのか? いや、マドカ嬢の守護精霊だ。見せて貰っていても不思議じゃないか。
「でもまあ、これでフェイルーラ君がセイキュアよりも早く人里に戻れた理由は分かったね。僕には無理だけど」
セガン陛下の言に皆が深く頷く。
「私も出来るかどうか」
これにインシグニア嬢は謙遜するが、
「ヴァストドラゴン領では子供の遊びとして、葦笛で空イルカと戯れるのは、各地で良く見る光景ですから、インシグニア嬢ならすぐかと」
俺はそう説明する。が、まだ葦笛で空イルカと戯れる自分の姿を想像出来ないのか、インシグニア嬢は首を傾げるのだった。




