送り火
八月十六日が、終わろうとしていた。
暗い。
暗い道を幾つもの光がぼんやりと進む。
それは、提灯を持った人々。
家に還って来た死者たちを送る灯はどこまでも美しい。
その他に、私の瞳に映る者。
それは、送られ今まさに還ろうとしている死者たち。
視えない人は、それに気づかない。
でも、知ってはいる。
お盆が終わろうとしていた。
お墓につくと、少しだけ周りが明るかった。
煌々とついた電灯に、カブトムシや蛾がたかっているのが見える。
ちょっとだけ頬をひきつらせながらもヒトミさんの後を追った。
「そういえば、ヒトミさん」
「なにかしら?」
「お父さんって、どんな人だったの?」
「え?」
いきなりの質問に、ヒトミさんは首をかしげる。
「どうしたの? いきなり」
「いや、だっておじいちゃんとかおばあちゃんとかはよく来るけど、お父さんって一度も来たことないから、どういう人だったんだろうなー……って」
そう、おじいちゃんとかおばあちゃん、他にもひいおばあちゃんとかなら来たことがある。でも、お父さんだけ来たことがない。
いつも、それを疑問に思っていた。
もしも来たら、視ることも話すこともできる。
でも、今まで一度も来たことがない。
「そうね……どうしてかしら?」
「……」
「もしかしたら、恥ずかしかったのかもしれないわね」
「恥ずかしかった?」
自分の娘に会うのに、恥ずかしいとかある……のかもしれない、か。
こんな様子じゃ、成人しても来てくれなそうだ。
歩いて行くうちに、なにやら音楽が聞こえてきた。
毎年恒例の、盆踊りだ。
たぶん、やっぱり毎年のようにリコと賀茂君が来ているのだろう。今年はヤヨイもいるかもしれない。
離れた場所の影では妖怪たちが隅で遊んでいるのだろう。
「先に行ってていいわよ」
「えっ、でも……」
「少しだけ、ここにいたいの」
「?」
なんか、あったのだろうか。
疑問に思いつつも、その言葉に甘えることにして盆踊りの会場へと向かった。
ここから少しだけ歩いたところにある、公園へ。
八月十六日はこうして終わった。
「さてと……」
一人、墓石の前に倉掛史美は立っていた。
墓石の後ろに書いてある、名前をみる。
鈴城悟史
「それにしても、今年はどうしたの。いつもは八月入ってからゆっくり来るのに」
いろいろあって、間違えてしまったんですよ。まぁ、おかげでハルキの学校生活見れましたけど
「あら、ストーカーって言われちゃうわよ?」
なっ
「それに、今年は会ったのに父親だって名乗らなかったのでしょう?」
そ、それは……っ、そのっ
「まったく、私の弟はどうしてこうも恥ずかしがり屋なのかしら?」
だって、なんかこう、年頃の娘に二十代前半の人が自分が父ですっていうのはずかしいじゃないですかっ
死んだ時の年齢のままだから、仕方ないのですが……
「だったら、もうちょっと早めに会っておけばよかったんじゃないかしら?」
そ、それは、その……
「……まぁ、おねえちゃんは陰で見守っているから、今度はちゃんというのよ?」
ぜ、善処します
この世界には妖がいて、魑魅魍魎がいて、精霊がいて、死霊がいて。
それを知らない人や、視ることのできない人ではまるで独り言を言っているかのような会話。
視える人なら、いつの間にかいた青年の霊との会話だと気付いただろう。
「……さようなら、サトシ」
じゃあ、また来年。
八月十六日、その日。ハルキのお盆は終わった。
ちょっとした秘密は、来年に持ち越されて。
八月十六日までに出会う妖怪とのお話し。
fin




