Phase.1
私は、世界で一番美しい光を"視"た。
それは淡く煌めいて、今にも消えてしまいそうだった。
いつまでも"視"ていたいと願った。
しかし。
その数日後、私は――。
Handicap Girl
Phase.1
――ジリリリリッ!
目覚まし時計が朝の訪れを告げる。
それを合図に私は目覚める。
しかし、私の世界は真っ暗だ。
私は目が見えなくなった。
数年前、交通事故で両目の視力を失ったのだ。
初めのうちはそれを信じることができず、悲しみにうちひしがれた。
(目が見えなくても、涙って出るんだ…)
目が見えなくなってから、初めて思ったことだ。
こうなってしまっても、感情は出せる。
単純にそれが嬉しかった。
リハビリさえ続ければ、例え盲目でも普通に生活をすることもできると担当医師に言われた。それを信じて、私は一生懸命にリハビリを続けた。
その結果、私は今まで使っていた一本の白杖を手放すことに成功した。
―――――
今となっては一人で全てをこなすことができるようになり、石や溝につまづいて倒れることも無くなった。
それも全部、今まで頼りにしていた一本の白杖のおかげだ。
これを手放したことが、私を大きく進歩させた。
周囲の状況を空気で感じ取り、必要ならばモノに触れる。
さらに声を発した時の、音の跳ね返りで物のカタチや距離感も何となく捉えることができる。
この数年で私が手に入れた能力、といっても過言ではない。
今のところ不自由なんてしていないし、何より友達が支えてくれる。
でも、迷惑をかけてるんじゃないかと不安になる。
この前、その事を友達に聞いた。
そんなことないと言ってくれた。
その瞬間、私の見えない両目は涙でいっぱいになった。
―――――
「さて…帰るか」
青年は欠伸をかき、眠そうな目で学校を出た。
季節は夏――といっても少し気温が低い。
テレビの気象予報士が言うには、今年は冷夏らしい。
どちらかというと助かる。
夏特有の病に冒されずに済むからである。
学校指定である長袖のカッターシャツにズボン、それとカバン。
カバンの中身のせいで少々重たいが――それでも身軽だ。
今日は短縮授業だったので、いつもより早く放課となった。
グラウンドで暑苦しく部活をしている部活動生が見えるが、視線を逸らして歩く。
のんびり見ていると絡まれるので、それが面倒なのだ。
「…帰宅部が一番ラクだしな」
独り言を言いつつ再び欠伸をかき、さっさと帰路につく。目立つ行動は一切しない。
それが学園きっての目立ち嫌い――《嵩立 陽介》の生活スタイルだ。
十分ほど歩き、自宅まで残り数百メートルという場所で、陽介は不思議な光景を目にした。
三ツ又路で立ち往生する、一人の少女。
下を向いて、何やら慌てているようだ。
コンタクトレンズでも落としたのだろうか。
そう考えたときには、彼は少女に歩み寄って声を掛けていた。
「あの…どうしたの?」
困っている人を見過ごせない、陽介の性分。
その声を聞いて、少女はこちらを向いた。
「ええっと…ヘアピンを落としてしまいまして、探しているんです」
ヘアピンを落として、探してる?
それはおかしくないか?
だってそれは――足下にあるじゃないか。
陽介はヘアピンをひょいとつまみ上げ、少女へと告げる。
「あったよ、ヘアピン」
「あっ…ありがとうございます」
少女は再びこちらを向いた。
しかし少女のその目は光が無く、陽介を暗く映し出していた。
そこで、彼は異変に気付いた。
「君…ひょっとして」
「はい、私…目が見えないんです」
少女は光の無い両目を薄めて笑みを作った。
「なんだ…そうなのか、大変そうだね」
陽介は興味深そうにその目を見つめた。
いつも相手の目を見て話すようにしているので、彼にとってそれは何ら恥ずかしいことでは無かった。
しかし相手は盲目なので、効果は薄い。
「あの、私の顔に何か…?」
そうでもなかった。
少し困ったような声で少女が尋ねる。
これは悪いことをしたと反省する陽介。
「あ、ごめん…盲目の人を見るのって初めてだったから、つい。でも、何で俺が君の顔を見てるって判ったの?」
謝罪と、質問。
質問に対し少女は明るい口調で喋る。
「声を発した時の、音や空気の跳ね返り…と言ったら理解できるでしょうか」
彼女の答えを聞いて、陽介は驚いた。
――何かすごいけど、何じゃそりゃ。
勿論そんな事を言うわけにもいかず、そうなんだ、と返す。
人助けをすることも出来たし、もうここに居ても仕方ないと思った陽介は告げる。
「じゃあ、俺はこれで。いい体験ができたよ、ありがとう」
そう言って、彼は足早に立ち去ろうとする。
「あ、あの……っ」
しかし少女がそれを呼び止めた。
「…え?」
陽介が振り返り、その前髪が揺れる。
少女は少しうつむき、三秒ほど経ってから口を開いた。
「嵩立陽介さん…ですよね?」
彼女の言葉に、陽介の思考は一点へ集中した。
その直後にはそれが口をついて出ていた。
「何故…俺の名前を?」
夏の日差しが、少し傾き始めた。




