イタい奴
「だああ、疲れた〜〜」
ポッドのフタが上がり、閉鎖空間だったポッドの外へ出ると、ポッド室にいた他の決闘者たちがざわつき、俺から距離を取る。何か腫れ物扱いで失礼。
思わずムッとしてしまうが、それは表情に出さず、さっさとポッド室から控え室に向かおうと、ポッド室の出入り口まで歩いていくと、
「お?」
「ありゃ?」
ストライク君と会った。同じポッド室だったらしい。彼も流石に俺との対戦は堪えたのだろう、一度休憩するつもりのようだ。
「お疲れ〜」
「お、おう。お疲れ様」
俺が手をグーにしてストライク君に差し出すと、これにストライク君もグータッチで応えてくれた。そんな事をしながらポッド室から廊下へ出る。
「何と言うか、バトルフィールドと印象が違うな」
ストライク君が俺を見てそう評する。
「そう?」
「何と言うか、のんびりしていると言うか、穏やかと言うか、抜けていると言うか……」
「抜けている? それは見た目だけだね。俺はこれでも抜け目ない方だからねえ」
「ああ、ワダツミ家の子女を引き抜いたって聞いたな」
これにストライク君は目を上に向けて何やら思い出している。
「あれは棚ぼたって奴だねえ。ジュウベエ君の方からふっかけてきたからねえ」
「ふっかけた? 場外でか?」
「闘技場どころか、市街のチョコレート店でだよ」
「はは、それはオブリウス君も見限る訳だ。逆に外で騒ぎを起こしそうな奴を良く囲う気になれたな」
「う〜ん、まあ、何と言うか、正直な奴だったから、かなあ。理由は特にないよ。本当にあれは出会い頭だったから。正直過ぎてトラブルメーカーなところは目下矯正中」
「それはそれは」
ストライク君は面倒事には首を突っ込まないタイプのようだ。
「俺は敗けたからってヴァストドラゴン寮には入らないぞ」
入らないって事はストライク君は同学年かあ。あの強さで低階層にいるところから見るに受験に注力していたんだろうなあ。
「流石は雷速の男。俺が問うより先に返答してくるとは、やるねえ。まあ、俺としてもそっちが良いかな」
俺の答えにストライク君の顔が疑問に歪む。
「ストライク君がオブリウスの立場として、強い仲間を集めて派閥を固めて、それで勝って嬉しいかい?」
「ああ、そう言う事か。確かに。それは作業あり詰まらないだろうな」
「俺やストライク君はそっちタイプだね」
「まあ、他の奴らは強い仲間でゴリ押すか」
これに首肯する。
「グロブス殿下のいるグリフォンデン寮や、手広く国内に一族を持つギガントシブリングス寮は、強者で固めてくると思う。オブリウスも、その実、強い仲間は一枚でも欲しいだろうね」
言いながら、俺はフィルフィン君を思い浮かべる。彼自身魔力量でグロブス殿下を超えているようだけど、周囲も強そうなので固めていたなあ。自分も強いうえに集団の指揮も上手そうで嫌になるねえ。
「そうなると、フェイルーラのところは一番弱い事になるな」
「だねえ。でも合戦も、別に戦闘ばかりじゃないしねえ」
「ああ」
合戦は、寮対寮の対抗戦だが、どんな競技で闘う事になるかは、くじ引きなのだ。なので当然非戦闘の競技もある。
魔法薬学とか、錬金術とか、純粋数学とか、物理学とか、音楽とか、社交場の仕切りとか、身体を動かすものでも、レース系があるし、まあ、色々だ。魔法学や精霊学は実技と筆記とに分かれている。それでも戦闘合戦が多いのは、ここが元々王都ではなく、城塞都市だったからだ。
合戦のルールとして、週頭に寮長がくじ引きをして、どの寮と対戦するのか、何の競技で競うのか、そこで決まる。そして一週間(実質四日)掛けて対戦の対策をして、週末に対戦するのだ。
ただし確率論的に、一つの競技に収束する可能性があるので、競技に関しては、一度くじで引いたものは除外され(同じ競技は複数用意されている)、対戦に関しても、総当たりになるように調整が入る。
「ま、お前と戦闘合戦で闘えるのを楽しみにしているよ」
「ああ」
控え室に着いたところで、ストライク君とは別れる。そしてアーネスシスたちが寄ってきた。
「おめでとうございます」
アーネスシスの言葉に思わず首を傾げ数瞬、
「あ、そうか、母上と並んだのか」
ストライク君との闘いが楽しかったから忘れていたや。俺の反応にアーネスシスたちは苦笑いだ。ま、別に記録に固執していた訳じゃないしな。
「俺は今日はもう帰りたい。スフィアン殿下は?」
「ジルッタとの闘いの後、お帰りになられました」
まあ、目的はインビジブル・バーストだもんな。それでもアーネスシスたちは不満顔だ。幾ら王族でも、帰るなら一言欲しかったようだ。
「エスペーシは?」
「所在は追跡済みです」
「オッケー。ここにいないのは……、グーシーとジュウベエ君。それにブルブルか?」
首肯するアーネスシス。
「はい。ブルブルとは先程連絡が取れました。あと数戦で現在の階から上がれそうとの事で、それを片付けて合流との事です」
「グーシーとジュウベエ君は?」
「二人とも、現在二十五階です」
「へえ」
それは面白い。もしかしたら、二人が闘うのを見られるかも知れないな。
「二十一階層に到達している者に、ポッド室で見張らせていますから、ポッドから出てくれば、二人も合流かと」
「うん、分かった。じゃあ……」
周囲を見回しても、他の決闘者たちは俺たちを煙たそうに遠巻きに見るばかりだ。な〜んか所在ないなあ。
「俺たちは観客席に行こうか」
『はい!』
うん。皆元気だねえ。
✕✕✕✕✕
「フェイルーラ様」
「ほえ?」
二十五階の観客用フロアの廊下で後ろから声を掛けられた。こ、このシルキーな声は! 声に釣られて振り返ると、そこにはインシグニア嬢がいた。
「え!? インシグニア嬢!? 何故ここに!?」
「私も今日はお休みですから。フェイルーラ様が闘技場で闘っていると噂を聞きつけて、来てみたんです」
ああ、はい。情報戦はインシグニア嬢の主戦場ですからねえ。来ていたなら声を掛けて貰いたかったが、インシグニア嬢は決闘者じゃないので、決闘者用のフロアには入れないのだろう。それに、
「えっと、何と言うか、グロテスクなものをお観せして、申し訳ありません?」
何となく実戦から遠い印象のインシグニア嬢に、思わず謝ってしまった。これに首を傾げるインシグニア嬢。
「何故、謝るのですか? 別に悪い事をした訳でもありませんのに」
う〜む。雰囲気はキョトンとしている。俺の闘い方は、闘技場に慣れている他の決闘者たちや観客たちからも引かれるものだったのだが、インシグニア嬢は特に忌避感はなかった? 意外とグロに強い女性はいるし、そっち系かな? うちの派閥の女性陣もそっち系だ。
「一応回復魔法が使えるので、魔属精霊との戦いに駆り出された事も一度や二度ではないので、あれくらいのグロテスクさは多少見慣れているんです」
俺の心の内を読まれてしまった。流石は情報収集特化。しかしそうか、一応領主貴族の家の者なのだし、戦場に出る事もあるか。それに回復魔法の使い手となると、前線ではないからグロから遠いと思うかも知れないが、実際には回復魔法を使う為に、怪我をした者の一番グロい部分を直視しないとならないのだから、グロ耐性は嫌でも上がる。
「ふふ。格好良かったですよ」
「はい?」
「並み居る対戦相手に対して、強さを見せ付けるような手刀の一撃。それでいて勝ち誇るでもないあの佇まい」
う、うおおおおおお!! 思わず身悶える俺に周囲の皆が動揺する。だが、だが、インシグニア嬢の口から冷静に説明されると、自分の中にちょっと格好付けていた部分があった事に気付かされて、滅茶苦茶恥ずかしい!! ううう、何を手刀で一撃とか変な縛りで闘ってきたんだ。あ、これ、他の決闘者たちが俺を遠巻きに見ていたのって、引いていたんじゃなくて、イタい奴に関わらないようにしていただけなんじゃ!? うおおおおおお!! 恥ずかし過ぎるううう!!




