標的にされた学校・第四幕・転校生の正体
「そんなに強く押し上げたらスカートが捲り上がるでしょ!」
黒木先輩が持った人形が肩車をしている沙織に言った。
外はまだ細かい雨が降り頻り霧が掛かっている。その状況を利用して身を隠し回り込んで体育館の裏手にやって来た四人達はアジトである部室の天窓によじ登り入ろうとしていた。
「先生、案外重いわね・・」
「ごめんね、最近運動不足なの・・」
横手にもうひとり翠が光明寺先生を肩車していた。
「やっぱり風紀委員が見張っていて無理だわ」
体育館に偵察に行っていた妙子が小走りに返って来た。
「妙子も早く上がって!」
沙織が肩車をして登らせた。
最後に残った四人も慣れた手付きで天窓まで這い上がっていき部室の中に入って行った。
「これでよしっ!」
綾乃が風紀委員が押し込んでこない様に入り口の扉の内側から厄除けのお札を貼り鍵を掛けた。気が張っていた神経が解放されたのか全員力が抜けしゃがみ込んでしまった。
「妙子は大丈夫だったの?」
少し経ってから息を整えた沙織が地べたに大の字に寝たまま聞いてきた。
「全校集会には参加していないのよ。早朝から食虫植物のお花に朝食をやっていたのよ。それに朝からこの雨でしょ、ビニールハウスから出るのが億劫になって授業も遅れて出たのよ」
妙子は床に足を伸ばし朝の出来事を言った。
「何だかその全校集会が曲者ね。この学校の生徒全員ならまだしも先生までおかしくなっちゃうなんて途轍もなく凄い力で操られているのよ!」
同じく横たわっていた翠が力無くか細い声で言った。
「小佐井先輩大丈夫かしら・・」
横になった由香はデジタル写真部部長の先輩を気掛かりに思い浮かべた。
「あっぁぁぁー---!」
急に沙織が立ち上がり大声を上げた。
「どうしたの沙織。そんな大きな声出して?」
由香が寝返りを打ちながら気だるく聞いてきた。
「朝に差して来た番傘が丸焦げよ!」
沙織が焼け焦げた番傘が横たわる所に駆け寄り抱きかかえた。
「可哀そうに、よっぽど愛情がこもっていたのねぇ。誰かストーブ点けっぱなしだった?」
翠が不憫な顔をしていった。
「それだったら今でも点いているでしょ。誰なのこんな事したの・・」
沙織は番傘を抱きしめ悲しんでいる。
「ところでお狐様の顔を見ないわね。お留守かしら?」
綾乃がスクリーンを眺めた。
「まぁどっちにしろ黒幕は今日来た転校生に決定ね。さぁこれからどうしますか!?」
翠は二人の話にはそっちのけで独り言のように皆に問い掛けた。
「そうねその転校生が何の目的で生徒全員と先生を操っているのか?よね」
唯一妙子だけがその問いに答えてくれた。
「それにしても藪下の奴!私の生徒会を乗っ取りやがって腹立たしいわ!」
気絶した様に行き倒れていた西園寺が起き上がりうっぷんを晴らしている。
「お前達お喋りしている暇は無いぞ。何やら外が騒がしくなってきているぞ」
黒木先輩が持った人形が皆を呼び止めた。
「静かにして!ほんと人の気配を感じるわ」
光明寺先生も扉の前に行き聞き耳を立てた。
「やはりどうやらこの部屋に潜伏しているみたいです」
アジト・・部室の外では数名の風紀委員が後からやって来た藪下に言った。
「それじゃ何故に突入して踏み込まぬ!」
藪下は怪訝な顔をして言った。
「それが鍵をしているみたいで、これがまた頑丈で・・」
ひとりの風紀委員が言い訳に聞こえるような本当の事を伝えた。
「また言い訳ばっかりして!」
やっぱり藪下には言い訳の様に聞こえているようだ。
「それは結界が張られているのですよ」
後ろから瀧川康介が歩いてやって来た。
「これは瀧川殿それはどのような事でございますかな?」
ときおり藪下には時代劇の見過ぎか口調がそうなる。
「これはあなた達人間の手には負えません。ここは僕に任せて下さい」
そう言って瀧川康介が扉に手を翳した。
「キャァァーー!封印していた魔除けのお札が燃え出したわよ!」
聞き耳を立てていた光明寺先生の目の前で綾乃が張った厄除けの札が燃え上がった。それを目の当たりにした皆は飛び上がり後ろの壁まで後ずさりした。そしてゆっくりと扉が開き瀧川康介を先頭に風紀委員が入って来た。
「何よ!今日来た転校生の癖してえばりやがって!何様よ!」
沙織が力一杯の声を瀧川康介に浴びせた。
「藪下ぁ~!いい気になるんじゃないわよ!」
西園寺も力一杯今までの不満をぶつけた。
「何様・・、ですか・・。いいでしょう。聞き分けの無いあなた達に僕の真の姿をお見せしましょう・・」
そう言って瀧川康介は胸元から般若の面を取り出した。
「あぁ、あれ盗んだのね!高価なお面よ!」
翠が大きく目と口を開け指を差して驚いている。
「あー!またあんた達!無駄に経費を叩いてくだらない物を買ったのね!」
西園寺から横槍が入った。
「くだらないとは何よ!あのお面は被った人の本当の気持ちを踊りによって表現してくれる珍しい能面よ!」
端に居た綾乃が顔を出して西園寺に言い返した。
「痴話喧嘩のなか悪いが被っていいですかぁ~」
瀧川康介が気を遣って聞いて来た。
「いいわよ!早く被りなさいよっ!!」
綾乃と西園寺が一斉に声を合わせ瀧川康介に向かって言い放った。
「それでは・・」
瀧川康介がゆっくりとお面を装着して扇子を広げ舞い踊った。すると体中から黒い靄が立ち込めそれが徐々に形になり天井にまで届く巨大な鬼の姿となった。その脇に立っていた藪下を含む風紀委員達は立ち込めるその黒い靄のガスにまいったのか気を失い倒れ込んでいった。
「キャァーー!!」
これまた一緒に妙子と西園寺と光明寺先生までもがその鬼の形相に驚き気絶してしまった。
「どうだ、お前達はわしのこの姿を見て恐れ慄かないのか?」
般若の面を被った瀧川康介が低く籠った声で聴いて来た。
「ちょっとやそっとで直ぐに驚いていたらオカ研なんて務まらないわ」
翠が久々に部長らしき発言をした。
「それにあなた!鬼の姿に扮しているけど本当は妖怪、神野悪五郎ね」
図書係であり文学少女の綾乃がピタリと名指しした。
「だ、誰それ・・!?」
沙織がキョロキョロしながら頭の中の引き出しを片っ端から開けた。
「何故にわしの名前が分かる?昨日の赤い月の晩に五百年の長き眠りから目覚めたのだぞ!」
般若の面の瀧川康介の籠った太い声が響いた。
「昨日の月って赤かったかしら?」
「知らないわよ昨日は曇り空だったんじゃない?」
沙織と由香が小声でぼそぼそ喋っている。
「何をこそこそ喋っておる!新聞にも出ていただろう。お前達そんな事も知らなかったのか・・」
般若の面の瀧川康介の太い声が呆れたように言った。
「それよりなにより何で皆や先生を操っているのよ!」
沙織がようやく要点を突き立てた。
「待っていたぞ!その質問がここまでくるのにえらく長い時間が掛かったな・・。それでは教えてやろう。まずはこの学校をわしの住処にするのだ。そして学校の周りを都市化して貪欲に塗れた人間達を集めその腐った心をどんどん増やしそれをわしの食料にするんだよ!」
般若の面の瀧川康介は太い大きな声を張り上げのうのうと盛大に、また意気揚々と言った。しかしそれを聞いている四人と黒木先輩と人形は呆気に取られポカンとしている。
「お主の晩飯の事など聞いてはおらぬ。皆の意見は他人の学校や土地に土足で踏み込んでこの者達を意のままに操ったり山々の大地を崩そうとしているお主の行為が許されず怒っておるのじゃ!」
黒木先輩の人形は聞いた事のある口調で答えた。
「あれぇ~?もしかしてお狐様ぁ~」
由香が人形の顔を覗き込んだ。
「なんのはなしですかぁ~」
黒木先輩と人形が声を合わせて辻褄を合わせた。
「お前達は何者なんだ・・。普通の人間ではないな」
般若の面の瀧川康介は会った事の無い感覚の人間に驚きよろめいた。
「どういうこと!普通って何よ!そう私達は愛と正義の戦士!オカルト研究会よ!」
四人の着ていたジャージの色が変わりどこからともなく軽快なBGMが掛かり、それぞれのポーズを作り決めた。横にいた黒木先輩の人形は花吹雪を散らしている。
「生きていくのに誰だってそれが食べる物が違っていたとしても私達と同じでお腹だって減るわよ!」
青いジャージの沙織の最優先はご飯を食べる事だ。
「そして人に取憑いて寄生するのならばそれも生きていくのに仕方が無い事だわ。特に野生の世界なんて人から見れば残酷に映るけどそれが常識なんだから。理解できない人には変に聞こえるかもしれないけれど・・」
緑のジャージの由香は気だるくはにかみながら言った。
「そうよ鬼だって妖怪だって人とお互いに隣通しに干渉する事なく昔から一緒に生きているのよ。分かって頂戴そんな事に私達は腹を立てている訳では無いのよ。私達の暮らしを理不尽に踏み荒らされるのが堪ったものじゃないのよ!」
ピンクのジャージの綾乃が四人のなかで一番強い子かもしれない。
「しかも勝手に他人の物を盗んで!!」
最後に赤いジャージのリーダーの翠が瀧川康介と鬼に説教した・・。と言うより、大事なお面を盗られた事に怒っている。
「お前達・・・、このわしと対等に相手してくれるのか・・」
天井を超えそうな鬼の姿は四人のその言葉に何を感情移入したのか分からないが、次第にその姿は小さく原型を止めなくなり黒い靄は消えてなくなってしまった。そして瀧川康介が被っていた般若の面は滑り落ち真っ二つに割れた。
「ああああー高価な代物がー!」
翠が割れたお面を手に取り嘆いた。
「僕は都会の学校で友達も出来ず独り寂しくいたんだ・・」
瀧川康介のあどけない声が静かに聞こえてきた。
「そんな弱い心の隙間に付け込まれて良からぬ輩が入り込んだのね」
沙織が納得した。
「そして今の奴の上手い口車に乗せられて友達が出来た気分になっていたんだ」
瀧川康介が寂しそうな顔になり涙を流した。
「そう簡単には友達っていうものは出来ないわよ。自然に気を遣わず本音が言える親友が一人でもいれば最高よ!」
割れたお面を手にした翠も泣きべそをかきながら現実を突き付けた。
「男の子なんでしょ。勇気を出して気軽に話せばいいじゃない。君なら出来るわよ!」
綾乃が勇気づけた。
「がんばって、気の合う子が沢山出来るわよ」
由香も気だるく励ました。
「しっかりとした心が持てる様に応援しておるぞ」
黒木先輩の人形に取憑いたお狐様が力強く言った。
「皆ありがとう。でも、もう此処にはいられない・・。やっぱり住み慣れた都会に帰るよ。それでもう一度やり直してみる!」
瀧川康介は笑顔を取り戻し手を振り出て行った。
「痛たたぁー、私こんな所で何してんの?」
倒れた時に肩を脱臼したのだろう。間もなく藪下が体を起こし立ち上がった。
「また此処は訳の分からぬ物を置いて散らかしておるな!明日までに整頓しておけ!皆の者寝ておらずに引き下がるぞ」
藪下は部室の散らかし具合を注意して、いつもの時代劇口調で倒れている風紀委員の仲間を起こし十手で肩を叩きながら出て行った。
「私も行くわよ。久々に来て面白い事を体験したわ。ちなみにあの餅・・。まぁいいわ・・」
何も喋らなくなった人形を抱きかかえ黒木先輩は意味ありげな言葉を言い残して出て行った。お狐様は元の鞘に帰ったのであろう。
ところで妙子と西園寺と光明寺先生はまだ気を失って寝ている。その三人に眩しい日差しが照り込んで来た。四人はすぐさま天窓に上り校庭を覗き込んだ。そこには今まで降り続いた細かい霧雨も上がり校門の前で此方に向かってご丁寧にお辞儀をして出て行く瀧川康介の姿があった。
「長い一日だったけど何だか最後は味気なく終わちゃったわね」
翠がそう言って四人は学校から出て行く瀧川康介を見送った。
「今日の朝に転校して来たと思えば放課後にはまた転校して行くんだから忙しい子ね」
由香も気だるくぼそりと言った。
「自分の居場所が見つかる学校に行ければいいのにね」
綾乃は幸せを願う気持ちで言った。
「さぁ~てと、私は番傘くんに和紙を張って修繕しようかしら」
沙織は骨だけになった番傘を開き糊を塗り出した。
「あー-!ミミズ男を忘れてたー!このまま放っといたら干乾びちゃうわー」
翠がはっと思い出したかのように大声を上げた。四人は雨後の水たまりに日差しが眩しく反射するなかを水飛沫を上げて飼育小屋に向かって走って行った。
※今回のウィキペディアで検索してみよう!※
●からかさおばけ
●番傘
●結界
●般若の面
●十手
●神野悪五郎
●第三話・標的にされた学校(全四幕)
●出演者
オカルト研究会メンバー
早乙女沙織、鷹塚翠、飾磨由香、栗須川綾乃
●ゲスト出演者
転校生・瀧川康介
風紀委員長・藪下真紀
生徒会会長・西園寺公佳
オカルト研究会幽霊部員・黒木美紗先輩
オカルト研究会顧問・光明寺春江先生
園芸部部長・和中妙子
野良猫の輔清
お狐様
※この物語はオカルト研究会の四人組のドタバタコメディのフィクションであり実在の個人名、団体名、建物名、本のタイトルなど一切関係はございません。




