まずは突撃
「だ、大丈夫ですか?」
インシグニア嬢が動揺しながらも声を掛けてくれた。そりゃあ、身悶えている人間を見たら引くよね。ふう〜〜。
「大丈夫です。済みません。ちょっと自分の愚かさに居た堪れないなくなっただけですから」
「はあ」
うう、困らせるつもりはなかったんだけどなあ。
「インシグニア嬢はこの後、どうされるのですか?」
「え? どうしましょう? フェイルーラ様はまだ闘われるのですか?」
「いや、今日はこれで終わりです。派閥の中にまだ闘っている者がいますから、それらを回収してここを離れるつもりです」
「離れるつもり、ですか」
やはりインシグニア嬢は聡い。ここを離れた後、何かあると勘付いている。
「まあ、エスペーシに発破を掛けに行くだけです」
「ああ」
エスペーシは昨日、グリフォンデン領の分館に行っている。今日、フレミア嬢が王城に行った事も知っているだろう。
「ちょいと、賑やかしでもしてやりますか」
「ふふ。悪い顔になっておられるますよ」
インシグニア嬢はそう口にするが止めようとはしない。俺の言葉の裏を察して、付いてくるつもりだろう。へこんでいる奴を誘導するのは楽しいからねえ。
「さて、まだ少し時間もありますし……、私としてはこの間に何か甘い物が飲みたいところですね」
「甘い物、ですか?」
「ここで闘うと脳が疲れるんですよ。脳の養分は甘い物が良いので」
「成程」
理解を示すインシグニア嬢。楽器を奏でるのも脳みそ使うもんなあ。
「飲食売店通りは二ヶ所あります」
アーネスシスはそう口にすると、俺たちをそこまで連れて行ってくれるのだった。
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「ここと、反対側にあります。入り口、この階だとエレベーター近く、そこと奥にトイレがあります。投票券の販売は入り口付近ですね。どの階層でもここら辺の構造は同じです」
アーネスシスの説明も半分流し、俺は並ぶ数々の飲食売店に目を向けていた。
(ジュースよりも酒類が多いか? まあ、ここにいるのは決闘者じゃなくて観客だもんなあ。食べ物も各種肉串に、腸詰め串、サンドイッチにくし切りポテト、ミックスナッツ、ポップコーン、塩っぱい系が多いな。手掴みで食べれるものが多い)
「お、タコ焼きが売っているんだ?」
色々と物色していると、モトナリ君がそんな声を上げた。タコ焼き? あれを焼いたもの? と疑問に思いながらそちらをみると、一口サイズの小さな丸い玉だった。子ダコかな?
「それはタコなの? それともタコの頭を模しているの?」
「中にタコの切り身が入っているんですよ」
モトナリ君が教えてくれた。成程、生地の中に、タコの切り身が。と感心していると、タコ焼き? を作っているおじさんが険しい顔をする。
「これはそんな変なものじゃない。これはボール焼きだよ」
「ボール焼き?」
モトナリ君が首を傾げる。俺たちも首を傾げる。インシグニア嬢と侍女二人は知っているようで首を傾げる事はなかった。
「小麦粉に卵、牛乳、蜂蜜、重曹を混ぜたものを、油を敷いた半円形の型に流し込んで、素早くくるっと丸く成形したものだ」
恐らくどう作っているか聞かれる事が多いのだろう。店主のおじさんが教えてくれた。分量の配分は多分企業秘密だと思われる。
「甘いなら貰っておこうかな」
説明もして貰ったので、ボール焼きを買う。十個で二百フェルムだった。チョコレート菓子はボール焼き一つと同じ大きさだが、一つ千五百フェルムはする。やはりチョコレート菓子はお高い。
そこから他の店を巡り、ジュース店に辿り着く。空間魔法で果物を保存しているからか、アップルジュースやらピーチジュース、メロンジュースやスイカジュースにミックスジュースなど、色々種類がある。そんな中で俺の目を引いたのはホエイドリンコと言う他とは別の飲み物だった。
「ホエイドリンコ? ホエイって何だ?」
「ホエイは乳清とも言われている、牛乳からチーズやヨーグルトを作る時に凝固する時に分離する水分ですね。ヨーグルトを食べる時に上澄みに水が出るじゃないですか、あれです」
インシグニア嬢が教えてくれた。が、ヨーグルト、あんまり食べないんだよなあ。チーズも輸入品だし。う〜ん、そんなものもあった気もする。
「栄養価も高いそうですよ。身体を鍛えている人は良く常飲するそうです」
「へえ。じゃあ飲んでみようかなあ」
インシグニア嬢に勧められるまま、俺はホエイドリンコを注文して、それを一口飲んでみる。
「甘酸っぱい。そして蜂蜜味」
「本来はもっと味が薄いんだけど、店で出すからな。蜂蜜を足して飲み易くしているんだよ」
店主がそんな事を教えてくれた。確かに、薄味だと果汁の方を頼むかも知れない。でも、
「何故蜂蜜味?」
「お前さん、王都の外からやって来たのか?」
「はい」
「王都は年中春だから、花が年中咲き乱れて蜂蜜園が多いんだよ」
成程。そして、
「これは好きな味かも」
「ありがとさん」
ニカッと笑う店主。ふむ。そんな笑顔を見ながらホエイドリンコを飲む。美味しい。
「あの! 宜しいでしょうか!?」
そんな風に飲食売店通りを歩いていたら、後ろから声を掛けられた。振り返り様、俺の周囲を歩いていたうちの派閥の面々が、相手を警戒するように俺とインシグニア嬢を囲う。
俺に声を掛けてきたのは、万年筆とノートを持った女性と、カメラを持った男性の二人組だった。これに目を細める。
「何かご用ですか?」
「日刊アダマン新聞の者ですが、フェイルーラ選手にインタビューをと思いまして、お時間宜しいでしょうか?」
ペンとノートを持った女性がそう声を掛けてきて、俺に詰め寄ろうとしてくるが、うちの派閥の女性陣がそれをガードする。
「不敬な! 疾く立ち去れ!」
ジルッタがそう口にするが、女性記者は興奮しているのか、それでも俺に詰め寄ろうとするし、カメラマンは断りもなく俺をパシャパシャ撮影している。
「ふむ。日刊アダマン新聞ねえ」
「はい! お母上と並ぶニュービー到達記録を成し遂げた事に付いて、一言下さい!」
一般市民に怪我をさせる訳にもいかないので、ジルッタたちも抑えるに留めるしかなく、それを理解してか、ぐいぐい来る女性記者。
「インタビュー、ねえ。こちらの条件を飲むなら、応えても良いよ」
「条件?」
俺の言に、「こいつ何様だ?」と言う気持ちが、女性記者から漂う。
「取り敢えず、二人とも、名刺を貰えるかな? 本当にそちらが日刊アダマン新聞の記者なのか、こっちは分からないからね」
これを聞いて、二人はハッとなって名刺を差し出してきた。取り敢えず取材対象を見付けたら突入するタイプのようだ。ジルッタが二人から名刺を貰い受け、俺に渡すと、俺はそれをアーネスシスに渡す。
「日刊アダマン新聞に連絡して、この名前の記者がいるか参照して」
「はい」
アーネスシスは名刺を受け取り、すぐにその場を後にした。これには動揺する二人。
「ちょ、ちょっと!?」
「こちらも言ったけれど、いきなり押し掛けて、勝手にそれを取材と称して記事にするのは、私じゃなくても不敬だよ? しっかり日刊アダマン新聞の記者だと分かったら、インタビューに相応の対応をするから」
俺の言葉に頬を引き攣らせる二人。
「もし、これである事ない事記事にしたら、君たち二人だけでなく、日刊アダマン新聞自体に対しても相応の対応をするから、そのつもりで私にインタビューするんだね」
俺の言葉に、二人は縮こまりながら頷くのだった。




